薄れた音

君がいることは忘れてはいない。

毎日私の視界に入り、存在していることも認識していた。

意識していない訳ではない。

ただ、執拗に舐め回す様に顔を近づけ匂いを嗅ぎ、ジロジロと見つめ、昨日と今日の違いを探す。

そんな気持ちの悪い行為を辞めただけ。

見ていない訳でも、忘れたわけでもない筈なのに、ふと、以前の様に、君に視線を向けて、私の心はポロポロと崩壊しようとしていた。

君の肉体から、生命が乾き始めているように感じられたからだ。ふいに君に触れそうな位に手を伸ばし、カリカリ、パリパリと乾いた音が響いた時、今まで見ないでいようとしていたかのように、視線を向ける頻度を下げた私自身に後悔した。気が付いたら、あなたの生命いのちが終わろとしている。。。

音も声も、私に向ける視線さえも、止まった様に静かな音を響かせている。

目を合わせ、ゆっくり、パクパクと何かを伝えようと口を動かして、微かな音で言葉が響かない様に、君の生気は静かに息を引き取ろうとしている。

美しいあなたに黒い色が染まり始めただけで、心が冷め出した私なのに、あなたが私の目の前で、視界に入るのに、君の命の流れを見ようとしなかった私なのに。

いざ、あなたの音が、枯れようとした時。

私はあなたに置いて行かれるのではないかと言う不安と寂しさを感じていた。

私はズルい人間だ。

美しい時には「もてはやし」。

そうでなくなり掛け始めた瞬間から、心が冷め始めた。そして、君がこの世を去ろうとしているこの時、悲壮感を漂わせている私。

君に気付かれてはいなかったとしても、少なからず、私は、私自身の事は分かる。

思いが一定していない。

綺麗だと盛り上がり、なんだその染みはと、ふてくされて、挙げ句の果てには、今は、寂しさを漂わせている。

勝手だ。

「ねぇ。私を見て。」

「顔を近づけて。」

「かわいいって言って。」

こんな時でさえ、あなたに求め、自分が被害者になろうとする。

君は。。。

そんな私を、咎めることなく、意識もしていない。

君は君のために美しく咲いていたのだから。

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