第3話 レベル
目が覚める。寝ぼけ眼をこする。周囲の景色を見る。顔を青くする。慌てる。自分の体を確かめてホッとする。
「よ、よかった。なんにもなってない……」
穴の中でいつのまにか寝てしまった慎太郎は安堵したように肩を落とす。寝ている間に魔物に襲われると言うことはなく、そのことに安堵したのだ。
しかし状況はそれほど変わっていない。食料の問題がなくなったというだけで、自分がひりぼっちで誰も助けてくれそうにないという状況は変わっていない。
「ど、どうしよう。どうしたら……」
穴の中で身を縮めながら慎太郎はグルグルと考え、お菓子に手を伸ばすように近くにある石を手に取り、口に入れようとしたところで手を止める。
石。じっくりと石を確かめる。
「そう言えば、自分の能力が確認できる、って言ってたっけ」
思い出す。ここに来る前に女神が言っていたことを慎太郎は思い出す。転移者の特典として自分の力を確認することができると言っていたことを思い出す。
「えっと、ステータス」
慎太郎の目の前に半透明の画面が浮かび上がる。それを見て一瞬びくっと慎太郎は驚く。
「本当に、出てきた。えっと、名前は、石井慎太郎。レベルは……20?」
レベル20。確かにステータス画面にはそう記されている。慎太郎はその数字に首をかしげる。
「確か、女神様はレベル1スタートって言ってたはずだけど……」
レベル。この世界にはレベルが存在する。しかし、この世界の人間はそのことを知らない。知っているのは神と異世界に召喚された者だけ。それを確認できるのも神様か召喚された本人だけだと女神は言っていた。
「変だな。間違ったのかな」
なんとなく気になりながらも慎太郎は他の項目も確認していく。そんな中、慎太郎は漫画を読みながらお菓子を食べるように、近くに転がっている石を手に取って食べた。
「……え?」
慎太郎は石を噛んで飲み込んだ。するとそれと同時にレベルが21に上がった。
「どういう、こと?」
レベルが上がった。それはわかる。しかし、女神の話と違う。
レベルは魔物を倒すことで上がると女神は言っていた。魔物を倒すことで魔物が持っている『魔素子』と呼ばれる力を取り込むことでレベルが上昇する。
慎太郎はレベルだけでなく他の項目も確かめていく。するとついさっき見たときよりも能力が上昇していた。
「もしかして、この石は、魔物?」
わからない。慎太郎はあたりを確認する。
「それとも……」
慎太郎は怖がりながらも石を一つ手に取る。そして、食べる。
「上がった! レベルが上がった!」
石を食べるとレベルが上がった。慎太郎はもう一度確認するために本日三つ目の石を食べた。
するとやはりレベルが上がった。
「23。これって、低いのかな?」
まだはっきりとはわからない。もしかしたらこの森の石は魔物なのかもしれないが、石を食べるとレベルが上がることがわかった。
「わからないけど、上げよう。上げたほうがいい、よね」
一般的なゲームの中では23というレベルは低い方だろう。ゲームによってはラスボスを倒す際に50や60という場合もある。
ならば、と慎太郎はさらに石を食べ続ける。しかし、合計で十個ほど食べたところでお腹がいっぱいになってしまった。
「ダメだ。入ってかない。これが限界なのかな」
慎太郎は満腹になったお腹をさすりながら自分の恩恵『石食い』のことを考える。
「女神様は、言ってなかった。けど、もしかしたら、石食いには、いろいろと知らない力があるのかも」
石食い。その文字だけ見ると何が何だかわからない能力だ。しかし、もしかしたらとんでもない力かもしれない。ゲームが基準になってしまうが、ゲーム内でレベルを上げるには何体もモンスターを倒さなくてはならない。
だが、石食いの能力が『石を食べるとレベルが上がる』と言うものならこれはかなりとんでもないものだ。なにせ魔物を倒さずにそこらに転がっている石を食べればレベルががるのだ。
「試してみよう、いろいろ。うん、いろいろ」
恩恵。自分に与えられた力。慎太郎はその力を確かめようと心に決めたのだった。
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