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その日を境に私と奏叶さんの接点は劇的に増加した。
彼はゆるやかに私をゆうわくした。
例えばドラマの話をしていて、前の恋人は「この子可愛い」とか「こんなかわいい子と付き合ってみたい」だとか言っていたけれど、奏叶さんは「隣の子の方が好み」とか「どんなデートするか気になる」と恥ずかしいことをさらっというから困る。
「耐えた……!!」
「つまんな」
「つまんなくないです。必死です」
脱・恋愛不適合者を掲げているけれど、やっていることは学生のそれだ。
ちなみに奏叶さんと何故頻度高く会っているかと言うと、まだ奢れていないからだ。奏叶さんは検証の約束は覚えていたけれど奢る約束はすっかり忘れていたらしく食事を奢ろうとしたら「何勝手なことしてんの?」と叱られその時の食事は奏叶さんが支払った。
以降、何かと奢るチャンスを伺っている。しかしそれもいたちごっこで、毎回奏叶さんが先に払ってしまうので失敗に終わる。
何だか飲み友達認識なのかって油断して「何考えてるんですか?」とその横顔に尋ねれば「今日はいつ口説こうかと悩んでる」なんて大真面目に答えられてしまい、黙ることもあった。
ただ、少し厄介なことになった。
「あやみ一生のお願い、Queensのメンズと合コンセッティングして!」
昼休憩におにぎりを頬張っていると、彩葉は明らかに不相応なお願いをしてきたのだ。
「え、合コン?」
思わず聞き返したのは、合コンを持ちかけるのは毎回彩葉の方で、私が遠慮するまでが不文律だ。
「そう、合コン」
当たり前に彩葉は頷くので、スマホで合コンと検索した。
合コンとは、男女が出会いを求めて行われる飲み会やコンパのことです。合同コンパの略で、恋活や婚活の場として利用されています。
AIが教える。だよねと頷く。
「なんで?」
そしてもう一度疑問を口にした。
「できれば倉木さん込で!こっちはまみりんと私が参加するから!」
「(そういうことか)」
あの会議の日、奏叶さんのことは弊社女性社員の中でかなり話題になっていたらしく、会議が終わると同期に囲まれ「どんな内容だったの?」から始まり「あの倉木さんってひと、彼女いるの?」とすぐさま彼の話題に変化したのだ。
芸能経験あります?と言いたくなるような容姿に加えてあの大企業にて異例の若さで管理職に抜擢。女性たちが騒ぐのも致し方ない。
キラキラとした目が私を見つめる。見えない圧力によって気が重くなる。
「一応、聞いてみるね……」
NOと言えない女よろしく頼みを断れず頷いたものの、どうしたものか。
奏叶さんとはしばらく検証の予定もないので、電話で訊ねることにした。
お風呂上り、どうやって切り出そうと悩んで《相談したいことがあるので、電話してもいいですか》とメッセージを打てば、既読通知後すぐさま着信画面が現れた。
「どうしたの。トラブル?」
通話をつなげると、低く深い声の波紋は私が悩むこともなく促してくれた。
「あの……実は同期に合コンをセッティングして欲しいって頼まれたんですよね」
「あやみに合コンのセッティング頼むとか、鬼かな」
「母ライオンに崖から落とされるんです。奏叶さんも参加してください、と言われました」
「は?うちの会社と?」
「はい。メンバーは弊社の私の同期です。みんな可愛いし話も上手です。合コンというか、お話したいだけだと思います。……どうですか?」
電話口の声が何かを考える。
無理かなあ……。無理だよね……。
それとなく理由をつけて断ればいいか。
「あやみが今度、俺のお願いを聞いてくれたら行く」
脳内で断りの言葉を並べていると、条件付きで返された。
「……え?」
「次の週末、場所はまあ、詳しいやつに決めさせる」
マネジメントスキルがある人だからか、仕事のように次々と決定されていく来週の予定にいささか不安を感じ「いいんですか?」と決定事項を確認すれば「いいよ」と奏叶さんは頷く。見えもしないのに、電話の向こう側で彼があの勝気な笑顔を浮かべた気がした。
「逃げんなよ?あやみ」
ほら、絶対そうだ。
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