第3話

 呆気に取られて言葉をはっせない彼女に、警戒心を解くように満面の笑みで立ち上がると、妖艶さをまといすぎている女が歩み寄ってくる。


 歳の頃は二十代後半辺りであろうか……肌艶はだつやも良く目鼻立ちや口元にあるセクシーなホクロなど、パーツが完璧に整っている。

 肩より少し下まで伸びているウェーブのかかった艶々つやつやの黒髪を揺らしながら颯爽さっそうと歩く姿は、自身の美貌びぼうを確実に分かっていると思われる。




(……む、胸デカッ)



 何処ぞの派手なダンスパーティに行くのだろうかと考えてしまうような、全体にスパンコールが散りばめられた漆黒のスリット入りチャイナドレスの胸元からは、収まりきらない程豊満過ぎる胸が飛び出てきそうな勢いだった。


 同じ女性として羨ましくなるようなスタイルに、少女が思わず視線を向けていると、彼女の思っている事をすぐに感じ取った女は無駄に色香いろかを撒き散らしながら微笑んだ。



「どうもこんにちは……いや、そろそろ今晩は、かしらね? 私はこの何でも屋『日本晴れ』の店主の栗橋くりはし紫園しおんと申します」


「は……はあ」



 先程までのガサツなイメージとはうって変わり、別人かのような品のある物言いで一礼をされ、少女も戸惑いながらもつられてお辞儀を返した。



「さあ、お客様こんな所では話しにくいでしょう。此方こちらにお掛けになってください」


「え!? あ、はい……」



 自身の背後から声がして、そう言えば青年ともう一人誰か一緒に来ていたなと思い少女が振り返れば、目にまぶしい程の淡いピンクの髪色をした若い女の子がいた。


 服装は正にお姫様と言わんばかりのフリル付きのピンクのスカートにホワイトのゴスロリ風のブラウス。クルクルとカールされた髪の毛は両サイドの高い位置で結ばれてツインテールになっている。


 目が悪いのかお洒落しゃれの為の伊達だて眼鏡めがねなのか、顔の小ささに合わない大きな黒縁くろぶち眼鏡から覗くバッチリアイラインの引かれた大きな瞳に少女の顔が映る。


 彼女の姿を一目見て、ああ……あの入り口の扉のデザインは彼女の趣味なのかな? と、どうでも良いことを考えていた。まかり間違ってもあのメルヘン丸出しといった物がこの店主の好みとは到底とうてい思えないのだから、仕方がない事であろう。



「初めまして! 私は綴吉つづよし美花みはなと言います。で、そこのひ弱そうな男の子がキョウちゃんです」


「いや、美花さん雑っ!!」


 美花のざっくりとした紹介に、正にズコッという効果音が付きそうな位に大仰おおぎょうな動きで青年が前のめりにコケた。


 改めてコホンとせき払いをして気品を出そうと一礼をしてきたが、既にいじられキャラなのは目に見えていたのであまり意味をしていない。



「僕はここの助手をしている矢巻やまき叶大きょうたです。宜しくお願いします。お飲み物は何に致しますか?」


 ぶっちゃけた話、彼が今の所一番まともそうな人物の印象を受けた。他の二人が奇抜すぎる格好なのも影響しているかと思われるが、恐らく年齢が自身と一番近いという安心感も有るのかもしれない。




 ひとまず遠慮がちにお茶をお願いすると、ニッコリとこちらを和ませてくれるような微笑みを返し、叶大は買い物袋を拾い上げると、もう一つの部屋の方へと姿を消した。


 向い合わせの黒革のソファに緊張しながらも店の店主と対面に腰かけた瞬間、ようやく少しだけ肩の力が抜けたのを感じた。それ程までにここに来るまでに多くの体力を消耗しょうもうしたように思う。


 ふ……と、無駄に色気が有りすぎる顔で少女を見てくる視線に、モジモジと居心地が悪い思いをしながら少女がゆっくりと口を開いた。


「あ、の……。私の名前は水原みずはら璃子りこと言います。えっと、私がここに来たのは……」


幼馴染おさななじみを探して欲しいんだろ?」



 喋ってもいないのに、少女の言葉を引き取るように言葉を被せられ、言葉を続けられずにほうけていると、ふふっ……と美女、紫園が悪戯いたずらに微笑んだ。

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