魔王としての1日 1
私が、魔王としてこの世界に君臨してから約3年の月日が経過した。
戦争ばかりを続けていた国々の多くは、魔王の出現によって戦争を一時的にやめて魔王討伐のために動き出す。
彼らの代は魔王という脅威を知らないだろうが、その親、その祖父母は魔王の恐ろしさを知っている。
世代交代はあっただろうが、多くの者達は魔王の脅威に震えることとなった。
それと同時に、私は小を殺す事で大を生かす選択をした愚者へと成り下がる。
もちろん、魔王以外の平和的な道を模索した時期もあった。
しかし、そのどれもが現実的ではなく、結果的にこうせざるを得なかった。
私は考えることをやめた愚か者だ。だが、やり始めると決めたのであれば、必ずこれは成し遂げる。
亡き親友のために、私は私の正義のために、この世界で死にゆく人々の声に耳を塞ぐのだ。
「朝ごはんが出来ましたよお爺ちゃん」
「おぉ、すまんな」
「いいんですよ。お爺ちゃんも随分と歳なんですし、無理はしないでくださいね」
魔王となって3年が経過した頃のとある日の朝。私が起きてくると、そこには朝食が並べられた机がある。
ここは、かつて魔王が住んでいた城の跡地に建てられたあらたな魔王城........の横にある小さな小屋。
魔王としての威厳を見せつけるために城を魔法で建てたのは良かったものの、移動があまりにも面倒で別で小屋を作ったのだ。
この身体で大きな城の中を歩き回るのは辛い。
私、もう70過ぎの老人で死んでいてもおかしくは無いのだ。
席に座り、出来たての朝食を眺めながら、今日までに死んでいったであろう人々に祈りを捧げる。
私は神という知覚できない存在を信じるほど頭の中に花畑がある訳では無いが、死後の世界があるのならばせめて安らかに眠って欲しいとは思っている。
罪もなき人々を、人類の平和という名の大義の元に殺しているのだ。
私の罪はあまりにも重い。
「お爺ちゃんのお陰で、人々は争いの連鎖から開放されたと言うのに、当の本人は死者に祈りを捧げる。感謝すべきは彼らなのでは?」
「マナリアよ。どんな理由があろうとも、罪なき人を殺せばそれは罪だ。平和のため、人類のよりよい明日のための理由にしてはならないのだよ。どの口が言うのだと言われそうだがね」
「確かに、お爺ちゃんがそれを口にするべきではありませんね」
これは勇者ザレドが言っていた言葉だ。
確か、魔王に向けた言葉だったかな。魔王への問いかけに、そう答えていたはずだ。
どんな問いかけであったのかは、もう覚えていない。
50年以上も前の記憶だ。友人とのしょうもない記憶が断片的に残っているぐらいで、残りは魔法の事しか私の頭には記憶されていない。
きっと、友は悲しんでいるだろう。私に後を託したというのに、私が選んだのは諦めによる停滞であった。
「私はいつの日か裁きを受けることになるだろう。その時が来るまでは、私が信じる正義の元で亡くなった者達への鎮魂は捧げるつもりだ。死んだ者からすれば、気休めにもならないだろうがね」
私はそう言いながら手を合わせて朝食を食べ始める。
初めは肉も卵も焦がして食材を台無しにしながらも、笑顔で私に毒物を食べさせようとしていた子が随分と成長したものだ。
今日の朝食も、とても美味しい。
私が美味しそうに朝食を食べているのを見てから、マナリアも朝食に手をつけた。
「今日はどうするおつもりですか?」
「西で戦争をしている国々に、私が歯止めをかけさせる。犠牲者は........なるべく出さないようにするつもりではあるが、無理だろうな。上の者が脅威を理解するためには、実害を出さなければならん」
この3年間、多くの戦争をしている国々を訪れ、その度に魔王の脅威を見せつけた。
常日頃から魔王という驚異があると知ってもらうために、以前の魔王を見習って魔物を活性化させるための魔法も作り出した。
この世界全ての魔物達を操るのは無理だが、知能が比較的低い魔物達は簡単に魔法にかかる。
色々と仕込みをした上で、世界にばら蒔いた狂気の渦は見事に魔物達を活性化させることに成功した。
が、それだけでは戦争は止まらない。
中には、そんなこと知るかと言わんばかりに戦争を続ける国家もある。
そんな国には、私が直接出向き、私という驚異を排除させるために動いてもらうようにしていたのだ。
........中にはそれでも戦争をという国もあって、仕方がなく王を暗殺した国もあったが。
国民や兵士、更には貴族からの反発があってもなお戦争を続けようとするとは、頭がどうかしているとしか思えない。
私が言えた口では無いが、あまりにも愚かすぎるのだ。
あのまま行けば、内線が勃発していた事だろう。
それは私が望むものでは無い。
「今回の王達は賢いことを祈るとしよう」
「そうだといいですね。ですが、賢い者はそもそも戦争などせずに国を豊かにするものです」
「国と言うのは複雑なのだよマナリア。たとえ王が賢王だったとしても、その国民があまりにま愚かならば国は滅びる。戦争をしないように立ち回っても、相手から難癖をつけられることだってある。私が、誰一人として犠牲を出すことなく、平和を実現するのは不可能であると判断した理由でもあるな」
いつの時代も、頭の悪いものは存在する。
感情に身を任せ、どう見ても負け戦を挑むものもいれば、そもそもの教養が備わって居ないものも存在しているのだ。
“人が生きている限り、平和は訪れることは無い”。
私は世界を巡ってそう結論を出し、手っ取り早い平和を求めた。
その結果がこれだ。
私は私の信念に基づいて現実的な平和を実現させようとしているが、それが人間達から見れば悪であることも理解している。
「私は買い出しに行ってきますね。ここ数百年分は暮らせるだけの財産がありますし、今日の夕飯は少し豪華に行きますか?」
「いや、普通でいい。下手に金持ちである事を見せびらかすと、面倒事がやってくる。金は悪だよ。便利な世の中の為に作られたものだが、人はそれに支配されているのだからね」
少しぐらい豪華な夕食を食べてもいいが、マナリアを危険に晒したくない。
私はそう言うと、マナリアの頭を優しく撫でた。
「気が変わったら何時でもここを出て言っていい。私は一人でもやっていけるからな」
「よく言いますよ。最近腰が痛いと嘆いていた癖に。魔法で治せないのですか?」
「ハッハッハ。治せたらとっくの昔に治しているとも。世界のどこへでも一瞬で飛ぶ術を身につけられ、擬似的な不老不死を得ても老いには勝てんらしいな」
私はそう言うと、食べ終えた朝食の皿を魔法で洗って片付ける。
魔法は本当に便利な力だ。魔力と呼ばれる人の魂に宿る力をこの世界に具現化する事で、使用が可能となる。
その為の儀式として魔法陣が必要となるが、それさえ出来れば誰にでも使えるのだ。
かつて、魔法というものを編み出した真の賢者は、何を思ってこの魔法を作り出したのだろうか?
私は、その賢者が望んだ魔法の使い方をしているのだろうか?
そんな自問が頭を回る。
「いかんな。歳を取ると過去について考えたがってしまう。若者は未来を語り、年寄りは過去を語る。この言葉を残したかつての文豪は、ある意味真理を得ていたのかもな」
「ふふっ、私は今を見てますよ。未来は........どうなるかわかりませんから」
「望むことは出来るだろう?」
「望んで実現しなかったら悲しいじゃないですか」
笑顔でそう言うマナリア。
おそらくは、かつて失った家族のことを思い出しているのだろう。
私は、マナリアがそう言う姿を見て、15年前の傷跡はまだ深く残っている事を悲しく思うのであった。
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