ゲシュタルト崩壊

stdn0316

第1話

 今日もまた職場でミスをした。新人がするような初歩的なミスだ。入社8年目、周りの目が痛い。


 上司からは毎日叱責され、後輩もおれを陰でバカにしているのが分かる。女性社員たちからも明らかに避けられている。


 何故ミスを繰り返すのか、これからどうしていくつもりなのかと詰問する上司の齋藤を見る。


 この前目を見て話を聞いていたら目つきが悪いと指摘されたので、首からぶら下げた社員証の「齋藤」の文字を見つめる。

 あれ?齋藤ってこんな字だったっけか。


 正直、こんなことはどうでもいい。おれにはセンスがない。後輩たちにもすでに追い越された。窓際で構わない。


 ただ割り切ってはいても、居場所のない生活を続けていると鬱々としてくるのが人間である。仕事については諦めているので、新しく趣味を始めることにした。釣りである。


 理由は一人で始められそうなこと、好きな女性YouTuberが釣りの動画を上げていたことくらいだ。あわよくば釣りに来ている可愛い子と仲良くなれるかもしれない。


 実際始めてみると、想像以上にハマった。退屈するかと思っていた魚がかかるまでの時間も、自然の音に耳を澄ませているとリラックスできる。


 可愛い子はいないし、友人もできないが同じ釣り人同士のその場限りの関わりも気楽だった。

 人生の拠り所を見つけたおれはあっという間に釣りに依存した。とにかく釣りたい。


 趣味が充実しても、仕事の生産性は全く上がらなかった。何も考えていない状態から釣りしか考えていない状態になっただけなので当然である。


 上司の話も聞く気にならない。うるせえなあ。

 後輩に舐めた態度を取られたので怒鳴り散らした。釣りたい釣りたい釣りたい。

 そのうち会社に行かなくなった。


 釣り道具や交通費で金がないため借金した。そのうち返す。とにかく釣りたい。

 生活は崩壊した。仕事をクビになった。でも釣りたい釣りたい釣りたい。


 ん?ところで釣りってこの字でいいんだよな。攣り?

 釣りたい攣りたい攣りたい。


 釣りたい釣りたい釣りたい。

 攣りたい攣りたい攣りたい。

 釣りたい釣りたい釣りたい。


 吊りたい吊りたい吊りたい。


 あれ?なんでおれ今首吊っ






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