第31話 9/22・お彼岸

暑さ寒さも彼岸までの言葉通り、週末は大変涼しくなった。秋雨前線の南下により北側から冷たい風がもたらされた影響だ。去年のいまごろはまだ残暑に苦しんでいたと思う。ただ今夏は、全国的に体温越えの酷暑が連日続き、30℃を切ったとほっと息をつく日がなかったとも思う。 

 親不孝者の俺はお盆とお彼岸しか墓参りに行かない。今年こそお供え物におはぎを作ろうと、小豆を買いに行ったがこれも値上がりしていた。それでもスーパーで2割引き品を買うより、ドラッグストアの方が安かった。

 俺が住んでいる田舎はスーパーよりドラッグストアが多い。むかしはJA系列のスパーもあったが小さな店舗は撤退した。各スーパーで地場野菜コーナーはあるが小豆を栽培している農家はいないようだ。大量生産しないと採算が合わないのだろう。

 燃料費、包装、運搬など原材料以外の各種経費も値上がりしているだろうし、人件費を技能実習制度で抑えても限界がある。コストプッシュインフレは誰も得しない現象だと思う。


 唐突だが俺は鰻が嫌いだ。先日、料理動画でジェネリック鰻丼なるレシピを見て、これならと俺も食べたくなった。はんぺんと海苔を使うわりと有名なレシピらしい。精進料理みたいだなと思いつつ、スーパーに行くとこんなモノまでかよと値札を二度見することになった。

 寒くなってもおでん作れないなと友人に愚痴をこぼすと、練り物は戦前の倍になってると指摘された。(昭和世代の俺は、戦前戦後というと真っ先に第二次世界大戦を思い出す。)

 ロシアがウクライナ侵攻した後円安が一気に進んだ。そして原油価格や鉱物資源が高騰した。もちろん小麦を含めた食料品も。当時勤め人をやめようと決めた時期でもあったが、手を付けていた案件を放り投げるわけもいかず、ロシアの馬鹿野郎と罵った。ただ国力の差があるし、ウクライナには申し訳ないが、クリミア半島併合のときのように短期間で終わると思っていた。

 日銀の金融緩和は依然として続いていたが、インフレ率2%以上が今後続くとは思ってもみなかった。(その前年はマイナスだったような・・・)

 俺は仕事柄、原材料費の変動には関心はあったが、自身の生活費の変動には無頓着だった。スーパーで半額弁当を買えなかったときは、損したような敗北感に襲われたが、休日以外は自炊しなかったので気が付かなかったのかもしれない。

 

 俺の生活水準は低いと思う。まずは家賃がかからない。自宅の所有権を移転したさい貯金はたいてローンを一括返済した。今では白蟻と共生し売っても二束三文にしかならんが固定資産税が安い。

 自炊するため食費も安い。一食あたり30年以上前の学食並みの価格だ。今ではコンビニでおにぎり二つも買えない。着るものはビンテージじゃない古着か閉店セール品を年に一二度買う。

 衣食住にかかるコストは低いが、唯一の金食い虫である自動車もなるべくコストをかけない。こだわりもなく長距離移動しないため軽自動車で十分だった。ただ税制改正によりまた増税されるかもしれない。ガソリンの暫定税率はなかなか廃止にならないが・・・野党の法案では2025年11月廃止。

 光熱費や通信費などの固定費を除くと月数万円程度。国民年金だけで生活費をまかなうブログのお婆さんにはかなわないが、独り身なので少ない金でもなんとかなるもんだ。

 

 給料が安いから結婚出来ない。女にもてないから結婚出来ない。すべて悲しい事実だが俺が独り身なのは吝嗇家でもあるからだ。

 学生時代の他愛のない話だが、俺の結婚観は変わっているといわれた。俺は平安時代の通い婚がいい。誰かと暮らすのは嫌だな。生活コストをかけたくない。そういうと友人から最低といわれた。

 男女雇用機会均等法は成立していたが、まだまだ夫婦共働きは少なく専業主婦になる女性が多かった。俺が子供のころ我が家の女性はみな仕事をしていたが、レアケースなのだろう。

 男が稼いで家は女が守るというのが世間の常識だった。父が病により退職しなければ我が家もそうだったし、姉も嫁ぐと同時に専業主婦におさまっていた。

 誰かに食わせてもらうのは論外だが、誰かを養うという気もなかった。家族というのは我慢の連続だと思う。結婚というものにこれっぽっちの幻想もなかった。子供が欲しいと思ったこともない。

 そもそも自分の面倒を見るので手一杯。とてもそんな奴に子供なんて育てられるとは思えない。どうしても育児がしたかったら里親制度を利用する。

 学生の時、職業適性診断で保父という結果が出た。内容があまりにもインパクトがあったため憶えているが、いったいどこの誰が作ったのだろう?これを真に受けて就職したらとんでもないことになったと思う。

 俺には甥と姪がいるが思いっきりなめられている。俺のいうことを聞いたためしはないし小言をいえば反発する。子供にとって俺は、いうことを聞かなくていい大人なのだろう。とても子供と向き合う仕事が出来たとは思えない。

 ましてや一円にもならないどころか、巨額なコストがかかる家庭を持ったらキャパオーバーで逃げ出したくなるに違いない。稼ぎが悪いと嫁さんに怒られ、子供には馬鹿にされ、職場では給料泥棒と罵られる未来が容易に想像出来る。

 

 何の責任もなく無為に生きることが許されるいまの状況が、俺にとって幸せなことなのだろう。俺の幸福を脅かすものといえば、インフレぐらいなもんだ。訳の分からない物価上昇がいつまで続くか・・・いったん落ち着いてほしい。

 



 

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