第18話

「我ら音竜ソニックドラゴンは、今、繁殖期なのです」

「ほーん」

「繁殖期になると、つがいとなったオスとメスが共に世界を渡り、巣に適した地を探します」

「へー」

「適した地を見つけたら、そこに巣穴を掘り、卵を産み、子育てを行います。山や巨大樹の中腹に作ることが多いです」

「あっそー」


 ドラゴンが事情を説明しているけど、ボンちゃんはほとんど聞いていないっぽい。どうでもいい感が溢れまくっている。


 繁殖期ねぇ。そりゃドラゴンも生き物だから、繁殖しても不思議じゃない。

 ファンタジーだと『永遠の命を持ってる』とか『古い身体を捨てて卵から産まれ直す』なんて設定のこともあるけど、この世界のドラゴンは普通にオスメスがいて繁殖するらしい。

 それよりも、巣穴を巨大樹に掘るとか言ってたな。ドラゴンが巣穴を掘れるくらいの巨大樹。

 それって、もしかして世界樹ってやつ!? 興味が湧くな! ワクワクだ!


「孵ったばかりの雛は弱いので、守るためと餌の確保として、周囲の目立つ魔物を狩るのです」


 まぁ、生き物として当たり前の繁殖期の行動だな。逃げるか、狩るか。子育てをするタイプの生き物は、このどちらかを選ぶのが普通だ。

 なんだ、意外と普通だな、ドラゴン。もっとファンタジーな生き物かと思ってた。


「今回も、強い魔力をふたつも感じ取ったので排除せねばと思い……申し訳ありませんでした」

「ふーん……あ、終わった? もう言い残すことはない? 辞世の句はいいの? 干し柿喰う?」

「ふぁっ!? じ、辞世の!?」


 おおう、ボンちゃんは許す気ゼロだな! しかも干し柿って、それどこの戦国武将の逸話だよ!? 首切る気満々じゃん!

 ちょっと口を挟んだほうがいいかな?


「えっと、辞世の句っていうのは、遺言や死にゆく心境を五・七・五の音の短い言葉にまとめたものだよ」


 おっと、こっちじゃなかった。でもまぁ、いいか。

 なんか最近、ボンちゃんに毒されてるかもしれないな。


「遺言!? いや、ここは『繁殖期なら仕方ない』と許す場面では!?」

「うーん、僕もそうかなぁとは思うんだけどね?」


 どんな生き物でも、子育て中は過敏になるものだからなぁ。多少は斟酌してあげてもいいかなぁと思うんだけど。


「騙されんなビート」


 ボンちゃんの怒りは収まってないんだよなぁ。


「コイツ自身がさっき言ってただろ? 『脅威は排除して餌だ』って。こいつ、俺らを喰うつもりだったんだぞ?」

「ああ、そう言ってたね」

「そっ、それは……」

「自分は殺して喰うつもりだったけど、相手が予想より強かったので命乞いして見逃して欲しいです? それはちょっと都合が良すぎるんじゃねぇか?」


 ふむ、一理ある。弱肉強食が自然界の掟なんだから、勝てば喰い、負ければ喰われるのが自然の摂理だ。それに従うのなら、このドラゴンが生き残る道はない。


「だいたい、お前、最初の体当たりで俺たちを殺る気だったろうが。俺とビートじゃなかったら死んでたぞ?」


 ボンちゃんは何もしてないけどねー。俺の【平面魔法】で受け止めたんだけどねー。


「そういうことで、お前の未来は肉だ。潔くステーキになって、俺たちの腹に納まれ」


 じゅるり


 ああ、どうしても喰いたいのね、ドラゴンステーキ。



「まぁまぁ、待ちなよボンちゃん」

「んお? なんでだよ、俺はもう待てないぞ! 早くそいつの肉を食わせろ!」

「ひ、ひぃいぃっ!」


 残念ながら、今の俺にはこのドラゴンを捌く手が無いからな。豆なので。

 解体はビートに頼むしかない。今、こいつをステーキ用の厚切り肉にできるのはビートしかいない!


「いや、僕もドラゴン肉には興味があるんだけどさ。非常に興味があるんだけどさ」

「ひ、ひぃいぃっ!?」


 ビートがドラゴンの全身を舐め回すように見る。

 うん、尾の身も美味そうだよな。モモ肉もバラ肉もクラシタも美味そうだ。セセリはやっぱネギぽん酢かな?

 あっ、モツ! モツもいいよな! 特にレバー、レバ刺し!

 俺が物心ついたときには、日本じゃレバ刺しは食えなくなってたからな。一度食ってみたいと思ってたんだよ。

 それがまさか異世界で、しかもドラゴンのレバ刺しが食えるなんて……じゅるり。


「ひいいいいいいいいぃぃぃっ!?」

「まぁまぁ、待ちなって、ボンちゃん」

「なんだよ、何を待てっていうんだよ! 俺はイヌじゃないぞ! ワンワン!」


 おすわりもお手もできないからな! 豆に手はないのだ!


「そこの負けドラゴン、お前、繁殖期は何回目?」

「ひぃ……え? あ、初めてです。なので、張り切り過ぎてしまいました。申し訳有りません……」

「ふむ。それで、今育てている雛は何頭?」

「えっと、一頭だけです。ドラゴンは寿命が長いので、あまり多くの卵を産まないのです」

「なるほど。で、その雛が独り立ちして繁殖期になるには、どれくらいの時間がかかる?」


 んん? これは、ドラゴンの生態調査か? 本人、本竜から直接聞き取りをしている?


「ええっと、種によると思いますけど、我々音竜はだいたい五十年くらいですかね?」

「一人前になるまで五十年!? 寿命は何年くらい? お前は何歳なの?」

「自分は九十三歳です。嫁と出会うのが遅かったもので。寿命は大体三百年くらいですかね? 長生きしても四百年くらいだと聞いてます」


 ほほう。永遠に生きるとかじゃないんだな。成獣になるまでが長いみたいだし、単に成長が遅いだけか。


「あれ? ゴブリンたちは、ドラゴンは百年くらい前に住み着いたって言ってたような?」

「あっ、それ一番上の姉貴です。もう繁殖しないからって、場所を譲り受けたんです」

「ほーん」


 姉貴のお下がりってわけか。ドラゴンも俺等と変わらんのかもな。スケールが家レベルでデカすぎるけど。

 ビートはずっと何か考え込んでるな。何か問題か?


「どうしたよビート?」

「ボンちゃん、だめだ。コイツラは食えないよ」

「な、なにぃっ!? 食えないって、どういうことだよ! こんなに美味そうなのに! 説明しろ!!」


 納得できねぇな! 頭が納得しても、俺の腹が納得しねぇぞ! 頭も腹も無いけど!


「こいつら、ワイバーンと同じで絶滅危惧種っぽい。意図的に繁殖させないと増えないよ」

「ぅえっ、マジで!?」

「成長が遅いうえに、一回の繁殖で一頭しか産まないらしいじゃない? ちょっと少ないよね。それだと、生涯で三頭くらいしか産めないんじゃないかな?」

「うーん? 言われてみたら、人もそんな感じだよな」

「そうなんだよ。その上、自然界じゃ不意に命を失う危険があると考えたら、二頭の番が三頭産んでも、ちゃんと成獣にまで育つのは一頭か二頭だと思うんだよね」

「ふむふむ、なるほど」


 自然界の厳しさは、身を持って思い知ってるからな。伊達に二回もまるかじりされてないぞ。


「ということは、今もギリギリで種を保っている状態だと思うんだよ。もしそれが狂ってしまったら……」

「あっという間に絶滅、か。過去の愚人の轍を踏むのは業腹だな」

「そういうことだね」


 ドードーやらリョコウバトやらニホンオオカミやら、人間の愚行で絶滅した動物は多いからなぁ。

 それを知っている俺たちが、愚行を繰り返すわけにはいかないよな。


「くそぅ、美味そうだったのに!」

「しょうがないよ。自然を破壊したら、そのしっぺ返しは僕らが受けるかもしれないんだしね」

「ぐぬぬぅ〜」


 しょうがない、か。こいつが死んだことがきっかけで、ドラゴンの滅亡が始まるかもしれないって言われたらなぁ。その引き金を引くわけにはいかないよな。

 非常に、非常〜〜〜〜にっ! 惜しいけどな!


「せめて一口、尻尾の先だけでも! 先っちょだけ、先っちょだけだから!」

「ひぃいぃいぃ〜〜〜っ!?」

「だめ」


 ちぇっ。

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