第6話

 バァンッ


 一発の銃声が響く。それはシーシャの右腕を撃ち抜き、使い物にならなくした。


「酷いじゃないか、キャレ。」

「どっちがよ……。」


 キャレは分からなかった。こうなってしまった理由が。だが、シーシャを止めてやらなければいけないことは理解できた。


「あなたは許さない。でも連れて行く。メモリーチップを出して。」

「やっぱりあなたは優しいんだね。でも、私は違う。」


 シーシャの胸がガバッと開く。そこにあったのは仕込み銃だった。


 ドンッ


 弾はキャレの頭に当たった。左側頭部が抉り取られる。見えたのは頭の中身が殆ど機械になった姿だった。


「アハハハハハハハハハハ‼︎」


 シーシャは今までで一番大きく笑った。何が面白いのだろう。それは本人にも分からなかった。

 直後、胸に数発の銃弾が撃たれた。撃ったのは涙を流した一体のヒューマノイドだった。


「なんで、泣いてるのさ。」

「分からない、分かんないよ……。」


 キャレは銃を地面に落とす。そのまま静かな時間が流れた。何故だろう。二人とも妙に落ち着いていた。


「チップを出して。」

「無理だ。チップには発信機が付いてる。NSOがもう察知してるだろうから今度こそ逃げられない。」

「それでも……。」

「駄目だ。」


 諦めろとシーシャが力強く目で訴える。そんなの飲み込みたくない。でも、その願いを無下にすることはできなかった。

 キャレはポケットから何かを取り出す。四角い包み紙に入ったチョコレート。とても懐かしいものだった。


「まだ持ってたんだ。」

「ただのお守りだよ。」


 紙を剥がすとチョコレートを小さく割る。その欠片をシーシャの口の中に入れた。

  

「甘いね、キャレ。」


 シーシャはその小さな欠片をずっと味わうように目を閉じた。そして、脇腹あたりの収納スペースを開いた。そこにはタバコが入っていた。

 キャレは無言でそれを受け取ると、スパークしたシーシャの身体で火をつけた。


「さようなら。」

 


 ぷかぷかと煙を蒸し、あなたを背に無心で進んだ。林を抜けた頃、後ろで何発か銃声が起こった。振り返らなかった。振り返ったらあなたを裏切る気がしたから。


「苦いな……。」


 顔を上げ、涙交じりの声でキャレはそう呟いた。

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煙草とチョコレート 外都 セキ @Kake0627

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