3/28:値千金の時間たるもの

3/25

午前の出来事

・言っていたとおりと言いますか、遠征……(?)に行きました。午前中は先生が「やってみるか?」と言っていたのに反応できず、後ろから見学。前回やり方を頭に叩き込んでいたつもりだったのに、案外ぱっと行動できるものじゃないですね、やっぱり。けれども、研究室の教授の方が面白い論文を持ってきてくれたらしく、先生はうっきうき、私たちも来年の道標しるべが見えたので万々歳ってところですかね。


午後の出来事

・学食のねぎとろキムチ丼おいしかった……ってのは置いておいて。午後は私もちゃんと観察の方に参加できました。別に後ろで見ているのが学びじゃないとは思いませんけれど、だけどやっぱり実践と見るのとは違う。百聞は一見に如かずならぬ、遠見は実行に如かずとでも言うか、実験ノートの取り方をこの身に叩き込んできた……つもりです。

 実験ノートはボールペンで、これは数か月前まで自分が知らなかった当り前。夜のミーティングでも出たけれど、人間は人と比べていないと生きていられない、けれどもどうせ比べるならば他人ではなく過去の自分と比べた方がきっといいものだ。そして、今日改善点を見つけた、これはきっと未来の自分が今日の自分を越えていくための足掛かりとなる。嗚呼、行った価値があった、ってね、やっぱり思いますよ。



3/26

午前の出来事

・ほっ、良かった。寝坊して一人だけ取り残されるなんてことにな梁ませんでした。朝起きて音楽を聴いて、マグカップ(猫舌だから冷やしたお茶)を呑みながら日記を書く。……ふふ、理想的ですね。

 ありがたいことに昨日でやるべきことがすべて終わってしまったので午前中で帰れてしまいそうなスケジュールになりました。短かったけれど、濃かったです。


午後の出来事

・……濃かったんです、そう、濃かったんですよ。だから疲労感が半端じゃない。家に帰ったら頭がぐわんぐわんして、そのままぐーすかぴーです。

 でも、機器の仕組みだとか、実験ノートの取り方だとかを纏めなきゃな。そろそろ自分たちの学年から幹部が出て来て、主体になっていくんだから、自主的かつ、報連相をほったらかしにしないような動き方を出来るように頑張ろう。


2/27

午前の出来事

・さーあ、たまっていた塾の講座を消費していこうじゃ無いか。さ、問題解いて解いて。

 ……あれ、こんなに椅子に座れなかったっけ。やっぱり前の二日間立ちっぱだったのがきいてるのかな。


午後の出来事

・YouTubeって怖い。なんだか、喪失感がもの凄いですね。やっぱり私の味方は紙だ、YouTube開いてるくらいならプロット書くなり課題やるなりした方が楽しい。……それ以前に動きたくなくなっちゃうんだけど。

 きっと手元にデバイスさえ無ければ開かないんだろうなぁ。


3/28

午前の出来事

・まー、今日も今日とて勉学に励みましたよ……なんて言いつつ途中でお昼寝ならぬ二度寝を繰り返しながらですけれど。

 うん……夜ちゃんとやろ。


午後の出来事

・マイナンバーカードを作りに行きました(実は更新だったらしい)。けれどもあれ、パスワードさえ初めに決めておけば一瞬で終わるんですね。予定よりもすぐに終わった物だから、その足で親と近くの図書館へ。

 そうしたら、いみちぇん 廻 が入っていたんです! いつの間にっ!

 やー、楽しみですね。春休み中に届けよー、そして心残りの無いよう課題と予習をやるぞーっ!


<値千金の時間たるもの>

「じゃ、電車乗ろうか」

「りょーかい」


 スマホ片手の人や、鞄を二つ下げた人。私服でいいと言われたのに私含め5人のうちの3人は制服だった。

 今私の周りにいるのは、同じ部、同じ班員の4人。

 そして、今日一日を共にお世話になる4人。


 今日は私にとってまだ二度目の、県外活動の日。


 エスカレーターに乗って、先生が乗る約束の先頭車両のりばに歩く。

 駅の写真を撮る者に、こんな時まで英単語帳を開いている者。

 千差万別で、ちょっと変。……気負った私がちょっと恥ずかしいくらいに、みんな自由。

 息込みすぎたかな?


 電車はちゃんと時間通りにやってきて、案の定電車の中は込んでいて。

 ……うん、いつもの通勤電車。確かに今日は普通の平日だったっけ。


 ぷしゅー、ぷしゅ。扉が閉まって景色が後ろに流れだす。


 私の思っていた数倍もぬるりと、特別な一日は始まった。


◇◆◇


 ……始まる前からちょっと疲れた。


 あれぇ、こんなのだったっけ。

 前回は高揚感が押し倒していた疲労感が、今回は私に牙をむいて。電車にバスと、かなりの時間たちっぱなしだったから足が痛い。まぁ、おかげで誰かが楽できているんだと思えば心も晴れるっていうものだけれど、私若いし。


 なんていうことを考えながら、裏門のくせして自分の高校がみすぼらしく見えるほど立派な石造りの門をくぐって、目的の研究室へとてくてく歩いていく。


 研究室の中にある、使わせてもらう機器が豪邸1,2件分だと聞いたときは驚いたなぁ、なんて。

 そんなこと言っている以前に今は集中。今というこの時を大切にしなきゃ。


 研究室に入って早々、今回面倒を見てくれる大学院生の方が先生と話し始める。

 その間に前回主体となって観察をしていた2人はもう測定機器の前にいた。


「誰か、やる?」


 気が抜けていたのだろうか、それとも今日の自分が嫌な奴なのだろうか。先生がこちらを向いてそういった時、私は肩を震わせるだけで何も言うことができなくて。


 やります。


 今回初めて参加した新たな班員の女子が、元気な声でそう言った。

 胸は確実に検査機器の方へ引っ張られているのに、何もできない。むしろやる気を燃やしている新たな班員が、眩しく見えた。


 ……やっぱり今日の私は、嫌な奴?


◇◆◇


「結果が出るのは……1時半ぐらいですかね」

「じゃぁ、それまでにご飯を食べてこようか」


 先生がそう言うと、若干空気が緩んだ気がした。立って、時々しゃがんで、少しでも初回の熱を手繰るようにありとあらゆる言葉をメモ帳に書き写す。どうか、どうかこの時を無駄にしないように。


 この大学の学食はおいしいことで有名らしい。

 今日食べたのは「まぐとろキムチ丼」。初めて見るけれど、そうそう来るような場所じゃないからこそ、ちょっぴり冒険をしたかったのだ。


 ご飯は大盛、大学芋を添えて。栄養バランスが怖いからわかめともやしのナムルも。

 ……おいしい。

 こんなに凹んでいるのに、こんなに自分を自分で塗り替えようとして醜くなっているのに、悔しいことにそのご飯はおいしかった。


 はぁ、なんだか馬鹿らしくなってきた。


「そこ、仲悪いの?」


 友人と斜め向かいに座っていたからだろうか、隣の机に集まった班員の人たちから、うっすら笑い声の混じったヤジが飛んで来る。


「別に、そんなことないよな?」

「ご飯は静かに食べたいし」


 そんなことを言いながら、私は来年の部活についての話題を振ってみる。

 あの同級生に頭の螺子が数本締まった人が来ると嬉しい。あの人みたいな下級生が来るといいや。

 ここがいつもの教室じゃないせいか、不思議と話は盛り上がっていく。


 やっぱり、無駄にしたくない。


 ぷつり、何かが吹っ切れた音がした。


◇◆◇


 お昼休みが終わり、席を譲ってくれた午前組の人たちに代わって、私は記帳の席に着く。もちろん実験ノートの記述なんてやったことはないけれど、やっぱりここまで来てもどかしい思いをするのは嫌だ。

 我儘だけれど、綺麗なものは書けないかもしれないけれど、こうしたい。


 実際注意される点ばっかりだけれど、その時は確かに有意義だった。


 そう、確かにそれは、来た意味があったと思わせてくれる時間だった。


 値千金の時間たるもの、きっと私の意志の中にあり。

 だからこそ願わなければ手に入らない時間を、その時の精一杯で手繰り寄せてみる。


 いくらか本調子じゃなくて、そんな自分に嫌気を覚えて行動できた、そんな一日。

 明日はどんな日になるのかな、でもとりあえず今日は、おやすみなさい。


◇◆◇


 面倒、気が引ける、だけでやらなかったときの喪失感ってすごいんだなぁって、思いました。

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