第13話 団長からの告白

「その・・・ミサキ、今日の食事はここでどうだろうか?」

団長から提案されたのは、職場から近い、見ただけで高額と分かる邸宅・豪邸が連なる、いわゆる高級住宅地にある一軒家。周りのお屋敷と比べればそこまで大きくはないが、日本の一軒家で考えれば祖父母を含めた三世代くらいは余裕で住むことが出来そうな大きさだった。

返事をしない私に

「ここで食事をしたいと思っているのだが・・・ダメだろうか?」

若干シュンとした感じで聞いてくる。

団長の視線の先にあるのは、先ほど見た三世代くらいは余裕で住むことが出来そうなお屋敷だ。

こちらの世界の料亭のような・・いや、特別仕様の隠れ家的なレストランなのだろうか?

「ここってお店・・・・レストランですか?」

「いや、違う。俺の家だ」

「えっ!」

(『どうゆうこと????』私の脳内では理解不能の???点滅)

「この間、俺が一軒家に住んでいるのを驚いていたから・・・・。

何より、ミサキとゆっくり話をしたかった。それに、個人的な話をしたいと思っているから、人目がなく落ち着ける俺の自宅がいいと思った。もちろん、食事は料理人に頼んであるから安心してほしい」

いやいや、なんだか突っ込みどころ満載ですが!

団長の自宅で食事・・二人っきりで・・・・

それって、料理の味わかるものなの・・・?

(そうじゃない!料理の味はこのさい・・関係ない)

頭の中で私自身を叱咤する。

そりゃあ、団長の自宅なら人目もなく落ち着ける場所だけど・・・別の意味で落ち着かないっていうか・・・勝負下着それも、可愛い下着にしてきて良かったーーーー違う!そうじゃない!!

視線を泳がせオロオロしている私の思考に気がついたのか、妖麗(ようれい)な微笑みを浮かべる団長。

「大丈夫だ。みだりに君に触れたり、嫌がることはしない」

「あっ、いや・・・そんな」

(団長って、私の考えてることわかるの??

『いや〜!!』『今日は、エロは考えない!想像しない!!』

パニック中の私の脳内)

「では、どうぞ」

そんな私に差し出される大きな団長の手。

これが世に言うエスコート。

馴染みのないエスコートに戸惑う私。

そんな私に手慣れた様子でスッと差し出された団長の手。

ドキドキする心臓の拍動を感じながら、大きな団長の手に自分の手を重ねる。

私の手が団長の手に重なった瞬間、こぼれるような笑みを浮かべる団長。

ううっ・・・・団長・・かっこいい!!

コワモテの笑顔に、キュンキュンする・・・

鼻血は大丈夫だよね・・・・まだ・・・・

まだ、食事もしていない・・のに・・・・

生きてかえることが出来るのだろうか・・・一抹の不安を感じる。

そんなイッパイイッパイの私とは違い、団長のエスコートは手慣れた感がある。

かっこいい・・・素敵!

でも、なんだかズルい!

そんな団長が好き!!

それに団長は『みだりに君に触れたり、嫌がることはしない』

そう伝えてくれた。もし、団長がこの約束の言葉を言ってくれなかったとしても、私は今と同じ行動をしただろう。だって、団長は『私は嫌がるようなこと、無闇矢鱈に力に訴えるような行為をしない!』と知っているから。

私はこの世界に来てから、団長に助けられてきた・・・

そんな優しさを知っている私は、団長に絶対の信頼を寄せている。

私は団長のエスコートで誘導され、屋敷の門を潜った。

案内されたダイニングは、想像していたよりはるかに広く、抑えられた照明が淡い光で照らしていた。テーブルには、真っ白なクロスが敷かれ、その中央にはロウソクが置かれていた。ロウソクの柔らか光のもと、部屋全体が快(こころよ)い雰囲気に包まれていた。

団長のエスコートで、テーブルにつけば、美味しそうな料理とそれに合うワインや果実酒が数種類ずつ用意されていた。

提供される料理はどれも美味しく、普段飲まないワインを飲んだことも手伝って、団長を(思う存分)味わい・・もとい・・見ながら、団長と話をする食事は、まさに至福の時間だった。

 普段の団長は、私が食事をしている騎士団の食堂で食事を摂っているらしいが、私が仕事の手伝いに入るまでは、仕事が終わらず、執務室に食事を準備してもらい、執務室に泊まるような毎日だったそうだ。だから、団長本人は寮の部屋で十分だったのだが、団長の役職についた際に、周りから国の重要な役職の団長が寮に住むのは世間体が悪いという声があがり、体裁を整えるために一代限りの騎士爵とこの屋敷をもらったのだと・・食事をしながら教えてくれた。

デザートには、レモン風味のミントゼリーが出された。

もちろん、美味しく最後まで頂いた。

最初、艶っぽい色気を製造しまくっている団長と食べる料理の味がわかるのか心配していた私だったが・・・・杞憂だった。

「ご馳走様でした。すんごく美味しかったです。ありがとうございました」

「喜んでもらえて良かった」

食事を終え、リビングに移動した私は、団長と一緒にゆったりとした時間を過ごしている。

リビングの端では、食後のお茶を本日の美味しい料理を作ってくれた料理人さんが入れてくれている。

そして、食後のお茶一式をのせたワゴンが団長の前に置かれた。

「では、レオナルド団長、私どもはこれで失礼いたします」

スッと一礼し、リビングからでて行ってしまった。

食事を作ってくれた料理人さんも帰宅し、屋敷に残っているのは団長と私の二人だけ。

二人きりのリビング。

団長が先ほど料理人さんが準備してくれたお茶をカップに注ぎ、私の座るソファー前のテーブルに丁寧に置いてくれる。

そして、団長は私の座るソファーの隣に腰を下ろす。

軽く脚を開いて座った団長からは、男性特有の男っぽさを感じる。

団長の膝がちょこちょこ私の膝に触れる。

その度に、私の右側に座っている団長を意識してしまう。

右側を意識するたびに、顔が熱くなる。

それは、団長イコール(好きな人)意識しているのと同義で・・・恥ずかしい。

座り直すふりをしてさりげなく離れる。

少し時間をおいて、団長も座り直して距離を詰める。

 団長からの食事に突然誘われて、

それも・・団長に告白する原因となった一軒家(お屋敷)で、団長も私のことを・・・・と期待とダメだったらと不安もあった。でも、特に何もなく美味しく食事をいただき、今を迎えている。

先ほどから、団長との距離が微妙に近い。

少しずつ距離が狭まっている・・・。

そして、ドキドキドキドキ・・私の心臓の拍動が物凄い!!

このままでは、何かとんでもない失態を犯しかねない!

 このお茶を飲んだら帰ろう。

そう思って、テーブルに置かれているカップを手に取った。

普段なら、猫舌の私は、口に入れる前に中身が冷めていることを必ず確認するのだが・・・今は・・・通常ではなかった。

「あっっつ!」

口にしたお茶が、熱かった!

「大丈夫か?!」

「見せてみろ!」

・・・・・甘い。

団長の翠緑(すいりょく)の瞳が、心配そうに私を見ている。

その眼差しが、熱く・・・甘い、そして優しい・・・・

「ミサキ、舌を出してみろ!はやく」

「あ・・、あの大丈夫です。ちょっと、びっくりしただけなので」

いやいや、団長に舌なんて出せないよ・・・

舌を出したとして・・・どうやって火傷の確認するの??

無理だから・・・ほんと、やめて〜!

必死で・・・一生懸命・・、団長にお断りをしている私の脳内!

でも、フェロモン生産マシーンとなっている団長を目の前にして、

私は口ごもってしまう。

そんな私の手を・・団長が優しく掴み、強く握った。

私の手をすっぽり包んでもしまう男性らしいゴツゴツとした大きな手。

鍛錬する際にできたものか、指先は硬い。

そんな団長の手から感じる熱に、胸がキュンキュンする・・・・・

でもそれだけではない・・・この胸を締め付けるような・・

切ないような・・・・・私が初めて感じる胸の高鳴り。

どうしたらいいのか・・わからず・・・

ただただ団長の手に握られた自分の手を見つめる。

団長の顔を見る勇気はなくて・・・

でも、団長がどれだけ甘い・・蕩けるような表情をしているかはわかる。

団長に握られた手から感じる熱が、放たれる息づかいが・・・

団長を取り囲む空気が、すべて甘いから。

経験したことのない甘い雰囲気に、どうしていいのか・・わからない。

「・・・・・・、ミサキ」

喉の奥の方で深く声を響かせた静かな甘さを含んだ声。

握られていた手が解かれることはない。

握られた手から与えられる熱は更に高まり、

手から腕へ・・全身に広がっていく。

そして、握られたままの手が団長の鍛え抜かれた分厚い胸が押しつけられる。

ドックン、ドックン!

団長の心臓が激しく鼓動しているのを感じる。

「ミサキ、君が好きだ。君の思いを聞いてから、浮き立つ心を静めることの出来ない俺を、馬鹿な男だと思ってくれてもいい」

「・・・・・」

団長から放たれる甘いフェロモンと緊迫感のある空気にあてられて、

ドキドキ、ドックン、ドキドキ、ドキドキ・・・

体に響く心臓の拍動が、自分のものか・・・団長のものか・・・

区別がつかない。

緊張で、団長に握られたままの手からじんわりと汗が滲み出る。

手汗を知られるのが恥ずかしくて、団長の手を離そうとするが、

団長に掴まった手を解くことは出来ない。

「聞いてくれ、ミサキ。俺は、君と恋仲になりたい。」

甘くも緊張感のある空気の中、放たれた団長の告白・・・

でも・・・・聞き慣れない言葉に頭がついていかない。

『こいなか』・・・・???

『濃い仲??』

どうゆうことだろう??

『親密な関係』ってことなのだろうか?

『深い関係』ってこと??

どうしよう!!

団長の言葉の意味がわからない。

困惑する私・・・・

そんな私を見て、戸惑う団長・・・

「・・・ミサキも、俺と同じ気持ちだと思っているが・・・違うのか?」

「勘違いなら、愚かにも浮かれてしまった俺を笑ってくれ」

「ミサキ、俺と一緒にいてくれ。君が好きだ」

ひとこと、ひとこと、丁寧に告げる団長。

「・・・・えっ・・んん??」

今、『すき』って言われた・・・よね?

『俺と一緒にいて』って言ったよね?

じゃあ、『こいなか』は・・・・

自分の知識を総動員して考える。

・・・・そしてたどり着いた・・・

『こいなか』イコール『恋仲』に!!

なんてこと???

団長からの大切な・・貴重な・・・告白を!

ほんと馬鹿!!

なんてバカな私!!

でも、ちょっと待って。こんな都合のいいことある?

私の期待していたことが現実に?

「ミサキ、今の君の気持ちを教えてくれ」

「君が・・・俺を、思ってくれているのかを知りたい」

ゆっくりと静かに話す団長・・・彼からは、身を焦さんばかりの熱と、真剣な思いが痛いほどに伝わってくる。

真っ直ぐに、丁寧に・・好きな人から与えられる告白。

『好き』と『好き』が繋がる幸せ。

幸せで・・・言葉が出てこない。

でも、言わなきゃ・・・伝えなきゃ・・・

「だ・・団長・・・、わ・・・わたひも・・・す・・です」

言葉が詰まって出てこない・・その上、噛んでしまう。

そして、嬉しいのに涙で視界がぼやけて見える。

こんなに大切な・・・願いが叶った瞬間なのに・・・

泣いてしまって・・・恥ずかしい・・

せっかく団長が『好き』って言ってくれたのに・・・

こんな涙でブサイクな顔を見られたくなくて、思わず俯いてしまう。

そんな私の頬に優しく手を触れ、私に顔を上げさせる団長。

「もう一度言ってくれないか・・ミサキ」

優しく諭すように・・・でも逃れることの出来ない甘い声で望まれる。

泣きたくないのに・・・泣いてしまう・・

そんな私を宥めるように、励ますように・・団長の親指は私の頬を撫でる。

「ゆっくりで大丈夫だから。でも、もう一度、言って欲しい」

泣き止まない私を、そんな私の言葉を・・団長は優しく微笑みながら待っていてくれる。

どう伝えたらいいのか・・どうやって涙を止めたらいいのか・・・

わからない・・・・

でも、団長に伝えたい・・・

「わ・・・ワタ・・しも、団長の・・エック・・ことがっ・・

エッ・・・く・・・好き、です・・っ」

きちんと伝えたいと思うのに、必死に紡いだことば・・・

嬉しいのに・・・涙が止まらない。

ぽたぽたと涙が落ちる。

流れでた涙は、私の頬に添えられた団長の指先を濡らす。

泣きすぎて顔がひどい状態なのは間違いない。

せっかく、念願の両思いになったというのに・・・

団長に引かれてしまう・・・

なんとか、涙を止めたくて、ゴシゴシと顔を擦る。

「泣いていても大丈夫だ。無理に涙を止めなくてもいい」

「でも、こんな顔じゃ・・・恥ずかしい」

「何が恥ずかしいんだ。泣いている君も可愛い。

それに、泣いている君も好きだ」

「えっ・・・、こんな時に冗談言わないでっ・・くだしゃ・・い」(噛んだ)

「そんなに俺に見られるのが嫌なら・・・」

突然、団長の逞しい両腕が私の脇下に差し込まれ、体が浮き上がる。

そして、ソファーに座る団長の膝の上に降ろされ、抱きしめられた。

「俺の胸に顔を埋めていればいい。

そうすれば、俺からは君の顔が見えないから」

優しく頭を撫でられる。

「その代わり、涙が止まるまで・・・このままでいていてくれ」

団長の腕に囲われた胸の中は、優しくて心地いい・・甘やかしてくれる・・

涙で団長の服を汚してしまいそうで怖かったが・・・団長の腕の中は居心地が良くて・・・涙が止まるまで・・・このままでいたいと・・・思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る