第5話  大学生の恵美さん

「お金の事なら心配しないで」


 半泣きになっていた俺に、恵美めぐみさんが言った。


「それより、その子を洗ってあげましょう。雨に濡れて震えてる」


 恵美さんは、虎太郎を俺から受け取ると、慣れた手つきで身体を洗い、少し手を引っ掻かれながらも、ドライヤーで乾かしてやった。この場合ドライヤーは弱だけどな。


「さっぱりしたね。キジトラちゃん」


「そいつ、虎太郎って言うんだ」


「え!? ぴ~君(俺のこと)が飼うんじゃないのに、名前をつけちゃったの!? お別れがつらくなるよ?」


「でも、【怪物の幻夢】の『梨花』の使い魔に似てて……」


「相変わらず、【怪物の幻夢】が好きね。良いけど、早くこの近くの獣医さんに診せに行きましょう」


 金田かねだ恵美めぐみさんは、203号室で俺の1つ向こうのお隣さんだった。




 ▲▽▲





 虎太郎は、ネコ白血病でもなく健康体だった。ただ、しばらく雨に濡れていたので、元気が無かったのだ。

 だが、虎太郎はここでもやってくれた。お漏らしを。

 あ~~!! 早く躾けなければ‥‥‥


 恵美さんので、帰りにペットショップによって最低限の子ネコ用のエサとトイレ用品を揃えた。


 それらを店の段ボールに入れてもらって、恵さんが自分の部屋からひざ掛けをもってきてくれた。

 虎太郎の簡易ベッドの出来上がりだ。


「ここまでして、10日しかいっしょにいられないなんて……ねぇ……」


「でも、大家のおばあちゃんと約束したから……その間に俺、引き取ってくれる人を探しますよ」


 俺は、段ボールに入って寝ている虎太郎の頭をつついて言った。


「実家も、もう4匹もいるの。これ以上は無理なのよね」


「十分です。あざっす!! 恵美さん」


 俺は恵美さんと別れて、虎太郎の入った段ボールを持って、自宅の201号室に帰った。

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