暗闇の無数の扉
天元照大
悪夢
幼い頃から度々、見知らぬ風景が夢に出てくる。
それは、いつも同じ場所で一年に、三、四度思い出したように見る夢だ。ヨーロッパのような古い街並みの石造りの建物の迷路のように続く狭い路地を何者かに追われるように必死に走っているものだ。いつも背後から聞こえる足音だけで、足音の相手の姿は見えない。そしてそれは、決まって三階建ての赤いレンガの建物の玄関の分厚い木の扉の前で終わりを告げる。
中田和樹は、いつもの夢で目を覚ました。枕元のクローム・メッキの目覚まし時計の針は、午前二時を冷たく差している。まるで、ジョギングの後のように汗を全身にびっしりと掻いていた。
ナイト・テーブルの上の煙草を取ると火を点けた。この夢で起きた夜は、必ずと言っていいほど朝まで、眠れない。
和樹は、覚悟を決めてベッドを出た。リビングの黒革のソファーに身を預けるとアイリッシュ・ウィスキーをグラスに注ぎ、少しずつ喉に流し込んだ。途端に喉がひりつき、身体が火照りだす。黒雲のような淀んだ息苦しさは、少し軽くなったような気がする。しかし、胸の奥には、暗い思いが静かに沈んでいる。未だにこの夢だけは、慣れる事が出来ない。窓を開けると初春の肌寒い風が流れ込んできた。
彼は無駄だと思いつつも、ベッドに横になった。しかし、その努力も三十分だけ寝返りを打つだけで終わりを告げた。居間のソファーでランチェスター戦略の本を読み始めたが、集中する事が出来そうにない。今から街が動き出す五時間ほどの静かで重苦しい時間をやり過ごさなければならなかった。テレビの電源を入れ、チャンネルを変え続けたが結局、どれも見る気が起きなかった。
彼は、お湯を沸かすとコーヒーを煎れ始めた。
しかし、いつも夢に出てくる風景は一体、どこなんだろう?DVDの並んだ棚に視線を泳がせ、昔に見た映画を引っ張り出すとプレーヤーにセットした。画面には、中国のアクション俳優が屋上からベランダの手摺りを離しては掴んで、一階ずつ下りてゆくスリリングな場面が映し出されている。とても人間技には、思えない。しかし、和樹の視線は映画の場面を
朝六時になると半ば時間潰しにベーコンエッグとトーストを焼き、一週間ぶりのまともな朝食を摂った。
新聞に隅から隅まで目を通すとガソリンがまた値上がりするという記事が目に入った。通算で七杯目のコーヒーを飲み終えると家を出る時間になった。
和樹は、スーツにハーフコートを羽織ると部屋を出た。今朝は時間があったので、いつもより少しゆっくりと歩いた。駅に向かい、いつもと同じ時間の同じ車両に乗った。いつも通り、電車は混んでいた。毎朝会う五十代のスーツ姿の男に軽く会釈をした。普段と何も変わらないありきたりの朝だった。
会社に着くとまず、コーヒーを淹れた。昨日は早く退社したので、未決済の書類がいつもより多めに箱に押し込まれていた。うんざりしながら、パソコンを開き、メールを確認する。緊急性のあるメールから返事を作成する。ようやく終えると冷めかけたコーヒーを啜りながら、次々に書類に目を通し、承認印を押す。決済の終わった箱を出社したばかりの部下の平石真奈美に渡した。
「中田さん、今朝は少し眠そうですね。徹夜ですか?」
和樹は、両目頭を摘むと分かるかぁ、とバツが悪そうに答えた。
忙しい一日だった。突然、顧客から進めている飲食店の計画書の仕様変更を依頼され、資料を集めてまとめたり、不動産屋に連絡を取ったりで午前中の大半の時間を費やしてしまった。睡眠不足のせいか、いつもよりスローペースの頭の回転にイライラさせられた。
煙草とコーヒーを交互に口に運び、胃に軽い痛みを覚えた。明日からは、カフェオレに変えようと胃の辺りを擦りながら考えた。
和樹は、六本木の恋人と待ち合わせのバーに急いでいた。部下との提案書の件で打ち合わせが長引いてしまったのだ。駅近くのホテルを過ぎたところで、声を掛けられた。低い
「あんた、自分の将来に不安はないかね?」
「すまない、今夜は急いでいるんだ。それにそういうのに興味がなくて」
「待ちなさい。あんた、嫌な影が出ている。一つだけ、言っておくよ。決して古いモノを買ったり、身につけてはいけないよ。必ず、守りなさい」
老女は、足早に立ち去る和樹の背中に追いかけるように言葉を投げかけた。
和樹は構わず、待ち合わせのバーに向かって走り出していた。大通りから路地に入るとシルバーメタリックの扉を開け、階段を一気に駆け下りた。
薄暗い店内には、ぼんやりした青色の光が滲んでいる。カウンターの向こう側は全面、魚が泳ぐ水槽になっている。
神野京子は、カウンターの一番奥の席でカクテルグラスを傾けていた。和樹の姿を見つけると静かに微笑んだ。
和樹は息を整えながら、隣のスツールに滑り込んだ。
「何だか、眠たそうね。また、家に仕事を持ち帰っていたの?」
京子は、心配そうに訊いた。
「そうじゃないんだ。また、あの夢見ちゃってさぁ。眠れなくて結局、徹夜。」
「追いかけられるって、言ってたやつ。いつも同じ夢って、不思議だよね。」
和樹は喉の渇きを癒すため、ビールを注文した。
三十代前半のバーテンダーは、品のいい笑顔を浮かべると小さく頷いた。
和樹は出されたビールを一気に煽ると大きく息を吐いた。
「それって、何かの欲求とか、怖い思い出とかがカタチを変えて出てきてるんじゃない?フロイトに言わせると夢って、無意識を表しているらしいから。」
京子は、グラスの底に残ったカクテルを一気に口に運んだ。
「ずい分、難しい事を言うなぁ」
「これでも一応、英文科卒ですから」
京子は、大袈裟に勝ち誇ったような仕草をとった後、小さく笑った。
和樹は、煙草を取り出すと火をつけた。磨かれた白磁の灰皿に灰を落とす。灰皿から零れ、カウンターにうっすらとカウンターに散らばる。
バーテンダーは、きちんと折り畳んだおしぼりで丁寧に拭き取った。
京子は和樹の口元を眺めながら、いつ見ても歯がキレイね、と呟いた。
和樹は半ば、自棄気味に戸惑うバーテンダーに説明を始めた。
「僕は虫歯になった事がないし、歯医者にもほとんど行った事がないんです。母親は六十歳過ぎてますけど、虫歯がほとんどありません。口の中の細菌の環境って、三歳くらいまでに決まってしまうらしいんですよ。虫歯の原因と言われているミュータンス菌は通常、食事用のスプーンや哺乳瓶を介して母親から貰ってしまうそうです。ただ稀に、母親がミュータンス菌を持っていないと子どもが虫歯にならない体質になるそうです。」
空になったグラスを見てバーテンダーは、丁寧な言葉遣いで訊ねた。
「もう一杯、何かお作りしましょうか?」
「じゃあ、もうちょっと強いカクテルをください」
「今くらい甘めでよろしいですか?」
ええ、京子は、軽く頷いた。
和樹は気の緩みからか、大きな欠伸をした。
「でも、いくら寝不足だからだって、デートの途中に欠伸は困るわね」
京子は、和樹の頬を人差し指で軽く突いた。
「誰か、この厄介な夢をなんとかしてくれないかしら?」
バーテンダーは、シェーカーからカクテルをグラスに丁寧に注ぎながら口を開いた。
「余計な事かもしれませんが、私の知り合いに変わった男がいて、彼だったら相談になれるかもしれませんよ。」
どんな人?京子は一口カクテルを含みながら、興味深げに訊いた。
「私も詳しく知らないんですが、変わった能力があるらしいんですよ。突然、人が変わったように過食するようになったモデルの女性の女性を治したり、急に変な事を呟くようになった中学生を元に戻したり、本人は、迷惑みたいなんですけど。」
京子は信じてはいなかったが、どんな事をするんだろう?と少し興味を覚えた。
バーテンダーはよかったら、とメモ紙に店の名前と電話番号を書いて渡してくれた。流れるような綺麗な文字だった。たぶん、美意識が高い人なんだと京子は、思った。メモ紙をきちんと折り畳むと黒革のトートバッグにしまい込んだ。
和樹は二人のやり取りを聞き流しながら、アイリッシュウィスキーとレーズンバターを注文した。寝不足のせいか、いつもより早く酔いが回った。出されたウィスキーを喉に流し込みながら、何気ない会話を始めた。
「夢の中で、行ったことのない風景を見た事がありますか?」
バーテンダーは少し考えた後、静かに答えた。
「あまり夢を憶えてない方なんですけど、あるような気がしますね。あの場所は、何処なんだろうって。ひょっとしたら、子どもの時に旅行先の風景とかテレビで見たとか。そう言えば確か、マレー半島に住む先住民のある部族は、子どもの頃から訓練して夢を自在に操ることができるんだそうですよ。」
「それは、羨ましい限りだな。オレも夢を操れたらいいな。
和樹は、冗談めかしに言った。
バーテンダーは洗練された愛想笑いを浮かべながら、バカラのグラスを丁寧に磨きたてていた。
中田和樹は、仕事帰りに会社の同僚と一ケ月ぶりに酒を飲んだ後、覚束ない足どりで駅へと向かっていた。チームで広範囲のフランチャイズ契約が纏まったのもあって少々、飲みすぎてしまった。いつもならまず、間違える事のない町をどこで誤ったのか、見たこともない路地に迷い込んでしまった。細い路地には、五坪から十坪くらいの小さな店が並んでいた。派手な下着が吊るされた怪しい大人の玩具の店。スタンガンや催涙スプレー、防弾チョッキが並べられた店。
和樹の視線は何気なく、一軒の店に止まった。
それは、古い花瓶などが乱雑に並べられた骨董品の店だった。ショーウインドウには、中東辺りの金属製の古壺や古伊万里の皿などが飾られる中、
黒曜石の細かい彫刻を施したクロスをペンダント・ヘッドに使ったアクセサリーが彼の興味を惹いた。和樹、頑丈な木の扉を押すと、薄暗い店内に目を凝らした。奥に小さなカウンターがあり、そこには黒色のニット帽を被った七十近い?老人が座って文庫本に目を落としていた。
すみません、和樹は酒臭い口臭に気を遣いながら、声をかけた。
老店主は、三度目の呼びかけでやっと頭を上げた。
「悪いね、歳を取ると耳が遠くなってね」
老店主は、髭だらけの顔に大きな笑みを浮かべた。ヘビースモーカーなのか、右の前歯が黒く変色していた。
和樹は、ショーウィンドウの方向を指差すと相手に聴こえるように大きくゆっくりした口調で言った。
「表の、黒い石のペンダントを見せて欲しいんですけど」
老店主は中腰になると老眼鏡をずらし、黒曜石のペンダントを目で確認した。あれね、と言うと面倒臭さそうに立ち上がり、ショーウィンドウに飾られたペンダントを取りに行った。
和樹はペンダントを受け取ると許可を得てから、首に掛けた。店の壁に掛かった中世ヨーロッパ風のデザインの小さな鏡に映した。不思議な事に何となく心が落ち着いた。
「あんた、良いモノに目を付けたねぇ。実は、これはメキシコのマヤ文明の遺跡から見つかったモノだよ。こんな風に加工してあるから、元々は何か分からないが…。ひょつとしたら、生贄の儀式に使われた刃物だったりして?冗談ですよ。約千二百年くらい以上前の物だよ。鉄を持たなかった連中は、武器や刃物にチャートや黒曜石を使ったんだよ。結局、鉄器を持たなかったためにアステカ文明の頃にスペイン人に呆気なく征服されてしまったんだがねぇ。」
和樹は、胡散草そうな目つきで老店主を見ていた。
おいくらですか?恐る恐る、老店主に訊ねた。
老店主は腕組みをして考え込むと何かぶつぶつと呟いた後、二万円でいいよと言った。
和樹は、老店主の言葉を信じていなかったので不満げな表情を浮かべるとペンダントを外し、カウンターの上に戻した。
店主は本物なんだけどねぇ、と言いながら、また腕組みをして考えだした。
少しばかりの沈黙が続いた。
「七千円でいいよ。兄さんには、参ったな。信じられないだろうけど、これは本当にマヤ文明の遺跡で見つかった物に細工を施したんだよ。証明書がある訳じゃないけど。だから、これ以下だったら売れないよ。」
老店主は、口惜しそうに言った。
分かりました、和樹は黒革の財布を出すと相手の気が変わらないうちに代金を支払った。
老店主は、心許ない手つきで灰色の布の袋にペンダントを入れると和樹に手渡した。
老店主は、仏頂面で形式的な礼を述べた。
和樹は、部屋に帰って着替えるとさっき買った黒曜石のペンダントを着けてみた。全身に力が漲ってくるような不思議な感覚を覚えた。たぶん、酔って思い込みが激しくなったのだろう。
その時、部屋のチャイムが鳴った。たぶん、恋人の京子だろう。京子は、紺のスーツ姿でスーパーの買物袋を手に持っていた。
「お酒、臭ーい!ねぇ、夕飯、済ませたでしょう?」
京子は上着を脱ぐとてきぱきと冷蔵に買物袋の中身を詰め始めた。
和樹は、京子の白いブラウスの下の胸の膨らみが気になっていた。テレビのスポーツ番組に熱中している振りをしていたが、右足は小刻みに震えていた。
和樹は自分でもよく理解できないが、ひどく興奮していた。
「はい、酔い醒ましの一杯」
京子は、淹れたてのコーヒーを運んできた。和樹は、彼女の手からコーヒーカップを奪い取るとテーブルに置いた。
いつもより、自身が大きく硬くなったような錯覚を覚えた。射精するまでの時間が明らかに、普段より長かった。それでいて、射精した瞬間の快楽は通常より、大きかった。自分の中で、何が起こっているのか理解できなかった。まるで、何かのドラッグを使用したみたいだった。
京子はベッドの中で、愛の余韻を辿るように彼の背中をゆっくりと指でなぞっていた。彼の左の腰辺りに茶色の痣を見つけ、怪我の痕?と尋ねた。
その夜、不思議な夢を見た。初めて見る夢だった。
むせ返るような暑さのジャングルの中、じっと息を潜め、誰か待ち伏せしている。葉影の隙間から目を凝らし、一点を見つめている。視線の先には、多くの装飾品と派手な色の腰巻きを纏った汗に光った黒い肌の若い男が数人の屈強な男を従えて歩いてくる。時折、若い男は振り返ると後ろの男たちを激しく叱りつけている。
和樹は、いつもよりかなり早く自宅を出ると午前七時半には会社の自分のデスクでパソコンに向かっていた。顧客に提出する設計書修正するためだ。
頭の中がひどくスッキリしていた。地元の不動産会社から送られてきた建物と敷地の図面を眺めていた。今の提案では顧客の満足する座席数と駐車台数が取れないため、同系列の他店の平均的な回転率で積算すると月間の売り上げが顧客の目標数値をクリアできない。他店に比べ賃料のランニングコストがかかるため予想売り上げ高の妥協はできない。
始業時間の九時には、設計書の修正はすっかり終わっていた。確認を終え、5分位の説明の後、上司に承認をもらうと喫煙コーナーに向かった。
和樹は、ベンダーマシンに硬貨を放り込むと香り高いコーヒーを取り出した。ブラックを擦りながら、三日前の夜の不思議な感覚を思い出していた。あれ以来、体の細胞の一つ一つが活発に動き出したような気がしていた。タバコに火をつけると黒曜石のクロスにワイシャツの上から触れた。なぜか、心が落ち着くような気がした。
午前十一時に中堅食品製造業の会社へ訪問すると提案書提示した。この会社はここニ、三年売り上げが頭打ちで飲食事業に進出を考えているのだ。手軽に食べられるコンセプトのイタリアンレストランの長所、豊富な種類のパスタと新技術の早く茹で上がる麺で回転率が高い点を熱を込めて一時間ほど説明した。その間、先方は部長まで出てくると熱心に身を乗り出し終始、笑顔だった。ここ数年伸び悩んでいる既存の食品流通事業を見直し、飲食店への事業展開を真剣に検討している様子だった。一樹の感触としては、契約はほぼまとまりそうだった。1店舗七百万円のフランチャイズ契約金× 30店舗分、その30%がフランチャイズ本部から営業委託を受けている自社に六千三百万円が入ってくる。その他、店舗を開店するにあたり、1店舗あたり約七千万円かかる開業費の内装工事や調理器具の売買代金の一部が自社に手数料として入ってくる。すべて入れると優に1億円以上の手数料だ。なんとしても成約しなければいけない相手だった。途中勘が冴え渡り、相手の考えていることが手に取るように分かった。最近は、まるでテレパシーみたいに他人が考えていることが自然に伝わってくる。
たぶん、この提案は役員決済までとんとん拍子に進むだろう。
和樹はひどく疲れていた。部屋に戻ると上着をソファーに投げ、鍋をかけるとパスタを茹で始めた。インスタントのミートソースを麺にかけると夕食を簡単に済ませた。いつもなら食事の後、すぐに食器を洗ってしまうのだが、珍しく後回しにしてしまった。洗濯物も必ず3日に1度はいるのに、疲れているのを理由に、日曜日にまとめてやってしまおうと放棄した。すべてが面倒臭かった。とにかく一刻も早くベッドに飛び込みたかった。
土曜日の朝の光がカーテンの隙間から和樹の顔に落ちている。ぼやけた視線を置き時計に投げる。十時を差している。普段なら、とっくに起床している時間だった。掃除機を一通りかけ終わり、洗濯終えてゆったりと朝のコーヒーと音楽を味わっているはずの時間だった。しかし、今日は身体が重く、布団から抜け出す気力が出ない。なんだか全てが面倒で仕方がなかった。昼過ぎにはシャワーを浴び身支度を整えてから、京子と待ち合わせをしているイタリアンレストランに出かけなければならなかった。そう思いながらも、もう一度布団に潜り込んだ。重い疲労感が駄々っ子のように身体にしがみついていた。観念して布団から這いだすとシャワーを浴び、支度をした。いつも磨き上げられているお気に入りのイタリア製の革靴には、うっすらと埃を被っている。待ち合わせの店の最寄りの駅で降りると少し時間があったので、本屋に立ち寄った。ビジネス書と旅行のガイドブックを二、三冊パラパラと捲った後、本屋を出た。
結局三十分ほど遅れて待ち合わせのレストランに着いた。
和樹は呼吸を整えながら、遅刻の言い訳を半ダースほど思いついたが、使えそうな理由は一つもなかった。怒った顔の京子に、ありったけの言い訳と謝罪の言葉を並べ立てたが、
最近、煙草の本数が増えた気がする。和樹は料理を待つ間、無言の京子のご機嫌を取るために、メモ紙に彼女の顔を描き始めた。苦手な美術の時間に嫌々、やった位しかないデッサンだったが、不思議にうまく描けそうな気がしていた。何かが乗り移ったみたいにメモ紙に繊細な線で、彼女の顔を浮き上がらせていった。
「上手いじゃない。和樹って絵の才能があったんだ。見直したよ。」
京子はふくれっ面を
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