ねうしとら

酒部朔日

ねうしとら

動物たちを連れてこいよ

   (ねうしとらうたつみ)

神を降ろせよ

   (おんあろりきゃそわか)

ひとの道なき焚き火はあかあかと

   (じんぎれいちしんちゅうこうてい)

ひとりで眠る

 

古ぼけた浜に出る。

海藻のへばりついた石をめくる。

がさがさと何者かが逃げていく。

むかし愛したおんなが逃げていく。

数人逃げていく。


   (したっけ意味ないっしょ)


手ぬぐいのしわを伸ばして。

にんじんを乱切りにして。

おれの前髪を欠けた鼈甲の櫛でかき分けて、

おんなたちはいなくなった。


   (止まらない波のように)


毎日畳む布団から這い出していった。

漁師小屋に風が抜けて、

ふいごのように鳴る。

なあなあ、少しのネズミくらいは居てくれよ。

 

太陽が剥がれるように昇り。

天井の覗き穴から逃れるように生き。

ついにおれはマッチひとつで家を出た。

止めてくれるな。

止めてくれるな。


   (したっけしょうがないしょ)


寒い夜は、

動物たちを連れてこいよ。

神を降ろせよ。

ひとの道なき焚き火はあかあかと、

ひとりで眠る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ねうしとら 酒部朔日 @elektra999

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ