和佳奈と桃花 受験前の最後の日々(7-2)
新生活の準備だか何だかに出かけて行って一週間後、これお土産と言いながら桃花は何事もなかったみたいに3年4組の教室に戻ってきた。――放課後、私だけが居残っているこの教室に。
ありがと。へー、美味しそう。漆黒の鳥がどこかへ行くみたいな名前の上品なお菓子を受け取りながら、私は素直にお礼を口にする。
本当はずっとずっと会いたかったし、たくさんたくさん話したいコトもあったけど、桃花があんまりにもいつも通りだったから、私の反応もついいつも通りになってしまう。
「どうだった? やっぱり向こうも寒い?」
「こっちよりは、マシな気がしたけどね。あ、だけどからっ風っていうの? 冷たい風がヒューヒュー吹いてて、あとめっちゃ乾燥してた。お肌のケアが大変って感じする」
山あいの小さな町に生まれ育った私たちの中には、多かれ少なかれ海に対する憧れがある。何となく桃花は港町みたいなオープンでお洒落な町に住みそうなイメージがあったけど、進学先に選んだのは海のない隣県の大学だった。
コミュニケーション学とかメディア学とか、そういう新しいコトを勉強できる新しい学部なんだって。
ちゃんと将来のコトまで考えてて、すごいなあ。私はまだ全然だよ。最初に進学先を聞いたときにそう言ったら、先に決めることが偉いんじゃないからってたしなめられた。勉強しながら決めていいんだよ。先生になりたいって、今はそれだけで十分だと思うけどな。
言葉の外に桃花の気づかいと優しさを感じて、私もちょっと安心したんだよね。
しばらくは桃花が住むことになった新しい町の話を聞いて、私の受験勉強の進み具合(そんなには進んでないんだけど……)を話して、それから卒業までもうすぐだねって何回話したか分からないネタをまた確認して……。
そうして二人の間にぽつんと、沈黙が落ちた。
「――あのね、桃」
潮時、なんだろう。私は顔を上げて、正面に座る桃花と目を合わせた。桃花も、あれって顔したけど私の番だって思ってくれたみたいで、小さく頷く。
「うん、なあに?」
「草越君が、ココに来た。3日前の放課後。桃花が出かけてる間に」
普段、どっちかって言わなくても私の方がびっくりさせられるコトが多くて、そのたびに桃花はびっくりした? みたいな食えない表情をするのが慣例行事になってたから、本当に驚いた桃花のリアクションを見るのは新鮮だった。
「――うそ」
「ホントだよ。そっか、こういうのって、誰からも伝わらないコトあるんだ」
私はてっきり、鉄の結束を誇る(ちょっと言いすぎ?)放送部の情報網があの日の出来事を桃花まで届けていると思い込んでいた。湯川さんが誰かから聞いて桃花に教えるとか、草越君の友達が桃花にそれとなく伝えるとか、何とかで……。
だけど、違った。目の前の桃花の表情は、演技じゃないと思う。
「いつ? 何で? 何しに? ていうかあいつ和佳奈と知り合いだったっけ? ちょっと意味分かんないんだけど」
驚きや焦りが、桃花の中でぐるぐる回ってるのが私にも分かる。……そしてその中に少しずつ、苛立ちが混じってきているのも。
「落ち着け桃~。3日前って今言ったし。話せば長くなるんだけど、時間、大丈夫?」
ちゃんと説明しなきゃ。草越君が来たところから始まって、その先には――。
今、私の中にあるこの想いを言葉にしようか、していいのか、正直迷っている。だからそれには目をつぶって、とにかくあの日にあったコトだけをまず伝えよう、そう思った。
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