Happy unHALLOWEEN!!!! 〜人外4体のドタバタ共同生活〜
中島 シ京
お菓子屋さん『ハッピークルーズ』
「ありがとうございました」
甘い匂いが残るキッチンの片付けを終えると、扉の奥からそんな声が聞こえてきた。
時間的に最後のお客さんだろう。
店に繋がる重いドアを開け、レジで片付けをしている背中に声を掛ける。
「プラ! お疲れさん」
「はい。アイランもお疲れ様です」
柔らかい笑顔で労ってくれるのはこの店でレジ打ちをしてくれているプラ。
表に出ない俺の代わりに店を回してくれる頑張り屋さんで、お客さんからは紳士的でかっこいいと好評らしい。
完全に店内に誰もいないことを確認してから、俺はいつもの合言葉を言う。
「今日も大丈夫?」
「大丈夫でした。そちらも?」
「おん、大丈夫」
他所から見れば抽象的で分からないだろう。
でも俺達はこれを何年も繰り返している。
俺の発言の意味は『今日も人外だとバレなかったか?』だ。
そう、俺達は人間じゃない。
俺は吸血鬼で、プラはカボチャ男。
お菓子屋さん『ハッピークルーズ』は俺達『人外』で営業しているお店だ。
もし人間に人外だとバレたら、どうなるか分からない。
それが俺達人外の共通認識だ。
人間は得体の知れないものを排除する性質ある。
人間同士でもその傾向があるのに、それが人ならざる者だと分かったら……?
古代では魔女狩りやらなんやらで残忍な仕打ちを受けた例もある。
俺達人外はただ平和に暮らしたいだけなのに。
そこで俺達は『人間に紛れる』という手段によって、ひっそりと生活している。
「今日中に処分しなきゃならないのは?」
「えーっと……ここら辺、ですかね」
「本当だ。じゃあこれは今日の晩御飯ってことで」
店の看板を『close』にした後の調子はいつもこうだ。
俺とプラでやらなければならないことを一つずつチェックしていく。
プラは細かいところまで気付いてくれるから、本当に助かっている。
俺が育てたとは思えないほど真っ直ぐでいい子だ。
身長も俺より随分と大きくなっちゃってまあ。
最近流行りらしいウルフカットも柔らかい金色と似合っていてすごいなと思う。
あまり変化を好まない人外の中でもよく情勢を見て追いつこうとしている珍しい子だ。
巡り会えて、こうして一緒に過ごしてくれて、とても感謝している。
「この後も注文しようと思ってるんですけど、他に必要なものはありますか?」
「んーと……ああ、ちょっと待ってっ……⁉︎」
「ふぎゃっ!」
脇腹に小さい何かが突撃してくる。
店の中に人間はいないはずなのに。
そう、人間『は』いない。
……つまり、俺達以外にも人外はいるということで。
「……こら、ネクス」
「わー! ごめんなさい!」
俺が静かな声を出すと、対照的な子供特有の高い声ですぐさま謝罪をしてきた。
10歳ぐらいの背格好をしたこいつはネクス、死神だ。
不思議な瞳孔のある大きな目で見上げ続けるから、『しょうがないな』と言って頭をグリグリ撫で回してやった。
キャッキャと騒いだ後、忙しなく俺から離れていった。
ご機嫌な理由は何だろうかとよく見てみると、その手には見覚えのないものが。
どこから拾ってきたのか、車のおもちゃで遊んでいるらしい。
ネクスはまだ仕事中の俺達には構ってもらえないと思ったのか、ウチの看板猫と半分追いかけっこをしている。
ネクスが来たから忘れかけてたけど、在庫の確認をしなければ。
キッチンへ繋がる扉を開けようとしたが、憤るような鳴き声に気付いてすぐに振り返った。
「は⁉︎ おい、ネクス! 何やって……」
ネクスが猫を捕まえて、その背中におもちゃを走らせようとしていた。
俺が静止するよう声を掛けたのとほぼ同時。
「ネクスのばーか!」
「ぐへっ!」
俺よりも小さなヒトが突然ネクスに乗り上げた。
正確には人外が人の形をした姿なのだけど。
間に合わなかったか。
我が家の看板猫ことバケネコのベイ。
性別的にはオスだけど、ワガママなウチのお姫様的存在。
「おも、重いってベイ! 僕潰れちゃうから!」
「知らない知らない! おれで遊ぶおまえが悪い!」
頬を膨らませながら猫パンチをかますベイ。
ネクスに負けないぐらい大きな緑の瞳を若干潤ませて怒っているから、お顔だけ見れば可愛らしいんだけど。
この2体はいつもこうだ。
ネクスがちょっかいをかけて、ベイが怒り出す。
一緒に暮らし始めてから1年近く経った今でも変わらない。
「ベイ! いきなりヒトガタになるのやめてってば! というか早く服着てよ……」
「今はそんなこと関係ない! おまえが反省しろ!」
ヒートアップしてきた……
俺も大方はネクスが悪いと思うが、服を着るという習慣がないネコのベイもちょっとは自分を省みて欲しい。
人間からしたら全裸の異常者だからね、うん。
しかも子供に乗り掛かってる構図になっていることも考えて?
子供を襲っている変態にしか見えないからな?
とりあえずこの2体を離して、ベイに服を着せて、それから……
「おい、アンタら。いい加減にしろよ」
なんて呑気に考えていると、となりから低い声が聞こえた。
これはマズイ。
一番怒らせてはいけない奴を怒らせてしまった。
恐る恐る横のプラを見る。
あの優しい態度から一変して、視線が氷のように冷たい。
「ここは店だ。喧嘩をするなら追い出すぞ。嫌なら店の後片付けをするんだな」
返事も聞かないまま、プラは2階の自宅へと帰ってしまった。
プラは接客時からは考えられないほど、身内の俺達に辛辣になることがある。
特に堪忍袋の緒が切れた時は。
人間だったら(正直人間じゃなくても)怒られて当然だとは思うが、しゅんとした2体は反省して……
「あーあ! ベイのせいで怒られた!」
「んにゃ⁉︎ おれのせいじゃない! おまえがおれで遊ぶからだ!」
してないね!
だから何度も繰り返すんだろうけどさ……
「こらこらお前ら。プラはお前らのためにも怒ってるの。分かる?」
この場合の俺の役目は誰も悪役にしないこと。
怒ったプラも、怒られたネクスとベイもちゃんと意思がある。
俺達は敵じゃない、一緒に暮らす仲間だ。
だから絶対に誤解しちゃならないし、したとしてもちゃんと解くべきだ。
2体は俺の言葉に動きを止めた。
「……わかる」
寝そべったままのネクスが返事をする。
流石俺の次に長く生きてはいる奴だ。
人間社会に馴染めていないだけで、ちゃんと理解はある。
何かやらかした時は俺かプラがちゃんと叱ってきたから、今回も分かってくれたみたいだ。
「なんで? おれ悪くないもん」
思わずズコーっと転けてしまいそうになった。
本当にこのお姫様は……!
「うおおい! 僕の歩み寄りを!」
「ふんっ!」
「もっかいよく聞いて? ベイ。あのな……」
俺の声を無視して、再び喧嘩を始めてしまった。
つくづく困った奴らだ。
これは人間に紛れるためのルールをもう一度叩き入れないとかもな。
コンコン。
突然ノックの音が響く。
それは『close』の看板が掛かったドアからで。
もう営業は終わっているはずなんだが……⁉︎
これはまた、厄介なことになりそうだ。
Happy unHALLOWEEN!!!! 〜人外4体のドタバタ共同生活〜 中島 シ京 @RiS_H04
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