朝靄がまだ森の奥に残り、細い陽光が木々の間を縫うように差し込んでいた。


荷馬車の車輪がぬかるんだ道をゴトゴトと鳴らしながら、ゆっくりと森の奥へと進んでいく。


手綱を握るアールスは馬の首を軽く撫で、後ろを振り返りにやりと笑った。


「さてさて、ガロムの旦那!ヌタタ族の集落まであと1時間ってところです!」


ガロムは腕を組み、窓の外の深い森を眺めながら豪快に笑う。


「森に住む獣人たちか。懐かしいな! 戦場じゃなく平和な森で会うのはいいもんだ!」


ルルミアは揺れる馬車の縁に手を置き、緑の深みをじっと見つめながら問いかけた。


「……ヌタタ族の方々ってどんな人たちなのでしょう?」


アールスは目を細めて軽く肩をすくめ、愉快そうに口を開く。


「おや、旦那、ルルミアさんにはまだ話してなかったんですか?」


「すまん、すまん!そういえば話してなかったな!」


ガロムは大きな手で後頭部をガシガシとかきながら笑う。


「アールス、話してやってくれ!」


「任せてくださいよ!」

アールスは得意げに胸を張り、手綱を操りながら続けた。


「ヌタタ族は森に生きる獣人たちで、狩猟と採集が中心の暮らしで、昔は、人族と長いこと刃を交えてきた敵同士だったんですが、邪神アザトスが敗北した事により戦争は終結しました。」


「今となっては人族側の庇護下に入り、ライドレアス領内に残った集落は法によって守られています。」

 

「だからこそ、この森の獣人たちは安心して暮らせるんですが――他国ではまだ恨みつらみもあり奴隷として獣人を狙う連中がいて、子どもがさらわれる事件も珍しくないみたいです。」


「そういう意味では、この森の集落は数少ない“平和な場所”ってわけです」


ルルミアはわずかに眉を寄せたが、すぐに柔らかな微笑を浮かべた。


「そうなんですね……森の人たちが穏やかに暮らせるのは、とても素敵なことです」


ガロムは昔を振り返るようにし目を細めた。

「ヴァルグロリア大陸にいる獣人の戦士、奴らは強かった……夜の森を駆け抜け、獲物を仕留めるように敵陣を崩してきた、あいつらには何度も手を焼かされたもんだ」


森の奥で鳥の鳴き声が響き、風が木々を揺らす。


荷馬車は森の奥深くへと入り、次第に道は細くなっていった。


遠くで鹿の鳴き声が響き、風に揺れる枝葉のざわめきが耳に入り、まるで森がガロムたちを出迎えてくれているようだった。


アールスは前方を見据えながら軽く手綱を操った。

「この先の丘を越えたら、ヌタタ族の集落が見えてきますよ。昼前には着けそうです」


ルルミアは小さく頷き、ふと胸に手を当てた。

「平和な暮らしを守れるなら、私たちの力を少しでも役立てたいです……」


荷馬車はゴトゴトと揺れながら、森の中の小道をさらに進んでいった。


やがて、風に乗って微かに煙の匂いと獣の皮をなめす匂いが届きはじめる――ヌタタ族の集落が近い証だった………………。

  

祭りの通りは緑と金の旗と木の飾りで彩られ、太鼓の音や楽師たちの笛が軽やかに響き、人々は笑顔で行き交っていた。


アルウェンたちは屋台を覗いたり、飾り細工を手に取ったりと、しばし和やかな時間を過ごしていた。

 

――そのとき。


ドォンッ!!!

地面を揺らすような重い衝撃音が響き渡り、直後に人々の悲鳴が広場の奥から上がった。

色とりどりの旗が激しく揺れ、逃げ惑う人々が祭りの通りを逆流するように押し寄せてくる。


「……今の音、聞こえた?」

リリシアが目を細めて森の奥を見やる。


祭りの広場の奥、森へと続く門のあたりで、誰かが悲鳴を上げた。

ざわめきは悲鳴に変わり、次々と人々が屋台を倒しながら逃げ出していく。


血相を変えた露店の主人が叫びながら走り抜ける。

「出たぞ! 森の魔獣だ――ファントムタイガーだ!!」


「な、なんだ!?」

アルウェンが振り向いた瞬間、門を吹き飛ばすようにして現れたのは――


青白い炎をまとう、巨大な虎だった。

その姿はまるで炎の影が生き物の形を成したかのようで、瞳は氷のように冷たく、唸り声が耳を裂く。

 

「グォーーー!!」

虎が吠えた瞬間、青白い炎が地を這い、周囲の空気を歪ませた。


熱さではなく、幻影を見せるような炎。視界が揺らぎ、逃げ惑う人々の足取りが乱れる。


「ファントムタイガー……なぜこんな所に……!?」


ファリシアが目を見開き、息を呑んだ。

ファリシアは、この状況の異常さを即座に理解していた。


「本来なら、あれは森の最奥にある聖域を守るはずの幻獣です……人里に姿を現さないうえ、滅多に縄張りを出ないはずなのに……どうしてこんな場所に……!」


アルウェンが短く息を吐き、剣を構える。

「原因を考えるのは後だ。今はこいつを止めるのが先決だ!」


ファリシアは両手剣を抜き、金の髪をなびかせ戦闘の気迫を帯びる。


「勇者様、私が前を取ります! リリシアさんは援護を!」


「ええ、わかったわ!」リリシアは即座にファントムタイガーに向かって杖を構え、いつでも魔法を放つことができる用身構えた。

ファントムタイガーは低く唸り、再び咆哮を上げた。


すると、その姿が淡く揺らぎ――次の瞬間、3体のファントムタイガーが同時に飛びかかってきた。


「分身だと……!?」 アルウェンが剣を構えるより早く、左右からの牙が迫る。


リリシアが詠唱を終え、炎弾を放つが、右側の虎は煙のように消え、攻撃をすり抜けた。


「幻影……!これは少し厄介ね……」


「見極めが肝心です!」

ファリシアは素早く身を翻し、左側から迫る影の虎に斬撃を放つ。だが手応えは空虚で、虎は霧のように掻き消えた。


本体は1体――だが、幻影の牙と爪にも確かな衝撃がある、当たれば致命的だろう……


「リリシア、あの幻炎を散らせないか!?」

「風よ、彼らの幻を裂け――《疾裂風(スプリット・ゲイル)》!」


風刃が広場を横切り、炎の揺らぎを一瞬だけ裂く。


その隙に、アルウェンの視界に“本物”のファントムタイガーの影が映った。


「いたぞ……! ファリシア、右前のやつが本体だ!」


「任せてください!」

二人が息を合わせて踏み込み、剣閃と炎が幻を切り裂く。


本体の虎が低く唸り、青白い炎を大きく燃え上がらせた。  


ファントムタイガーはさらに低く唸り、炎をまとった尾を叩きつける。


地面に青白い炎が円を描くように広がり、広場を包むように炎の壁が立ち上がった。


「ちっ、囲まれた……!」

アルウェンが舌打ちし、剣を構え直す。


炎の揺らめきの中から再び3体の影が浮かび上がる。


幻影は先ほどよりも濃く、まるで実体を得たかのように足跡を刻みながら、三方向から包囲するようにじりじりと歩を進めてきた。


「これ以上、好きにさせるわけにはいかないな……!」


アルウェンは低く構え、視線を幻影たちに走らせる。


ファリシアは素早く二刀を交差させ、黄金の瞳で虎を鋭く睨む。

「右の側の奴は私が倒します、勇者様は左をお願いします!」


アルウェンは短く頷いた。 「了解だ!」


リリシアは詠唱を終え、杖の先に青白い光を集めながら声を張り上げる。


「炎の幻よ、その揺らぎを凍てつかせ――《氷鎖陣(グレイシャル・バインド)》!」


氷の鎖が地を這い、青白い炎の輪を一部凍りつかせた。

炎の揺らめきが鈍り、幻影の輪郭が一瞬だけ薄れる。


「アルウェン!ファリシア!今よ!」

「了解!!」

リリシアの叫びと同時に、アルウェンとファリシアが左右から飛び込んだ。


アルウェンの剣が左の幻を断ち切り、同時にファリシアの二刀が右の幻を袈裟斬りに裂く。

霧のように幻影が消え、本体の虎の唸りが一際強く響いた。


「グォーーーー!!!」

「そこだ――ッ!」

アルウェンが目を鋭く光らせ、ファントム・タイガーの真正面へ踏み込む。


本体のファントムタイガーは巨大な前脚を振り下ろし、幻炎の波を押し寄せさせる。

しかし、その炎はリリシアの氷鎖が打ち砕き、道が開かれる。


その瞬間、隙を見逃さなかったファリシアが軽やかに跳び上がり、二刀を交差させて回転しながら虎の首元へと斬撃を叩き込んだ。


金属のような硬い感触が手に伝わり、青白い火花が散った。


「ガアァアァ――!!!」

虎が咆哮を上げ、炎が四方へ飛び散るが、もうその体は揺らぎを失い、実体をさらしていた。


「勇者様!今です!」

ファリシアが叫ぶ。


アルウェンは体勢を低くし、足元の地を蹴って一気に踏み込む。

剣を逆袈裟に振り上げ、虎の胸を深々と貫いた。


青白い炎が吹き上がり、虎の瞳の光がゆらりと揺れて消える。

巨体が崩れ落ち、地に残った炎も霧のように消散していった。


広場には静寂が戻る。

遠くで震えていた子供たちが、恐る恐る顔を上げ始める。


アルウェンは剣を下げ、静かに息を吐いた。

「……やれやれ、厄介な相手だったな」


ファリシアは剣を納め、軽く肩を回して息を整えながら、わずかに微笑んだ。

「勇者様のおかげで仕留められました。私たち息が合いますね!」


リリシアは杖を下ろし、ほっと息をつくと口元にわずかな笑みを浮かべた。

「ふぅ……もう一度来られたら厄介だったわね。でも、これでみんなも安心できるはずよ!」


広場の周囲では、屋台主たちや避難していたサタルディアの人々たちが次々と戻り、三人に感謝の声をかけていた。


アールスの荷馬車が森を抜けると、丸太で組まれた簡素な門が見えてきた。


門の両脇には槍を持った大きな耳と尻尾を生やした獣人族の見張りが立っており、ガロムたちの荷馬車が近づくと、警戒するように耳を動かした。


しかし、その顔はアールスの姿を認めた途端にほっと緩む。

「……アールス殿じゃないか。久しいな」

「やあ、みんな元気そうで何よりだ!」

アールスはにかっと笑い、軽く手を振る。


馬車が門をくぐると、村の中には木の皮や枝を組んで作られた小屋が並び、焚き火の煙が空に薄く昇っていた。


獣の毛皮を干す匂いと、木の実を煮る甘い香りが混じり合い、森の奥にありながらも温かみのある空気が漂っている。


広場の中央には杖をついている年老いた獣人――長老らしき人物が立っていた。

白い毛並みと深い皺の刻まれた顔は、森の歴史を物語っているようだった。


杖をつきながらゆっくりと歩み寄り、ガロムたちを見上げると柔らかく笑った。


「ワシはここの長老をしておる、アーバルスじゃ、客人よよく来てくれた。森の道は大変だったじゃろう?」


「お気づかいどうも感謝する!しかしここの村はいい村だ、空気が新鮮で、村の住人たちも活気があるしな!」

ガロムは豪快に笑い、分厚い腕を軽く振った。


アールスは荷馬車から飛び降りると、長老に向かって軽く頭を下げた。


「長老さん、お久しぶりです。お話したいことがありまして……後ほど、少しお時間をいただけますか」


「ふむ、わかった。まずは旅の疲れを癒すといい。話はその後でゆっくり聞こう」


そのやり取りを見ていたルルミアは、小さな声で微笑んだ。

「……穏やかで優しい村ですね。少し安心しました」


そんな静かな空気のなか、獣人の子どもたちがガロムを見つけるや否や目を輝かせて駆け寄ってきた。


「おっきい……!森の熊みたいだ!」

「ガハハハ!熊よりデカいかもしれないな!」


ガロムは膝を曲げて目線を合わせると、子どもたちは笑いながらその腕にぶら下がった。


ルルミアはその光景を見て、目を細める。

「こういう日常が、ずっと続けばいいのに……」


村人たちは穏やかな笑顔で来訪者を迎え、広場では獲れたての獣肉を焼く香りが漂っていた。


アールスは村人たちと軽く挨拶を交わした後、ガロムたちに言った。


「少し長老と話があるんで、お二人は広場で休んでいてください!」


こうしてガロムたちは、どこか懐かしさを覚える村の空気を感じながら、しばし穏やかな時間を過ごすのだった。


村の中央にある広場では、獲物の肉を焼く香ばしい匂いと、木の実を煮る甘い香りが混ざり合っていた。

焚き火の赤い光に照らされる木造の小屋や、集まる村人たちの笑顔が、森の奥の村に暖かさを添えている。


ガロムは子どもたちに取り囲まれていた。

「ねぇ、おじさん!肩車してよ!」

「俺も!私も!」

「おう、肩車かいいぞ! よし、せーのっ!」

ガロムは4人の子どもたちをまとめて片腕で持ち上げると、子どもたちは歓声を上げた。


その豪快な笑い声に、獣人族の男が目を細めて笑う。

「あれほど大きな戦士というものは、子らにとっては珍しいんだろうな」


一方、ルルミアは焚き火のそばで手当てをしていた。

遊んでいる時に小さな擦り傷を負った獣人の少年の腕に、両手をそっと重ねる。

淡い光が指先から広がり、傷跡はたちまち消えた。

「もう痛くないでしょう?」

「うん! ありがとう、ルルミアさん!」

少年の目が輝き、母親が深く頭を下げた。


「おーい!ルルミア!」

ガロムが両肩に4人の子供を乗せ歩いてくる、そんなガロムを見たルルミアは焚き火に照らされながら笑みをこぼした。


夜の森はひんやりと澄んだ空気に包まれ、ヌタタ族の集落の中央では大きな焚き火が揺らめいていた。


子どもたちは焚き火の周りで笑いながら鬼ごっこをして遊び、大人たちは狩りの成果を囲んでささやかな宴を楽しんでいる。

平和な時間が、森の奥で確かに息づいていた。


ガロムは相変わらず子どもたちに囲まれていて、木の丸太を持ち上げてみて!という子どもたちの頼みを聞き木の丸太を軽々と持ち上げた、すると子どもたちは目を輝かせて歓声を上げる。


「すごい! やっぱり森の熊より強いぞ!」

「がははは! 森の熊なんかに負けるわけねぇだろ!」


ルルミアはその少し後ろで、村の女性たちに薬草を配りながら優しい笑みを浮かべていた。

「この薬草は傷の治りを早めます。もし狩りなとで怪我をしても、これを煎じて使えば傷もすぐに癒えるでしょう」


アールスは相変わらず商人らしい調子で、村の若者たちと談笑しながら酒を酌み交わしていた。


――その穏やかな夜を、荒い息と共に駆け込んできた騎士の叫びが裂いた。


「ガロム殿――! おられるかッ!」

「おい!止まれ!ここは俺たちの村だぞ!?」

獣人の見張りが止めようとしたが、ライドレアス王国の騎士は肩で息をしながら必死に叫んだ。

ガロムが子どもたちを下ろし、一歩前へ出る。


「どうした。そんな顔をして」


騎士は差し出された水を一気に飲み干し、声を震わせながら告げた。


「……アルウェン・クラード様が――亡くなられました……」


一瞬、空気が凍りついた。

ガロムの瞳に怒りと、信じがたいという色が同時に宿り、荒々しく騎士の胸ぐらを掴んだ。


「ふざけるな……! あいつがやられるわけねぇだろうが!」


子どもたちがその覇気に押されて泣き出し、ルルミアとアールスが慌てて止めに入る。


「ガロムさん、落ち着いてください!」


騎士は咳き込み、ルルミアが手を差し出して詠唱する。


「かの者に癒しを――《ヒーリング》」


その光に包まれ、騎士はようやく息を整える。

「……ありがとうございます。先ほど、サタルディア王国の使者が王国印の封書を携えて到着し、その書状には……勇者アルウェン様が何者かに襲われ、命を落とされたとの報せが記されておりました……」

 

「リリシア様は怪我などは無く……原因不明の深い昏睡に陥っておられるとのことです……」

 


「そ、そんな……」

ルルミアが膝から崩れ落ちる。


ガロムが低い声で問う。

「――アルテミシアは無事なのか?」


騎士は顔を伏せ、苦悶の色をにじませながら答えた。


「……それが、アルテミシア様の行方は依然として不明で、現在サタルディア王国の兵とライドレアス騎士団あわせて三十名ほどが捜索にあたっておりますが……いまだ手がかりは得られておりません……」


焚き火が小さく弾け、夜の森に赤い火花が舞った。


ガロムは腕を組んだまま、黙って星空を見上げていた。


その横顔は怒りを飲み込もうとしているように硬く、握られた手からは血が滴り落ちていた。


その傍らに、アールスが気まずそうに腰を下ろし、

しばらく黙った後、焚き火の火を見つめながら低い声を出す。


「……ガロムの旦那、アルテミシアさんの件なんですがね……」


ガロムがゆっくりと視線を向ける。

その目は問いかけるようで、しかし何も言わない。


アールスは唇を噛み、覚悟を決めたように息を吐いた。


「……実は先日ライドレアス王国で襲撃されたあの夜、俺はアルテミシアさんに頼まれごとの報告をするために会っていたんです」


焚き火の赤い光がガロムの顔を斜めに照らし、その横顔に深い影を落とした。

氷のように冷たい光を帯びた眼光が、アールスを一歩も動けなくさせる。


そのまなざしは獣が獲物を射抜くように鋭く、見る者の背筋を凍らせた。

唇がわずかに歪み、低く押し殺した声が響く。


「……続けろ」

 

「実は……水の国からの帰り道で、アルテミシアさんに頼まれごとをされまして。

その内容というのが――ライドレアス王国に戻ったら、ルルミアさんとガロムの旦那を別の場所へ誘導してほしい、というものでした。

その代わりに、サタルディアとの商談の場を取り付けてあげると……そう約束されまして」


アールスは拳を膝の上で握りしめ、苦い顔をした。

「……商人としては大きな機会だと思い、ついその話に乗ってしまったんです。けれど……」


アールスは肩を落とし、声を震わせた。

「まさか、こんなことになるなんて……あの最強だと思っていたアルウェンが……まさか死ぬなんて、夢にも思いませんでした……」


ガロムは深く息を吐き、焚き火をじっと見つめながら低く言った。

「……つまり、お前は、何も知らずにアルテミシアに協力してたってわけか」


アールスは肩を落とし、悔しげにうなずく。

「……はい。あの時は、ただ信じてたんです。

 アルテミシア様が何を狙っていたのか……そこまでは、俺にはわかりません」


アールスは拳を握りしめ、かすかに声を震わせた。

「でも――あの人の目は、本気でした。

 まるで……何か、背負ってるものがあるみたいで……」

 

ガロムは目を閉じ、険しい顔をしたまま黙り込む。

焚き火の赤い光が二人の横顔を照らし、森の夜気がいつもよりも重く感じられた。

 

 

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