覚醒した隣の席の井伊さんはつよつよすぎた!
桜井正宗
つよつよ編
第1話 彼女を寝取られて二年後……隣の席に現れた美少女
『……っ。
あまり聞きなれない肌の音が響く。
扉の向こうで俺の彼女『
そんなバカな!
礼乃は……礼乃はやっと出来た彼女だったのに。
相手は三年のイケメン先輩。
顔がいいから女子が寄ってくると聞いた。
俺の先輩でもあった。
先輩は俺の彼女にだけは手を出さないと約束していたのに!
まさかこんなことに……なるなんて……。裏切られた……。
予兆はあった。
最近、彼女といる時間が減っていると感じていた。――いや、多分俺から減らしていたせいかもしれないが。
一人暮らしの為に、生活の為にバイトをしなければならなかったし……クソッ、クソォ! それでも、これはあんまりだ!
「あぁ……最高だった。けどなぁ、
「いいのいいの。杏介のことはもう忘れて。そのうち適当に別れるつもりだから」
「そうか。アイツは良い奴だったんだがな。だが、俺はお前を大切にしたいし、彼女になって欲しい」
「うん、ありがと! ちょー嬉しいっ」
二人とも抱き合ってキスを……。
は?
なんだこれは……!
なんで、なんで、なんで!
なんで、なんで、なんで!
なんで、なんで、なんで!
なんでだよおおおおおおおおおおおお…………!!!
・
・
・
【二年後:四月】
あの“運命の日”から俺は誰かと付き合うことなく、孤独に三年生となった。高校三年……もう学生生活もラスト。大学受験も見えてきた。いや就職かな
こんな高校はさっさと卒業したい。
辛い思い出……元カノ礼乃を思い出してしまうからだ。
今も俺の心はズタボロだ。
桜舞う四月の春。
驚くほどの晴天。
新たな学年、新たなクラス。
教室が決まって席に座った。
窓際の一番隅で最高だ。こんな特等席を得られるとは幸先はいいかもしれないな。
少しして隣の席に女子が座った。
クリーム色のような髪を肩まで伸ばす――細身の美少女。その横顔でも可愛いと判断できた。
なんだろう。妙に険しい表情を黒板に向けている。と、思ったらこっちを向いた。
「……青野くん。
と、振り向いて俺のフルネームを口にした。
この距離から黒板で確認したのか? まさかな。
「あ、ああ……よろしく?」
「わたしは『
微笑むことなく、無表情でそう挨拶を交わす。……緊張しているのか?
俺も久しぶりに女子に話しかけられてギコチナイ。
……隣の席だからって、これ以上はないだろう。
そう、ただ一年が退屈に過ぎて終わり。
少なくとも、俺はそう思っていたんだがな。
昼休みになった途端に
――隣の席の
そして、なぜかみんな助けようとしなかった。……なぜ? 同級生が倒れて誰もなんとも思わないのか……! コイツ等なにボーっとしているんだよ。
ええい、仕方ないな!
俺が保健室まで運ぶしかない。
背負って
って、軽ッ!
元カノよりも軽いじゃないか。
びっくりした……。
教室を出る途中でボソボソと話すクラスメイトの声が聞こえたが……なんだ? そんなヒマがあるなら手伝えよ。
それとも、
保健室に到着して先生に事情を話した。若い女の先生だ。白衣が似合っているが――服越しでも分かる巨乳で妙に目のやり場に困る。
「……気絶したって?」
「ええ。同じクラスの井伊さんが突然倒れたんです」
「ふぅん? ……これは違うわね」
「え?」
「よーく見なさい。寝ているだけだわ」
「マジっすか」
よ~~~く見ると
「…………」
にしては突然すぎるな。
なにかの“病気”では……?
「
「どういうことです、先生」
「彼女は“ナルコレプシー”だからね」
「ナルコレプシー?」
「突然、猛烈な眠気に襲われて寝ちゃうのよ。どこでも構わずね」
なんだやっぱり病気だったのか。
そうか。クラスメイトは、過去に井伊さんと同じクラスだったヤツが多かったんだ。それで助ける必要はないと判断していたのか。納得だ。
「じゃあ、井伊さんをお願いします」
「ええ。任せて」
保健室の先生に井伊さんを任せた。
重大な病気でなくてホッとしたかな。
少なくとも眠っちゃうだけなら……大丈夫かな。
俺はナルコレプシーについてよく解かっていないので、なんともいえないが。
◆
【放課後】
高校三年の一日目が終わった。
クラスメイトがいなくなってから、俺は教室を出た。
扉を開けようとすると――勝手に開いた。
そこには井伊さんが立っていた。眠そうな表情で。やっぱり、眠っていたんだな。
「……あ、青野くん。おはよ」
「井伊さん。ずっと眠っていたんだね」
「うん。わたし、病気なんだ」
「そっか。大変だな」
じゃあねと挨拶をして去ろうとすると、服を引っ張られた。……な、なんだぁ?
「待って」
「……?」
「一緒に帰ろう」
「そ、それは構わないけど」
「助けてくれたお礼もしたい」
「そんなたいしたことはしてないよ」
「ううん。あのまま倒れていたら……頭を強打して死んでいたかもしれないし」
そんなオーバーな。
けれど一緒に帰るだけなら……構わないか。
準備を済ませ、廊下を歩く。
そしてフラフラと昇降口へ。(久しぶりに女子と二人きりで緊張している)
靴を履き替えて校門まで向かった。
それまで会話らしい会話はなく、気まずい雰囲気がキツくなって俺は自ら話題を振った。
「井伊さん、彼氏とか」
「いない。好きな人いないし」
「そっか」
井伊さんはすげえ美人だし可愛いし、いそうなものだと思ったんだがな。少なくとも、過去に付き合っていた男くらいいるんだろうな~。
「杏介くんこそ……いないの?」
「俺は――って、いきなり名前呼びかよ。ビビったぞ」
焦った。さすがに女子から名前を呼ばれると胸がドキっとした。てか、いつ振りだろうな女の子から名前呼びされたの。……なんだか、元カノを思い出すな。思い出したくないけど。
「いないの?」
「いないよ。二年前に
「そっか。辛かったね」
「井伊さんみたいな美人が付き合ってくれたら、俺の心も癒えるかもね」
なんて冗談を言ってみた。名前を呼ばれた仕返し程度のつもりだった。
だが。
「……いいよ」
「…………へ」
突然の返事に俺は、脳が混乱した。
井伊さんは今なんと?
脳内で時間を少しだけ巻き戻してみる。
『……いいよ』
うん、確かにそう返事していた。
自然にYES発言。
サラっと凄いなこの人。
「そういえば、杏介くんは一人暮らしだっけ」
「え……話したっけ? なんで知ってるの!?」
「そうだ。わたし、料理とかお掃除とか得意だから、やってあげるよ」
「え、えェ!? てか、俺の話は無視かよ」
なんか急に話が飛躍しているような。
てか、井伊さんの表情が和やかというか、教室にいた時よりもキラキラしていた。あの時は眠かったから
「大丈夫。杏介くんのこと幸せにしてあげる」
「ど、どうしてそんな……」
「助けてくれたお礼だよ。お礼」
そんな『お礼』を強調されても。
……あ、いや嬉しいけどさ。
しかしだな、お昼のアレごときで? いや、さすがに理由としては無理がありそうな気が。しかしもう断れるような雰囲気でもなかった。
それに。
それに、俺自身も久しぶりに女子と話せて楽しかった。
井伊さんがこんな面白い子だとは予想外だったんだ。
彼女なら俺のこの深い深い、深海よりも深い傷を浅瀬くらいにはしてくれるかもしれない。
俺は出会って初日にして、井伊さんを家に招くことにした。
◆短編版の応援ありがとうございました
沢山の応援が嬉しかったので連載版はじめました。
短編版はこちら
https://kakuyomu.jp/works/16818093092462926782
カクヨムコンに応募していますので、面白いと思ったらでいいので短編版を応援していただけると嬉しいです。
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