第2夜
「紅一夜・・・・・。」
千秋が一言呟くと、義美が笑みを見せた。
「先月に私たちの茶屋に芸者として来てたでしょう。特にこれといって恨みを買う根拠がないし、なんでしょうね。」
「本当に無差別の殺人・・・・。」
特に怯えることなく呟く千秋にクスクスと義美は笑い声が零れた。
「どうかなされましたか。」
笑った義美を不思議そうに千秋が見つめる。
「いいえ。本当にあなたは自分をちゃんと持っていて、見ていて面白いと思ってね。」
そう言うと、義美は千秋の頬に手を添えた。
「ますます、好きになっちゃうわ。」
「義美さんに認められるのは光栄なことです。」
千秋のさらっといった言葉に、義美はまたくすくすと笑った。
「団子屋さんの子とは相変わらず仲がいいのね。」
「はい。小さい頃からずっと一緒の寺子屋に通っていて、一人ぼっちの私を、小梅が明るく声かけてくれたんです。」
昔の事を思い出しながら話す千秋の顔には、少し嬉しさのようなものが見える。
その様子を見ると、義美は息をついてまたいつものような笑みを浮かべた。
「敵わないわね、小梅さんには。」
「え?」
ぼそっと言った義美の言葉に千秋は首を傾げるも、義美は特に言い直すこともなく、歩き続けた。
「あ、義美!また勝手に外出て!」
二人がお茶屋にもどると、やっと見つけたように一人の女性が近づいてきた。
「書き置きしていったじゃない。」
「書き置きってお菓子の包み紙に書かれても分からないでしょ!みんな心配してるんだから!只でさえ今切り裂き事件が起きてるって言うのに・・・!」
義美とは昔の付き合いである充江はここじゃ一番の芸者である。こうしてふらふらと歩いて回る義美の世話を焼いているということだ。
「分かったわよ。充江のお小言は支度しながら聞くから。」
声にならない声でまたねと千秋に言うと、義美は充江とともに支度室に入っていった。
支度室に入り、充江が戸が閉め、座布団に座った。
「別に夜に帰って来ている訳じゃないのだからそこまで怒らなくても。」
そう言いながら化粧道具を出して準備をしようとする義美の手に充江は手を重ねた。
「最近、千秋っていう娘の事、気にしているみたいね。」
「・・・・そうだとしたら?」
「単純に、嫌なの。」
ふて腐れるように言う充江に、義美は息をつき、充江に向かい合った。
「別にあの子とどうしてるとかないから、安心して。」
「そ、そうよね。私ったらつい。」
義美の返事に明らかに安心したように言う充江を、義美が抱き締めた。
「ちょ、義美!」
「いつも心配してくれて感謝してるわ。ありがとう。充江。」
「・・・いつもズルいんだから。」
充江はそう言い、嬉しそうに腕を回した。
千秋は部屋に戻ると、引き出しの中の小梅からもらったそろばんを手にした。
「ねえねえ!私小梅って言うの。お願い!算数教えてほしいの!このままじゃ父さんに怒られちゃう!」
「千秋なら、きっと一番の舞妓になれるよ。私、応援する!」
「千秋と私はずっと友達だから。何があっても私が居るからね。」
千秋は小梅との記憶に笑みを浮かべながら、大切そうにそろばんを抱き締めた。
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