第2話

 メイドに案内されるがまま建物内に入ると、外観とは違い、木目調の空間が広がっていた。真四角で殺風景だ。真正面には奥に繋がる廊下があるが、かなり薄暗い。床にはシックなレッドカーペットが敷かれ、どこかのお城のようである。


 暖房は効いていない。外よりは温かいに違いないが、寒いことには変わらない。


 メイド――瀬川せがわと名乗った目隠れの女性は里奈を連れて奥へ進んでいく。里奈はちらちらとこちらを窺いながらも、器用にも瀬川から離れないでいた。


 遅ればせながら彼女らについて行く。だが話し声の類が聞こえず、シンとしている。


「仲間というのはどういう意味ですか?」


「いずれ分かります」


「一条さんは知ってますか?」


「……私はここに来たばかりだから、分かんないなぁ」


 里奈の声は、コロコロとして随分可愛らしい。ひっそりと雫が羨ましく思っていると、里奈が動く。


 機会を待っていたのかもしれない。パッと瀬川から離れ、隣に並んでくる。


「ねえ、私のことは里奈がいいな」


「……里奈」


「うん、よろしくね。雫ちゃん」


「雫でいいよ」


「やった。雫、よろしく」


 話している内に廊下の奥へと到着した。目の前には古めかしい木製の扉によって門番のように遮られている。瀬川が金属製のドアノブを回し開くと、軋む音が辺りに響いた。


「少しばかり天井が低いのでお気をつけください」


 ドアの向こうは螺旋階段だった。瀬川の言う通り低いが、雫は彼女ほど身長がなく特に問題はない。それは里奈も同じようであった。


 雫にはこの建物がいまいち分からなかった。外見だけで言えば、それほど古くは見えない。だが、ドアといい、この階段といい、いちいち古めかしい。


 瀬川の後ろに連なり階段を上っていくと、ギイギイとカーペットの下にある木が軋んだ。


 入口とまったく同じドアが出迎える。瀬川はそれを開け、そのまま中に入って行く。


 あとに続くと、暖かな空気が身を包んだ。空調が効いており、先程までとはまるで違う。


 部屋の中央には大きな楕円形のテーブルが一つあり、他にはソファーが点在しているだけだった。人は一人もいない。


 真正面の壁にある窓からは、寒々しい森と湖がわずかに見える。両壁には三つずつ扉が付いており――左側からは誰かがいるらしい、微かな音が雫には聞こえた。


「こちらです。藤宮さま」


 瀬川が示したのは右側にある真ん中の扉だった。ドアは階段にあったものを全く同じもので、年季が入ってる。


「鐘が鳴るまでは、部屋にいてください。鳴ったら、今いるこの『渦の間』に出てきてください。その際に諸々説明させていただきますので。……一条さんも同様です。あまり出歩かないでください」


「……はーい」


 ここまで気の無い返事も珍しいように思う。


「――噓はほどほどにお願いします。きちんと部屋にいてください。……最悪の場合、鍵を掛けることになります。閉じ込められたいのですか?」


「いるよ、ちゃんと。出歩かなければいいんでしょ」


 里奈は不満気な声を隠しもしない。雫は、妹がいたらこんな感じなのだろうか、と思った。


「じゃあね、雫」


「うん、またね」


 ニコっとして、里奈は右側の一番奥の部屋に入って行った。


「藤宮さまもお願いします」


「分かりました。部屋で大人しくしています」


 妙に圧のあるメイドに促されるまま、そっと指定されたドアを開ける。


「……何も危ないものはありませんよ」


「……そうですか」


 やや躊躇していると、瀬川は見透かしたようだった。雫は覚悟を決め、中に入って扉を閉めた。

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