第2話 道

「気をつけて帰るように。」

本当はダメだけど受験生だから、と掃除を早めに切り上げてくれた。

私立から移ってきた先生だからか、こういうところはゆるくて憎めない。


掃除中の後輩たちが挨拶してくれるのを返しながら玄関にたどり着く。

どうなってもこの光景はもうあと少しで見れなくなるのかと思うとちょっと寂しい気持ちになった。

別にいいことばかりでもなかったけど、何百回も通るうちに成長していったのか。


朝とは比べ物にならないぐらい暑くなっている。

と思っていたらバスが目の前を通り過ぎていった。


最悪。


当たり前ながら、歩いている人は誰もいない。

誰が好きで歩くか、35度越えのこんな灼熱の中を。

心の中で悪態をつきながらバス停を過ぎる。


受験生になってからはめっきり歩かなくなったけど、ちょっと前まではずっと歩きだったおかげで、足は歩くのに慣れている。


元彼と二人で帰りたかったからだっけ。

しょうもない理由で頑張ってたんだな。


駅まで歩きだと30分はかかる。

何の話をしていたかも忘れてしまった。


嫌なこと思い出すならやめておけばよかった。


果たして好きだったんだろうか。

それとも親に見てもらえなかったもの同士、慰め合ってただけなのか。


多分最初から後者だったし、それを自覚している分私の方が大人なんじゃないか。


可哀想だな、あの人も。



絵に描いたような入道雲が空を横切っていく。

こうやって歩いてると何もかもどうでもよくなって、世界が止まったような不思議な気分になる。


大人になりきらないうちに未来が決まるなんて馬鹿げた話だな。

もう何を目指せばいいかわからない。

全部どうでもいいから、それだったらここで頑張ればいいんだろうか?

でもそのあとはどう生きていけばいいんだろう。


もうちょっと夢を見ていたかった。

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狐の嫁入り 蒲公英 @canis_major

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