第3話 アイオライト
木曜日は毎週、職員会議があるらしく全部活動が休みになる。それに合わせて五月のある木曜日、葵と凛もアルバイトを休み、美桜も手伝いを休ませて貰った。たまには五人で放課後に遊びに行こうと計画したのだ。
遊びに行くと言っても、ただ街をふらふらとウィンドショッピングするだけだが、初めて五人揃って学校以外の場所で過ごしたので、それだけでも十分楽しめた。
休息がてらファストフード店に入り、話題は今日本中で流行っているSNSの話しになった。
「え? 葵ちゃんやってないの? 葵ちゃんもやりなよ。クラスの子たちみんなやってるよ?」
凛は葵の隣に陣取り、しつこく誘っている。
「私そんなマメなタイプでもないし、第一何を投稿していいかわかんないもん」
葵は頻繁に写真を撮ったりする性格ではなかったので何を投稿すればいいのか全く分からない。
「そんなのなんでもいいんだって。無理に投稿しなくても友達のを見るだけの子も居るし。とりあえずアカウントだけでも作ろう?」
凛は乗り気でない葵のスマホを奪い、アプリをインストールすると、勝手にアカウントを作り始めた。
「葵ちゃんのIDとパスワードは何にする?」
葵は半ば押し切られた状態でIDとパスワードを口頭で凛に伝えた。葵はその都度考えるのは面倒な上、忘れてしまいそうなので全てのアプリでIDとパスワードは同じにしている。セキュリティ面を考慮すると使い回しはいけないと理解しつつも面倒臭いが勝ってしまう。
「もしかして葵ちゃんってIDもパスワードもどのアプリでも同じにしてるの?」
「そうだね。だめだって分かっているけど覚えられないから」
葵は苦笑する。
「まぁそうだよね。考えるのも面倒だし」
そうこうしている間にあっという間に葵のアカウントが出来た。
「はい。出来たよ。ついでに凛とフレ登録しといたから」
葵は凛から渡された自分のスマホ画面をまじまじと見る。
「そんなすぐに出来るんだ」
葵が感嘆していると杏や美桜からもフォローされた通知が届く。
「私たちのアカウントもフォローバックしといてね」
杏に言われ、葵は凛に教えて貰いながら二人をフォローした。
ファストフード店を出る際に、美桜が慌てた様子で葵を呼び止めた。
「葵! これ忘れてる! もう本当にそそっかしいんだから。スマホは個人情報の宝庫なんだから失くしたらやばいよ」
葵は急いで鞄の中を確認すると、やはりスマホはない。
「バックに入れたつもりだったんだけど。ありがとう」
葵はよくスマホを置き忘れてしまう。学校に置いて帰宅したことも一度や二度ではない。葵は美桜からスマホを受け取ると、鞄の一番奥に押し込んだ。
それから少し街を歩いていると、お洒落な雑貨屋が目に留まった。
「ちょっとここ入ってもいい?」
並んで歩いていた四人は足を止め、葵が指している雑貨屋に入ることにした。
そこはインテリア小物やアクセサリーなんかも置いている店だった。こじんまりとしているが、整理され無駄な物がなく照明も明るくて見やすい綺麗な店内だ。
葵はざっと店内を見渡す。見ているだけで楽しくなる程葵の興味をそそる商品が並んでいる。特に気なった商品を手に取ってみる。
「これ可愛い! ねぇ葵ちゃん見て見て」
凛が声を上げた。凛の方をみると小さな碧色三日月形のチャームを手に持っていた。
「わぁ! すごく綺麗な天然石だね」
杏も興味津々の様子だ。葵も気になり手に取って光に透かしてみると、光の加減で碧色にも薄い紫色にも黄色にも見える。
「不思議な色の石——。すごく綺麗」
葵はその三日月に目を奪われる。
「でしょ? 葵ちゃんも気に入ったならお揃いで買おうよ!」
凛は目を輝かせ、葵の顔を覗き込む。
「『アイオライト』の石言葉は――人生の道標、誠実——」
美桜が横に置いてある説明文を読み上げた。
「すごく素敵な意味があるんだね。ちょっと高いけど皆でお揃いにして買わない?」
葵は四人の方へ向き、その碧い三日月を振って見せる。
「いいね! チャームだと好きに加工して身に着けておけるよね」
杏も気に入ったらしくそれを手に取り大きく頷く。
「え? 皆でお揃いにするの……?」
凛は不服そうにしているが、四人は碧い三日月に夢中で誰も聞いていなかった。
「これくらい小さいのなら私が着けててもおかしくないかな……」
普段あまり発言せず、皆が話している様子を楽しそうに見ているだけの莉子も珍しく乗り気だった。
「折角初めてみんなで遊べたし、記念に買うのも悪くないね」
美桜が頭を上下させながら言う。
「石の持つ意味もいいよね。いつもみんな誠実に、お互いの道標になれるような関係で、ずっと一緒に居たいね」
葵は目を輝かせ四人の顔を見やった。一人不服そうな凛を除いては皆同じ意見だったようで五人お揃いで身に着ける話でまとまった。
葵は短めのチェーンを通してブレスレットにし、左手首に着けた。凛も葵の真似をしてブレスレットにし右手首に、杏はバレー部に入っているので手首にするとボールが当たって痛いので、革紐にしアンクレットにした。美桜は店の人にお願いしてピアスに加工して貰い、莉子は目立たないように少し長めのチェーンを通しネックレスにした。
幸い小ぶりなアクセサリーは校則では禁止になっていない。これなら学校でもつけていられる。五人共気に入ったようで、それぞれ光に透かしてみたり、鏡ででアクセサリーを身に着けた自分の姿を確認したりしている。
莉子も満面の笑みを浮かべ、いつまでもネックレスにした三日月型のアイオライトを眺めていた。
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