和佳奈と桃花 2度目のキス(8-9)


 ちらっ。私の横にあるノートに桃花が視線を投げかけてくる。


「読んでくれたんだ、それ」

「もー。びっくりしたんだからホント。届いたの、今日だったんだからね?」

「それで、ここまで? ……でも和佳奈、私のうち知らなかったよね」

「聞いたんですー。連絡先に載ってる人みんなに聞きましたー。完全に怪しい人だけど、もう気にしないっていうか気にしてる暇なんてなかったっていうかー」


 わざと投げやりにそんな風に言って、自分の言葉のおかしさに耐えきれずに吹き出してしまった。

 桃花も釣られて笑う――いや、これは釣られたんじゃない。何か、私に……


「ねえ、和佳奈」

「な、何よー」

「トラック……。和佳奈、私がトラックに乗ってると思ったの?」


 やっぱり気付かれてた! それ絶対に触れて欲しくないやつなのに!


「お…… 思ったよ! 引っ越しの日が今日とか聞いちゃって、せっかく桃の家まで来たのにトラックが見えて、走り出しちゃって、ああ、間に合わない……ってそれしか考えられなくて――」


 言い訳とも開き直りともつかない言葉の続きは、桃の唇でふさがれていた。

 うそ……、私……、キス、されてる……?


「おかえし。私だって、ちゃんと和佳奈とキスしたかったんだからね」


 ゆっくりと唇を離して、桃花がもう見慣れてしまった不敵な笑みを浮かべる。気恥ずかしさが一気に足下から駆け上がってきて、自分の顔が真っ赤になってるのも分かった。


「私だって、桃と……」

「桃と?」

「ずっと会いたかったし…… 寂しかったし…… これからだって……。前も言ったけど、私、恋愛経験とか全然ないしこういうのホント初めてなんだからね? 桃がこれからは色々教えてよね」

「色々って……。やだ、和佳奈って意外に大胆」


 恥ずかしさのあまり口走った言葉に、桃花が両手を口に当てて大げさなリアクションで反応する。

 大胆……、大胆って! そうじゃない、そういう意味じゃ……!


「違うから! 桃が考えてるのと絶対違うから私のは! もうやだ、桃と話してると好きすぎておかしくなりそう」


 まるで、春が来たばかりの野山だ。長い冬を耐えた針葉樹の緑と山桜と芽吹きのグラデーションを思い描く。心の中で、たくさんの感情が色とりどりに爆発してるみたいだった。


「嬉しい。和佳奈は本当に私のコト好きになってくれたんだ」

「す、好きですよ……? ていうか今たぶん私の方が好きだから」


 無意味に胸を張る私を見て、桃花が微笑む。かわいいなあ。


「――楽しみだね、これから」


 桃花が立ち上がって、私に手を伸ばす。これから、の続きはなかったけど、考え始めたら止まらないくらい色々あるから今はこれでいいって思う。

 もう時間なんだろう。そういえばさっき、お母さん? から遅くならないようにとか言われてたよね。

 桃花の手を取り、私も立ち上がる。今度は川の方から吹き上げてきた風が優しく木々の枝を揺らした。


「和佳奈、私たち向こうに行ったらどんな感じにする?」

「曖昧だなー。えっと、高校時代はどんな関係だったかとか、そういう意味?」

「そうそう、さすが和佳奈。私のコト分かってるねー」


 桃花の家が、もう目の前に見えている。終わりの時間は近づいてるけど、久しぶりに交わす桃花とのやり取りが楽しすぎて、あらたまった何かを言う気にはなれなかった。


「全体的に意味不明だけどね。初対面の子たちにいきなり付き合ってますはちょっと抵抗あるから、まあ普通に同じ高校の同じクラスでしたでいいんじゃない」

「えー」

「何でそこで引っかかるし。つーかさっきのお母さん? 何で言い方そっけなかったの」

「だって和佳奈のこと、ただの友達って言いたくなかったんだもん。だけどまだ恋人じゃなかったし」

「かわいいか! やっぱ桃にはかなわないな~」


 私と桃花を隔てる距離が前よりずっと近づいた気がして、それだけで心が温かくなる。本当に、恋ってすごいね……。美月、愛華、やっと私も分かったよ……。


「ね、それ」


 桃花が手の中のノートを指さして、感慨にふけっていた私を引き戻した。


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