石を食べただけなのに……~女神様から授かった雑魚恩恵『石食い』は実はぶっ壊れチートでした~

ハイパーおはぎ

第1話 異世界に落とされて

 これはある少年が魔王になる物語である。


「あなたで最後です。さあ、選びなさい……。と言ってもこれしかないのですが」


 ある日の授業中、石井慎太郎いしいしんたろうは謎の光に包まれ、気が付くとクラスごと知らない場所にいた。


 そこは何もない空間で、そこには『女神』を名乗る存在がいた。その女神によると慎太郎たちはクラスごと異世界に召喚されるらしく、その前に一人ずつ女神から『恩恵』が渡されるらしい。


 ただし、一人につき恩恵は一つだけ。用意された恩恵は人数分しかなく、誰が何を手に入れるかは早い者勝ちだという。


「ぼ、ボクはあとでいいよ……」


 結局、順番はじゃんけんで決めることとなった。女神とじゃんけんをして勝った者から恩恵を選ぶ、ということとなったのだ。


 だが、慎太郎はその争いに加わらなかった。戦いから逃げ出した。もし自分が勝ったとしても恩恵を選ぶことができないだろうな、と思ったからだ。


 女神が用意した恩恵の中には『勇者の力』や『聖女の力』『大剣聖』『大賢者』など見るからにすごそうな物があった。しかし、自分が勝ったとしてもそんなすごそうな物なんて選べない、と慎太郎は思ったのだ。

 

 理由は怖いから。周りの目が、周りの反応が怖くてきっと選べないと思ったのだ。自分なんかが勇者や大賢者なんて相応しくない。もし、それを選んだら皆から非難されるかもしれないと怖くなったのだ。


 慎太郎は高校一年生だ。周りからは『優しく』て『謙虚』で『大人しく』て『穏やか』だと言われていた。


 けれど実際は違う。慎太郎は優柔不断で揉め事が苦手で押しが弱くて気が弱いだけだ。クラスの中でも目立たず、いじめられることもいじられることもないが、誰からも相手にされない空気の様な存在だった。


 そんな自分が目立てば何を言われるかわからない。調子に乗るなと罵られ、怒鳴られるかもしれない。そう思うと慎太郎は怖くて、最初から戦うことを放棄した。


 そして、もちろん彼は一番最後になった。


 一番最後まで残されていた恩恵は『石食いストーンイーター』。その能力は『石を美味しく食べる』というものである。


「……本当によかったのですか?」

「な、なにが、ですか?」


 女神が問いかけ、びくびくしながら慎太郎は返事をする。本当に彼は怯えており、女神と一切視線を合わそうとはしない。


「これからあなたたちが向かう世界は、あなたたちの世界とは違う過酷な場所です。もしかしたらすぐに命を落とすかもしれない」

「……いいんです。ボクなんて、その」


 女神にさえ心配されている。憐れまれている。それがなんだか情けなくて、慎太郎は悲しくなった。それと同時に、なんとなく少しだけ嬉しかった。


 過酷な世界。そこなら簡単に死ねるかもしれない。何もない、情けない、どうしようもない自分。こんな自分は嫌だと思っても変わることができず、死にたいと思いながらも死ぬ勇気がなく、大人になれば変わるかもしれないと都合のいい希望を抱いている、どうしようもなくクズな自分が、苦しまずにあっけなく終わるかもしれない。


 自分で死ぬ勇気はないけれど、絶体絶命の状況に追い込まれれば。死ぬのは怖いけれど、どうしようもない状況ならば、と慎太郎はそんなことを考えていた。


 そして、その思考を女神に読まれていた。


「わかりました。いいでしょう。あなたをほかの者たちとは違う場所に転移させます」

「え?」


 慎太郎は顔を上げ、女神の顔を見てビクっと震え上がった。


「死にたければ死になさい。ですが、断言しましょう」


 女神は怒っているような、笑っているような、神々しくも禍々しい表情を浮かべて言った。


「あなたは生き延びるでしょう」


 そう言うと女神は慎太郎の頭に手を置いた。


「残り物には福がある。さあ、受け取りなさい」


 慎太郎の中に何かが流れ込んでくる。その流れ込んできた何かが恩恵なのだろう。


「あ、あの、恩恵の説明は」


 オドオドとする慎太郎に女神はニッコリと微笑む。


「あなたの様なうじうじした人間は嫌いです。なので、意地悪しますね」


 慎太郎の体が光り始める。それを見た慎太郎は慌て始める。


「め、女神様! め」

「創造神の加護の有らんことを」


 慎太郎は必死に女神の名を呼んだ。けれど女神はほほ笑むだけで何も答えてはくれなかった。


 そして、慎太郎は異世界に送り出されたのである。


「め、女神様! 女神様!」

 

 光に包まれ視界を失っていた慎太郎の目が晴れる。そして、現状を知る。


 そこはどこかの森の中。薄暗く、不気味な、黒い樹皮の背の高い木々が生い茂る森の中だった。


「な、なんで。めが」

「ギョアアアアアアアアアアアア!」

「ヒィッ!?」


 どこかから謎の獣の声が聞こえてくる。慎太郎はその声に顔を真っ青にして震え上がった。


「や、やだ。こんな、こんなところで」


 慎太郎は恐怖に震えながら周囲を見渡す。


 死にたい、なんて思っていた。けれど実際にそれを感じるような環境に陥ると途端にそんな考えなど消え去ってしまう。


 甘い。甘いのだ。慎太郎は思春期の甘ったれた少年なのである。


「だ、誰か。女神様……」


 誰か。誰も助けてはくれない。もちろん女神も助けない。


「なんで、なんでこんなことに」


 慎太郎は震えながら何かから逃げるに歩き始める。当てもなく、どうしていいのかわらす、ただ歩き始めた。

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