第5話 最前線部隊③

 皆さん、どうしたんだろう。


「……っ!」


 も、もしかして。

 いくら全力って言っても、敵が近くに居る最前線でこんな目立つ魔法を放ったりしたらダメだったかな?

 というか、対人訓練で使っている森の木々を吹き飛ばす。

 つまり、対人訓練の場を壊してしまうなんて……


「す、すみません!最前線でこんな目立つ魔法を使って、挙げ句の果てには最前線という訓練場を見つけるのが難しい場所にある訓練場を壊してしま────」


 言いながら、頭を下げかけた。

 その時。


「テ、テラウォードくん、すごい……!」

「……え?」


 お一人の言葉を皮切りに、皆さんが一斉に言葉を発し始める。


「何あの魔法……!」

「テラくん魔力すごくない……!?」

「とんでもなかったであります!」

「本当に訓練生……!?」

「テラウォードくん、あんな顔できるんだ……」

「普段可愛いのに、真剣な時カッコよくなるのギャップでやばい……」

「え、えっと……」


 雰囲気的に、おそらく褒めてくださっているんだろうことはわかるけど。

 皆さんが一斉に言葉を発し始めたから、僕は一体どうすれば良いのかわからなくなってしまった。

 ……こういう時は、エレナさんに助けを求めよう。

 そう思い至った僕が、エレナさんの方を向くと────


「フィンくんカッコいい〜!あんなすごい魔力持ってたんだ!気配の消し方とかからもすごいのはわかってたけど、元々の魔力とその魔力を上手に扱う魔法の方も頭に入ってるんだ〜!ていうか────」


 そこでは、エレナさんが初めて会った時のように、僕には聞き取れないほどの高音かつ早口で、何かをまくし立てていた。

 エ、エレナさんまで……!

 ど、どうしよう。

 こうなると、本当に僕にはこの場をどうすることもできない。


 僕が皆さんのことを見渡して、何か言葉を発そうとするも何も出ないでいると。

 セフィアさんが、僕の方に近づいてきて。


「フィンさん。先ほどの一撃は、とても見事なものでした」

「セフィアさん……!ありがとうございます!」


 セフィアさんの表情が、先ほどよりも少し優しくなっている。


「あの、とても訓練生の方とは思えないほどの力を見せられては、この最前線部隊への入隊を認めないわけには参りませんね」


 そして、と続けて。


「先ほどは、フィンさんのお力を知らないがために、余計なことを言ってしまい大変申し訳ございませんでした」

「と、とんでもありません!」


 むしろ。


「僕の力がどのぐらいなのかを皆さんに知っていただける良い機会になったので、セフィアさんには本当に感謝してます!」

「っ……!」


 伝えると、セフィアさんは少し間を空けてから、小さく微笑んで。


「まさか、感謝の言葉を伝えられることになるとは、思いもしませんでした……あなたは、本当に不思議な方ですね」

「……」


 最初は、セフィアさんはかなり厳格な雰囲気の人なのかな。

 なんて思っていたけど。


「僕は、まだまだ自分自身のことはわかりませんけど……セフィアさんがお優しい方だということは、話していてわかりました」

「っ……!?」


 セフィアさんが、驚いたように目を見開くと。


「────そうそう!セフィアちゃんって、本当優しいんだよね〜!」


 いつの間にか普段通りの様子に戻っているエレナさんが、セフィアさんの隣に立って。


「さっきのだって、本当はセフィアちゃんがフィンくんに傷付いて欲しくないと思ったから、もし力が無かったらまだ最前線に来るのは早いからって最前線から遠ざけてあげたかったんでしょ?これがもし軍の他の男とかだったら、わざわざ忠告なんてしないもんね〜!」

「……エレナさん」

「あと、さっきフィンくんが魔法打つ準備してる時、フィンくんの男の子らしい真剣な顔つきに見惚みとれて────」

「エレナさん……!お願いですから、これ以上フィンさんの前で余計なことを言わないでください……!」

「え〜!でも────」

「それよりも、口を挟んでしまった私が言うのも何ですが、元々拠点に帰りフィンさんに拠点内部を案内して差し上げる予定だったのでは?」

「あ、そうだった!」


 思い出したように言うと、エレナさんは未だ何かを言い続けている部隊の皆さんのところへ足を進める。

 そんなエレナさんの背中を見届けたセフィアさんは、どこか恥ずかしそうに頬を赤く染めながらも安堵したように一息吐いていた。


「セフィアさん……?どうかしたんですか……?」

「っ!い、いえ、なんでもありません……」


 それから、一度咳払いを挟むと。

 セフィアさんは元の顔色に戻り、僕に優しく微笑みかけてくれながら。


「フィンさん、先ほどはご迷惑をお掛けしてしまいましたが、私もあなたのことをこの最前線部隊に歓迎します。これから、よろしくお願いします」

「っ……!ありがとうございます……!僕の方こそ、よろしくお願いします!」


 セフィアさん。

 エレナさんとは違って、というと失礼に当たるかも知れないけど。

 かなり真面目な方……でありながら、今僕に優しく微笑んでくれているように、とても優しい一面もあるみたいだ。

 ……セフィアさんだけじゃなくて、この部隊の皆さんの色々な一面をこれから見て、知っていきたいな。


「は〜い!みんな〜!今度こそ、一旦そこまでにしてフィンくんと一緒に拠点に帰るよ〜!」


 エレナさんが、今なお何かを言い続けていた皆さんに向けて大きな声で伝えると。


「は〜い!」

「了解であります!」

「わかりました」


 皆さんが頷いて返事をしたため、僕たちは最前線の拠点であるあの塔へ向けて足を進めた。

 この森から最前線の拠点まではあまり距離が無いため、すぐに最前線の拠点前に到着すると。

 エレナさんが、一度足を止め、僕を含めた皆さんの方に振り返って。


「私はこれからフィンくんにこの拠点の中を案内するけど、みんなは訓練で疲れてると思うからいつも通りご飯にしたりお風呂入ったりしてて良いよ!」

「えっ!?ちょっと待ってください、エレナ先輩!」

「それ、エレナ先輩役得すぎません?」

「私もテラウォードくんに案内とかしてあげたいですよ!」

「みんなの気持ちはわかるけど、訓練で疲れてるみんなには、実戦にも備えてちゃんと体休めてほしいんだよね〜」


 言いながら、エレナさんは僕に近づいてきて。


「フィンくんも、疲れてるみんなには、ちゃんと疲れが取れるように休んでほしいって思わない?」

「もちろん思います!」


 ただでさえ実戦もあって疲れているのに、訓練まで。

 もし休みを取らずに動き続けたりしたら、体に疲れが溜まって、実戦になった時大変なことになってしまうかもしれない。


「僕のことは気にしなくて良いですから、皆さんは体を休めてください!あっ、でも食べすぎたりすると後が大変かも知れませんし、お風呂上がりは湯冷めしてしまわないように気をつけてくださいね!」


 僕がそう伝えると。

 皆さんは、なぜか口元を緩めて。


「わかった〜!」

「心配してくれてありがとね、テラウォードくん!」

「体休めたら、いっぱいお話ししようね」

「はい!是非お願いします……!」


 思わず嬉しさを声に滲み出しながら伝えると────


「ねぇ、本当にこれからどうするの……!?」

「私、今ので疲れ無くなったかも……」

「良い子すぎるし可愛すぎるんだけど……!」


 皆さんは、塔の中に入って行きながら。

 僕には聞こえない声で、何かを呟いていた。


 やがて。

 僕とエレナさん以外の皆さんが塔の中に入ると。

 エレナさんは両手を後ろに回して、優しい表情で言った。


「また────二人きりだね、フィンくん」

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