第6話 一生の不覚。その言葉は己を惨めにする。

 ———今まで散々気まずーとか言ってきたわけだが……俺は無知だったらしい。


「…………」

「…………」


 真に気まずい時、下らない言葉すら出てこない。そもそも考えようとしても頭が上手く回らなくなってしまうのだ。

 お陰で今の俺の頭の中は、孤独な部屋にポツンと置かれたアナログ時計の秒針をぼーっと見つめるだけの無能と化している。まだカエルの方が考えてそうだ。


 今俺達が居るのは、田舎の一校である我が学校からそこそこ離れた県庁所在地のある市内。

 放課後ということもあり、顔見知りさえいないが、同じ制服の人はチラホラ見る。

 逆に言えば、俺は知らずとも中村のことを知っている人は多い。そして間接的に俺のことを知っている人も多いのだろう。

 

 ———この視線の数が答えみたいなモノだ。


「……見られてる、ね」

「……ああそうだな。まぁ中村は人気者だからな、妥当っちゃ妥当だ」


 珍しく回りを気にした様子の中村。

 さぞ気まずいんだろう。無意識に髪を手でこねくり回しているのが良い証拠だ。そのせいでピアスが見え隠れし、俺の目を焼いている。眩っ。

 

 とは言え、気まずいのは今の俺と同じだ。まぁこねくり回すほどの髪の長さも、気まずそうな表情さえ絵になるような美貌はないが。あと、ロン毛は好きじゃない。女受け悪いから。


「あれって……」

「でもあの2人って……」

「う、うん。確か隣のクラスの……」

「よなっ。じゃあなんで……」


 この聞こえるか聞こえない程度の他人からの言葉。

 そんななんてことないように見える言葉が、俺達の間に流れる気まずさを増大させる。いやマジで、ホントに止めてもらいたい。是非ともL◯NEやらDMなど、声の発さないツールでの会話を所望する。え、俺達がどっか行けば良い? で、ですよねー……分かってました……。


 俺は小さく、隣の中村にも聞こえないほどの本当に小さな息を吐く。


 こうなったのは———俺の一時の気の迷いのせいだ。

 

「……中村」

「ど、どうしたの? あと名前……」

「? 名前は矢代には聞こえないから良いだろ」


 そう言う経緯で名前で呼んでいたわけだし。


「……あんたって、偶にとんでもなく朴念仁だよね」

「朴念仁? ハッ、察しの良さでいったら真也の次くらいだと自負しているぞ」

「早速近くの人に負けてるじゃん……」

「アイツは察しのバケモンだぞ。俺の顔を見てなくても、俺の心の声と会話してくる奴より察しが良いとか死んでも吐けねぇわ」


 ジトッとした目を向ける中村に、俺は肩を竦める。

 悪いが、真也を超える察しの良い人間を俺は知らない。俺が親友と呼べる奴は、アイツだけだ。


「…………私だって、あんたの心くらい……」

「ん? あんだって?」

「何でもない。それでなんて言おうとしたの?」


 おっと、そう言えば話が脱線していたな。

 でも言うタイミングを逃すと……なんか言い辛いな。

 いや、何を躊躇っている赤星藤吾。ただでさえ気まずいってのに、今更考えてどうするよ。


 俺は改めて小さく息を吐くと。


「いや……ただ、悪いなと思って。ほら、俺が断らなかったからこんな状態になったわけだろ?」

「べ、別にとーくんが悪いわけじゃ……」


 中村がパッと此方を向いて首を横に振る。

 相変わらず優しい子だ。

 本当に俺のせいだと思ってないんだろう。だからこそ、俺は———いや、これ以上は止めておこう。今必要ないことだ。


「や、でも矢代の先輩のお前は断りにくいだろ? 俺ならのらりくらり躱して断るくらい出来———」

「———ち、違う!」

「っ」


 突然声を張る中村。

 いきなりなもんで、どんなホラゲーでも驚かないこの俺が驚いてしまった。一生の不覚だ。そして、この程度が一生の不覚と思ってしまう俺の薄っぺらい人生にも非常に残念な気持ちになる。


 なんて、自分で自分のテンションを下げる愚策を犯した俺に、中村が目を右往左往させながらたどたどしく紡ぐ。


「わ、私は、とーくんに謝って欲しいわけじゃなくて……そもそも、私がこんなお願いしたのが悪くて……だ、だから、とーくんが気にすることじゃないよ……」


 そう言って、グッと唇を噛む。

 どうやらよっぽど自分を責めていたみたいだ。

 まぁ元を辿れば、俺の所に来るまでに断り切れなかった心音にも非はある。間違いなくそれは心音が悪い。が、それは言っても原因のほんの少しだけだ。


 ———俺は、それを責めるつもりも批判するつもりもない。


「……なら、お相子ってことにしようぜ。何なら矢代のせいにして、今から逃げ出したって良い。……あれ? 寧ろそれが1番良くね? アイツが俺達が別れてるって知っていればこんなことにはなってないんだし」


 言えば言うほど俺が謝る理由も、中村が謝る理由もないことに気付いた。

 そんな言っててテンションが戻ってきた俺を見て……中村がキョトンとしたかと思えば、いきなり笑い始めた。


「………ふふっ、あはははははっ、それもそうね。なら、私も寧々のせいにして今を楽しもうかな。だって私———悪い子だし。でも……逃げたくはない。後で寧々と気まずくなるのヤだもん」


 俺ならアイツと気まずくなるのは全然問題ないけどな。

 寧ろそっちの方が嬉しい。もうあの脳内お花畑に関わらなくてもいいと分かっただけで気分はハッピー。今なら敏腕美女社長を口説くことさえ出来そうだ。


「んで、何処に行く予定なんだ?」

「確かね……」


 まぁ仮にカップル、又は好きな人と放課後に遊びに行くとしたら……カフェとか映画館とかがスタンダードか。

 だがあの脳内お花畑のことだ。なんか変なモノを入れてそうな———。




「あ、そうそう———猫カフェよ」




 矢代さん尊敬してるっす、いやマジで。


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