闇塚
志賀恒星
第1話 闇塚
真っ暗な闇に覆われた森がある。
人が足を踏み入れてはいけない場所。禁足地。
これからこの森に入っていくのだと思うと、背筋の毛がそそり立つ。
だが、その実態を掴むことが我々に与えられた使命なのだ。
なんて少し気取ってみたけど疲れたのでやめた。
せっかくなので少し自己紹介をしておくと、私の名前は如月綺羅。花も恥じらう18歳の乙女だ。滋賀県立水口北高校の2年生で、オカルト同好会の貴重な部員。
今日はオカルト同好会の行事、もとい神聖な調査活動の一環で、甲賀市の北西にある通称”闇塚”と呼ばれる遺跡に潜入調査する予定なのだ。
「ふむ。これと言って特徴の無い森だが、これが噂の闇塚なのか?」
などと呑気なことを宣っておられるのは我が同胞にしてオカルト同好会部長の望月恭平である。
実際、目の前には闇が広がっているのだけど凡人には何も感じないらしい。というか、たぶん私の方がおかしいのだろう。ここだけの話にして欲しいのだが、実は私は”視える”人のようだ。何が視えるのかを”視えない”人に説明するのは難しいが、一言で言うと霊的なモノと呼べば良いようだ。そう教えてくれたのが本日の3人目の参加者、というか主催者でもある古谷響先生。そう、同じく水口北高校の地理の教師でオカルト同好会の顧問でもある。
ちなみに、我がオカルト同好会のメンバーはこの3人。古谷顧問と望月部長、そして私だ。つい先日までもう一人いたのだが、廃墟になった病院の潜入調査以来体調を崩して退部してしまった。
「如月、何か視えるか?」
「闇しか視えません、先生」
「闇が視えるというのは、日本語として正しいのか?」と望月。
「望月君、何が言いたい?」
「何も見えないから闇と言うんだろう。それしか視えないというのは、痛え・・・」
お尻をさする望月を横目に古谷先生の元に歩みよる。本当は頭を一発叩きたかったのだが、奴は身長180cm越えときてる。ジャンピングアタックをするには足場が少し悪い。
「先生、ここはどう言う場所なんですか?先日の廃病院なんかよりよっぽどヤバい感じなんですけど」
「やはりそうか」
「やはりって・・・」
闇塚は不思議な場所だった。どんな文献にもその記載はなく、公式には名称もきまっていなかった。しかし、近くに住む人に聞くと、誰もがその存在を知っており、口を揃えて「絶対に入るな」という。
だが、何が危険なのか、なぜ入ってはいけないのか、由緒を知っているものは一人もいなかった。
全国に禁足地は数あるが、闇塚は無名に近い存在だった。知られていないから大したことがないのではなく、知られないようにされてきたのではないか?古谷先生はそう答えた。
「それに」
「まだ何かあるのですか?」
「香坂美紀のことだが」
「美紀ちゃん?」
「ああ、体調不良で休んでいるということだが、実は現在は行方不明になっているそうだ」
「はい、知ってます。もう一週間近くになりますよね。私のところにも何か思い当たるところは無いか問い合わせがありました」
「そうか。警察にも捜索願が出されているみたいだね。学校にも聞き込みに来られていたよ。で、最後に目撃されたのがこの付近だそうだ」
急に気温が下がったように感じた。闇塚を覆っている闇も濃さを増したようだ。
「じゃあ、美紀ちゃんがこの中にいるかもしれないですね。早く入りましょう」と恭平。どこまでも能天気な野郎だ。
「警察が調べ尽くしたが何も見つからなかったみたいだ。」
「文字通り潜入調査ということですね。まあ、僕に任せてくださいよ。シャーロック・ホームズの生まれ変わりと言われているこの僕に」
誰が言ったのか知らないが、シャーロック・ホームズは小説の中の人物だ。生まれ変わる訳がないんだけど、ツッこむのも面倒なのでそっとしておく。
「警察は闇塚に踏み込んだのですね」
闇塚が怒っている。そう感じたのはこのせいだったのかもしれない。
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