船内観光編

船内観光

 船内観光をしようとメントルに言われ展望デッキへ行こうとエレベーターホールに着いた時だった

「これは珍しい方ですねぇ」

 突然声をかけてきたその人は小太りで50歳前後の男だった。

「あなたは誰ですか?」

 僕は冷静に返す。ここで冷静を失ったら負けだ。

「わしはアガトンというものでな、今話しても良いか?」

 アガトン。ギリシャ語で善を意味する。この船に来るような物好きに善なんて存在するのだろうか。

「どうするメントル」

「……」

「メントル?」

 おかしい。先程知ったばかりとはいえメントルが黙るなんてありえない。こういう時は嘲笑すると思う。

「お連れはメントルというのですか?」

 アガトンが不適な気持ち悪い笑みを浮かべる。

「あぁ、彼女はメントルと名乗ってる」

「あなた騙されてますよ」

「偽名なのは最初から分かっているから心配ご無用だ」

「彼女の本当の名をご存知無いようなので心配にもなりますとも。『初心者狩り』よりたちが悪い」

本当の名?

「彼女の本当の名は『ジョーカー』ですよ」

 ジョーカー。さっきメントルが話してた奴のことか。てことは自分で危ないと忠告していたのか?半信半疑だな。

「どうなんだメントル」

「……はぁ」

 小さなため息をつくだけか。まさか本当にジョーカーなのか?

「あーあ残念、もう少し騙していたかったな」

「まさかお前がジョーカーなのか」

「そのまさかだよ!私がジョーカーさ!」

 ジョーカーならなんで自分のことを危険と言ったんだ?もう少しってことはバラす予定はあったはず。なのになぜ――

「絶景の展望デッキでバラすつもりだったのに台無しじゃないか。ねぇ、カルトマ・スーチャルさん」

 カルトマ・スーチャル?そんなまさか。彼女はアガトンの本名を知っているとでも言うのか?

 アガトンを見ると顔から血の気が引いて明らかに動揺していた。

「ど、どうしてわしの名を知っているんだ!!」

「さぁ、なんででしょう♪」

 そしてアガトン改め、カルトマ・スーチャルは逃げるようにどこへ行った。

「早く展望デッキへ行こう」

 僕はとりあえずこの場はジョーカーについて行くことにした。ジョーカーが何をしようとしてるから全く分からない。怪しい部分も多いし信用なんて出来ない。だけどどこか腑に落ちない部分がある。

「展望デッキは二人きりだといいね」

 今は警戒しつつ観察してみるか。

「着いたみたいだね」

7階の展望デッキに着くと全面ガラスで夜空が良く見える。

「ねぇ、私のこと聞かないの?」

 まるで聞いて欲しそうな目でこちらをみてくる。

「ジョーカー、お前は僕のものだ」

 ジョーカーは意表を突かれた顔をした。

「ハハハハッハ!やっぱり君は面白いよ!普通この場面でそんなこと言わないよ」

 ジョーカーは僕のネクタイを引っ張って顔が今にもつきそうな距離に来ると小声で言った。

「君、本当の名前は――でしょ」

 俺は突然言われた自分の本名に動揺を隠せなかった。

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