詐欺師は今日も踊る
東井タカヒロ
初心者狩り編
舞台
怒号、歓声、悲鳴。様々な声が飛び交うこの場所は天空カジノ。
飛行船に存在するこのカジノは世界で唯一の治外法権である。このカジノにはどの国の憲法、法律が一切適用されない。
そして代わりにこのカジノ独特の【ルール】がある。
ルール1.飛行船内での出来事の一切の口外を禁ずる。
ルール2.22時~23時までの殺人を禁止する。
この2つのルール以外であれば何をしても良い。もしルールが破られた場合、最初から存在しなかったことになる。
そして僕はこの明らかにヤバそうな飛行船に招待されてしまった。
遡ること数日前。
いつものように仕事から帰宅するとポストに一通の手紙が入っていた。
その手紙は黒く光沢がある手紙で、差し出し人の名は無く、表にロゴのようなあったぐらいだ。
開けるの少し躊躇うほどだ。
恐る恐る開けて見ると、説明の紙と何故か本名が既に記入してある1枚の招待状が入っていた。
正直怪しいし、行かないと思った。
だけど、物珍しさと好奇心が僕を駆り立てここまで来てしまった。
今更ながら後悔している。
手持ちは残り100万円。
こんな飛行船旅が最低でも3ッ月続くと思うと最悪な気分だ。
この飛行船は1Fが倉庫兼出入り口、2、3Fに客室があり、101号室から210号室に振り分けられてる。
4Fがレストラン、5、6Fがカジノ、7Fが展望デッキとなっている。
僕の客室は3Fの205号室だ。
部屋の中にはベットと小さなテーブル、それとメモ帳とボールペンが置かれている。
意外にも質素な部屋だ。
あまりにも暇なので僕は10万円を持ち、5Fのカジノに向かった。
「やっぱり辞めようかな……」
カジノの入り口の目の前で来てしまって僕は立ち往生してしまった。
「そんな所で立ち止まって何してるの?」
後ろからそう声をかけられ、振り返るとツインテールで緑と赤の髪が混じった女の子らしき人が立っていた。
「あぁ、すみません」
その子は僕のことをじろじろ見てくるとこう言った。
「全負けでもしたの?」
「そういう訳じゃ無いけど」
そんな顔に見えたのか。
「どう?私にお金を貸してくれない?私なら10倍にして返すよ」
なるほど。これは乞食だ。この子はカジノで全負けをして無一文なのだろう。
だから僕にお金を貸そうと話を持ちかけてきた。
「もし10倍に出来なかったら?」
少女は少し悩んだ後に目を向かって言った。
「私を好きにして良いよ」
そんなことをこんな幼そうな子が気軽に使っても良いものなのだろうか。
「分かった」
そして僕は10万円全て渡した。少女は10万円を受け取るとカジノの奥へ消えて行った。
下心が無いと言えば嘘になる。決して僕はロリコンな訳でないが。
ちょうど暇していたんだ。
成功すればお金が、失敗してもあの子が手に入るんだ。僕に損は無い話だろう。
僕は自分の客室に戻り、ベットで爆睡した。起きた頃に時計を見るとさっきから3時間ほどが経過していた。
「一度見に行くか」
僕は正装に着替えるともう一度カジノの入り口へ向かった。
先程とは違い、食堂へ行く人で入り口が混んでいた。人混みをかき分けて行くと、隅の方に先程の少女が立っていた。
「結果はどうなったんですか?」
僕は少女に話しかけると少女は下を向きながらボソボソと答えた。
「そのー……途中までは勝って……200万ぐらいにはなったんだけど……気付いたら0円になっていて……」
「ええと、つまり?」
「0円になりました」
あまり期待してはいなかったが実際無くなると虚しいものだ。
「約束通り君を貰うけど良いかい?」
「約束だしね。良いよ」
そうして僕はカジノで1人の少女を手に入れた。
それが全ての始まりとも知らずに。
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