ソウルバトル ――魂を賭けた戦い――

佐藤ゆう

闇の教主と邪神の転生者


 険しき山脈に建てられた黒牢の城――。


 城主 ソラ・クラウドは、城の地下の螺旋階段をゆっくりと降りていった――。


 コツン コツン コツン――ピタリ――。


 脚を止めた牢獄の前で城主ソラは、囚われた少女を憐れむ瞳で見つめた。


 黒の眼帯により両目は塞がれ、拘束具により全身の動きを封じられていた。


 少女はうっすらと赤い唇を開く。


「……殺してください……」


 感情もなく無機質な言葉に、城主ソラは心を痛めて まぶたを閉じた。


 ――殺すべきか、殺さずべきか――。


 答えは決まっているのに、わずかな迷いがソラの心を揺さぶった。


「キミを救おう」


 少女はにっこりと微笑み。


「……ありがとうございます、ソラ様。 わたしはこの世界に存在してはいけないのです。この世界のためにわたしを救ってください。 死こそわたしに許された救いなのです……」


 牢獄の扉を開けてソラは、少女の両目を塞ぐ黒い眼帯を外した。


 そこには――美しい少女がいた。


 魂も精神もその覚悟も、人を魅了するすべてがつめ込まれているようだった。

 

 死を望み、感情もなく無機質な言葉とは違い、少女の瞳には強い意志が込められていた。


 殺してください――と。


 この世界のためにわたしを――と、そう強く。


「キミは生きたいかい?」


「いいえ」


「キミはこの世界に未練はないのかい?」


「はい」


「じゃあ、この世界のために生きるつもりはないかい?」


「……なにを……? 言って……?」


 戸惑う少女の瞳をじっと見つめた。


「……キミは この世界のために生きなくてはならない。 それは死ぬよりずっとつらく悲しい出来事が待っているかもしれない……けど、キミなら耐えられると、ボクは信じているよ……」


 優しく微笑み、少女の瞳の奥を覗く。


 ――そして少女のすべてを奪った――



 ―――――――。


 バラシアン平原―――。


 荒れた大地を突き走る、一台の馬車――。


 土煙を巻き起こしながら走るその後ろから、大量のバケモノ達が馬車を追っていた。


  ズドドドドドドォォォォ。


「ど、どうしやす、ボス?」


 馬車に乗り込む『ホビット族の少年』が緊迫した声で。


「はっはっはっ! ちびっ子、お主が囮になればいいじゃろがい、わっはっはっ!」

 

 モジャモジャ髭のドワーフが豪快に笑う。


「おまえが行けばいいだろう? 年寄りの見せどころだぞ」


 金髪のエルフの少女がクールに告げる。


「お主に言われたくないわいっ。年増の陰険エルフめがっ」


 睨み合うドワエルの間に、小さな子竜が割って入る。


「ガーガー!」


 こんなときにケンカをするな――と言っている。


「あははっ、すごいですねぇ!」


『記憶喪失の少女』が後ろから追いかけてくるバケモノ達を元気よく眺めていた。


「どうするんですか、ソラ様?」

  

 記憶喪失の少女に聞かれ、この世界に6人しかいない マテリアルマスターである『暗  雲ソラ・クラウド』は答える。


「殲滅する……」


 静かにつぶやき、両腕を広げて魔力を全身に集中させる。


「……デスボール」


 唱えると、逃げる馬車と、追いかけるバケモノ達の間に、小さな黒い玉が出現した。


 どんどんと大きくなり黒い玉は十数メートルほどまで膨れ上がり、バケモノ達は吸い込まれるように突入していく。


 ――すべてが突入し終わると、黒い玉は収縮していき、その場から消え去った。

 追いかけていたバケモノ達とともに――。


「……はあ、はあ、はあ……」


 息を切らせソラは、膝を馬車の床に落とした。


「大丈夫ですか、ソラ?」


 身体をエルフの少女が支える。


「ああ、大丈夫……はあ、はあ……」


「ソラ様ぁ、すごい魔法でしたねぇ!」


 記憶喪失の少女は瞳をキラキラと輝かせていた。


「はあ、はあ、はあ、なに、ボクはこの世界に6人にしかいないマテリアルマスター、闇の教主ソラ・クラウドだからね……」


 無理やり強がるように、闇の教主はにっこりと笑う。


 ――――――。


 1ヶ月程前――。

 活気が溢れる街を見下ろすように建てられた、白き白皇の城――。


 6人のマテリアルマスターのリーダー『光の教主 アメリダ・エメラルダ』が住む居城。


 王座に座りアメリダは、眼下に平服する闇の教主に告げる。


「――あの女は邪神の生まれ変わりだ。この世界のために滅ぼせ……」


 頭を下げて平服する闇の教主は怒りに震えてつぶやいた。


「……納得がいかない………」


 そして立ち上がり大声で叫んだ。


「――納得がいきませんッ! 彼女はたくさんの人達の命を救った……! その力を使えば、この世界の敵になることを知っていたのに……。それなのに……!」


 顔色を変えず光の教主は平然と。


「彼女が望んだことだ……。この世界のために殺されたいと……。慈悲を与えてやれ……」


「……あなたが………ぐっ! あなたが、そういう風にッ……!」


 怒りに震えて拳を強く握り締める。


「くくくっ。ただ、私は語っただけだよ……。かつて邪神の生まれ変わりがしてきたことを……。民衆が知らない、我らしか知らされていない口伝をな……くくくっ」


 王座に座り楽しげに笑う光の教主に、闇の教主ソラ・クラウドは膝をつき こうべを垂れる。


「……わかりました。オレが彼女を殺します……」


 ――彼女の中の邪神のみを――。


 ――オレの命をすべて使ってでも――。


 ―――――――――。


 馬車を止めてソラ一行は、岩石地帯で休憩をとっていた。

 岩壁に座り水を飲むソラに、記憶喪失の少女が心配そうに近づいていく。


「ソラ様、どうしたんですか? ぼーとして? 大丈夫ですか……」


「いや……大丈夫、なんでもない……」


 記憶喪失の少女はにっこりと微笑む。


「わたしにできる事なら なんでも言ってくださいね、ソラ様」


「……ありがとう、頼りにしてるよ……」


 彼女の笑顔が、あの日の出来事を思い出させる――。


 ――彼女と、『ミナト・イスバール』と初めて出会った日の事を―――。


 ―――――――――。


 闇の教主 ソラ・クラウドが住む黒き居城『黒の極地ブラックパレス』。


 黒牢の城の地下深く、罪人が囚われる牢獄で、少女は目を覚ました――。


「……わたしは? だれ? 誰なのですか……?」


 牢獄に囚われし少女は茫然と、目の前にいる人物に聞いた。


「……はあ、はあ、はあ……キミは、『ミナト・イスバール』。この世界を救う者だ……」


 闇の教主 ソラ・クラウドは、これまでの出来事をすべて話した――。


 ――――――。


「……そうですか……。わたしは……邪神の生まれ変わりなのですね……」


 堅牢な牢獄から出て、黒城の広間の椅子に座り、ミナトは顔を伏せた。


「……それで……自分から命を捨てようと……」


 暗く落ち込むミナトの隣に座り、ソラは優しく微笑みかける。


「……キミには これまでの人生、辛いことがありすぎた……。死をかんたんに受け入れるほどに……」

 

 ソラは先ほどまでなかった、自らの右目に付けられた黒の眼帯に触れる。


「……だから奪った……。キミの中の邪神の力と一緒に、『記憶』を……この眼の中に……ぐっ」


 右目を押さえて屈み込むソラに、心配そうに身体を寄せた。

 震えながら顔を上げ、ミナトと向き合った。


「……奪い、封印しているといっても……邪神の力の核はキミの中にある……。磁石のように引き合い……いずれはキミの元に戻るだろう……」


 ミナトは立ち上がり、鬼気迫る迫力で告げる。


「なら、わたしを殺すべきじゃないんですか? 死にたいわけじゃないです。前のわたしのように、死を受け入れているわけじゃないです。でも、前のわたしの覚悟を無駄にしたくない。彼女はわたしなのですから……。わたしは彼女の意志を引き継ぎます!」


 気圧される程の覚悟を示すミナトの姿に、ソラは嬉しそうに微笑んだ。


「ふふっ。いまのキミには、生きる覚悟があるみたいだね。そのうえで死を選んでいる……。なら……この先の、『死より辛い試練』に耐えられるかもしれない……」


 ミナト・イスバールの肩を掴み、真剣な表情でソラ・クラウドは死より重い覚悟を伝える。


「――オレがキミを、命を賭けて救ってみせる……!」


 ―――――――――。


「――ソラ、大丈夫ですか?」


 ――岩壁に座るソラに、金髪のエルフが心配そうに尋ねる。


「……いや……少しキツい……ふぅー……。キミの王の薬草を分けてくれないか?」


 ギコチなく笑い頼る姿に、エルフの少女は安堵する。


「ソラ、私たちだけには強がらないでくださいね。私たちは、この先の『聖戦』のために集まった仲間なのですから……」


    ◆


 離れた場所で仲間達は話し合う。


「どうじゃ、ソラ殿の様子は……?」


 モジャモジャ髭のドワーフが、金髪のエルフに聞いた。


「……かなり衰弱されているが……命に別状はないだろう……」


 ホビット族の少年は悔しそうに地団駄を踏んだ。


「……ボスは頑張りすぎだぜ。何もかも背負って……。オイラたちにも背負わせてほしいぜ……」


 主を心配する小人の愚痴に、エルフの少女は微笑んだ。


「……それが性分なのだろう……。皆もそれは知っていることだろう?」


 仲間たちは笑顔でうなづいた。


 エルフの姫は、故郷がオークとゴブリン達に襲われた時、誰1人見向きもしなかった救いの言葉を聞き、たった1人で故郷を救ったソラに忠誠を誓い――。


 ドワーフのやんちゃな王太子は、自分のせいで坑道に閉じ込められた仲間達を救ったソラに借りを返すことを誓い――。


 義賊を名乗り、貴族から盗みを働いていた大泥棒のホビット族の少年は、処刑から救ってくれたソラの舎弟に勝手になり――。


 小竜のメイデンは、生き倒れていた自分に餌をくれたソラに父性を感じて懐いた。


 仲間達はあらためてソラを守ることを誓い合った。


「――囲まれている……!」


 岩壁に座るソラが立ち上がり、周囲を見渡した。

 ソラ達一行を囲うように、無数の飛竜が飛び交っている。


「―――!」


 真上から、バサバサと羽ばたく大きな音が聞こえてきた。


「 ヤッホー! 」


 明るい声が響き、上空に、超巨大な真紅のドラゴンが現れた。

 それを見上げてソラは緊張感を走らせる。


「……竜 王ドラゴンキング……!」


 大翼を羽ばたかせ真紅の竜は、ソラ達の前にドズンと降り立った。振動で岩石地帯がグラグラと揺れた。

 真紅のドラゴンは陽気に喋り始める。


「ボクは、竜魔王カルロス。以後お見知り置きを……」


 丁重にお辞儀をするドラゴンを見上げ、ソラは平然と告げる。


「何か用か、ドラゴン?」


 真紅の竜はにんまりと笑い。


「彼女を、『邪神の御子の魂』を引き渡してもらいたい。それと、君の中の邪神の力もね」


 笑顔で脅迫するドラゴンの前に、ソラの仲間の一匹、小竜 メイデンが歩み出る。


「ガーガー!」


 威嚇する小竜に。


「おや? 君はボクのところから脱走した、44番目の子供じゃないですか。生きていたんですね?」


 真紅の竜は我が子を見て、獲物を視る眼差しで ぺろりと舌舐めずりする。


「ガァー!」


 ビクっと震える小竜をかばうようにソラは立ち塞がった。

 

「――まあ、いまは君などどうでもいい……」


 興味を失くして竜魔王は、ソラに視線を投げる。


「僕は無駄な争いは嫌いでね。渡してくれないか、邪神の力をすべて……」


「……何に使うつもりだ………ま、ロクでもないことか……。渡すことはできない……お帰り願おう」


 剛気な態度で伝えると、ドラゴンはあははっと笑い。


「――じゃあ、ブチ殺して奪うしかねェーか……」


 放たれた殺気に、周囲の空気がビリビリと張りつめた。

 真紅の竜はニコっと笑顔で。


「ウソウソ。そんなことしたら、邪神の力はまた新たな転生者に移るだけ。僕は無駄が嫌いなんだ、スマートにいこう」


 笑顔の竜に、ソラは真剣な表情で告げる。


「……奪魂の儀式ソウルバトルか……」


 表情をぱぁーっと明るくさせて真紅の竜は、ダンスをするかのように軽快なステップを踏んだ。


「そう! 魂を賭けた究極のショー! 奪魂の儀式ソウルバトルさぁ!」


 陽気な竜に、ソラは覚悟を示す。


「――わかった。オレの魂を賭け――」


「――わかりました! わたしの魂を賭けます!」


 ソラの言葉を遮り、邪神の御子 ミナト・イスバールが、闇の教主と竜魔王の間に割って入った。

 堂々とした態度で超巨大なドラゴンを見上げた。


「――おやおや、お仲間を『かばう』とは……麗しき友情ですねぇ……しくしく。見ていて泣けますねぇ……およよぉ……って――」


 そして怒りの形相で憤怒する。


「 超 ウ ゼ ェー! 人間共のクセェー三文芝居を見せやがってェ! とっととテメェーらの魂を、順番に奪ってやるから覚悟しやがれェ!」


 醜い本性をさらけ出す真紅の竜に、ミナト・イスバールは笑いかける。


「かばう? 違います。ソラ様……手を――」

 

 慈悲深く微笑み、ソラに手を伸ばした。

 わずかに戸惑いソラは、死より重い覚悟を決める。


「わかった……」


 握りあった瞬間―――閃光が走る―――


 まばゆい光は暖かく周囲を照らし出した。


  ――魂の饗宴ソウルシンクロ――


 光が徐々に収まり――そこには、たった1人の人物が立っていた。


 ――ソラ・クラウド――


 彼1人が立っていた。


 仲間達は驚嘆と感動をそれぞれが感じていた。


「……魂の究極秘儀――魂の饗宴ソウルシンクロ――。互いに命を預けるほどの信頼がないとできないとされる、奇跡の御業――!」


「――たしか、片方が完全な霊体化し一つとなり、その力を何倍にもすると言われている、ホビット族の英雄譚で語り継がれる恩技です……!」


「さすが、ソラ殿とミナト殿だ……!」


「ガーガー」


 暖かい光に包まれソラはまぶたを開ける。

 下種に笑う真紅の竜に、ソラは体内に流れる熱き血潮を解き放つ。


「――オレの魂も賭けよう。オレたち2人でおまえを倒す!」


「ヒャハハハハハッ――! 2人まとめてあの世に送って差し上げますよォォッ!」


 醜い醜聞を撒き散らす悪竜に、勝利への意志を互いの心の中で同調させる。


 ――ソラ様、行きましょう――


「ああ、必ず『手に入れる』!」


 魂を賭けた儀式が開始される。


 邪神の転生者 ミナトと一つとなった闇の教主 ソラと、竜魔王カルロスを、四角い決闘結界陣が囲う。


「――さあ、初めましょうか。魂を賭けた儀式『奪魂の儀式ソウルバトル』を……!」


 奪魂の儀式ソウルバトルとは――古来よりアルデント大陸で行われてきた戦いの儀式。

 何者をも侵入できない結界の中で魂を賭けた決闘を行う。

 異世界から流れ、この世界中で流通しているトランプを元に生み出された、3000年も昔からある最古の儀式である。

 

 ソラとカルロスは互いに『腕を霊体化』し、胸の中に突き入れた。


「――いくぞ、魂抽出ソウルアゲイン!」


 腕を胸から引き抜き、5枚のカードを手に取った。

 儀式の元になった異世界の遊戯『トランプ』でいう、初期手札というヤツだ。


「さあ、準備は整いましたね。魂を賭けた儀式、魂の儀式ソウルバトル開始です!」

 

 戦いの火蓋が切って行われた。

 結界の外からソラの仲間達が固唾を飲んで見守っていた。


 1ターン目 竜魔王カルロス 生命ライフ【15】


「――まずはボクのターンです。魂の欠片ソウルドロー!」


 霊体化した腕を胸に突き入れてカードを引き抜いた。


「ボクは、ドラゴンアンネルジュを2体召喚」


 左手に持つ裏側表示のカードを、右手で2枚抜き取り、指先に持って公開すると、カードは消失し、竜魔王カルロスの前に2体のドラゴンが出現した。


「ターンエンドですよ」


 自らのターンを終わらせ、相手にターンを移した。


 2ターン目 ソラ・クラウド 生命ライフ【15】


「――オレのターン、魂の欠片ソウルドロー!」


 胸に手を入れてカードを引き抜いた。


「さあさあさあ! 魂を賭けた勝負を楽しもうじゃありませんかァ! 血を臓物を魂を撒き散らして惨めに無惨に死んでくださいよぉぉぉ、ゲハハハハハッ!」


 醜く涎を撒き散らす悪竜にあきれ果て、ソラは戦いの眼を強行に光らせる。


「――礼節を知らないドラゴンだ、しつけてやるよ……」


 手札を2枚、指先に持ち公開する。


「ダークナイトオーバーキャリーを2体召喚……!」


 黒き戦士が、この決闘空間に顕現した。


「――2体を合体させ、真黑騎士 ダークスカイを合体召喚……!」


 2体のモンスターが黒魂に変わり、混じり合う。

 膨れ上がった黒魂は弾け、新たなモンスターを生み出した。

 黒馬にまたがり、誇りを喪いし闇の騎士の誕生を祝おう。


「――ボスのモンスターが、相手モンスターを上回った…!」

 

 魂力レベル12 真黑騎士 ダークスカイ

 魂力レベル 6 ドラゴンアンネルジュ


「行けェ、ダークスカイ! 殺竜 黒死滅々斬!」

 

 爆炎を纏った黒剣の横薙ぎが、2体のドラゴンを一気に斬り裂いた。


「オレのターンは終了だ……」


 2体のモンスターを墓地に送り、ソラは静かにつぶやいた。


 3ターン目 竜魔王カルロス 生命ライフ【15】


「ゲハハハハハッ! いいねェいいねェ、やるじゃあないかァ! 高ぶってきたァァッ! ボクのターン、魂の欠片ソウルドロー!」


 引いたカードを確認して竜魔王は下浸た笑みを浮かべた。


「ゲハハッ、ちょっとだけ本気を出してやるから、すぐに死ぬんじゃねぇーぞ! 呪文 《ドラゴンリッパー》!」


 発動すると、竜魔王カルロスの身体を、真空の刃が斬り刻んでいく。

 無数の傷口から血が溢れ、上空に集まり血の塊が造られる。


「――この呪文は生命ライフを10消費することによって、ブラッドドラゴンを4体召喚する……!」


 巨大な血の塊は4つに分かれ、血の竜が創造された。


「――そして、4体のブラッドドラゴンを生贄にして――」

 

 真紅の竜がドズンと前に歩み出た。


「ゲハハハハッ! このボク、竜魔王カルロスを召喚だあああああッ! ゲハハハハハハハッ!」


 結界の外の仲間達は激しく動揺した。


「ほ、本人自身を召喚した、そんなのありっスか!」


「いや、だが……自身を召喚したということは、奪魂の儀式として組み込まれ、モンスター化しているということ……」


「つまりは、アヤツを倒せば、この儀式はソラ殿の勝ちということだな……?」


「ガーガー!」


 荒々しく真紅の竜が吠える。


「いくぜいくぜいくぜェェ―――ッ! 子供達、ボクに血を捧げろォォォッ!」


 周囲に飛び交う飛竜達が、両爪で自身の体を引き裂いていく。

 傷口から先ほどのように血が溢れ、結界を越えて、真紅の竜の開いた口に集約していく。


 エルフの少女はその光景に驚愕する。


「なにッ! 周りのドラゴン達から血のエネルギーを吸い取っている……!」

 

 収集した極大の血球を―――


贄 の 血ブラッドバーン! 」


 真黑騎士 ダークスカイに向けて放った。

 大爆撃し、結界じゅうに血が飛び散り、赤黒い煙が漂う。

 血煙の毒素がソラの身体を蝕んでいく。


「ぐっ!」


 ソラの生命ライフが15から5まで削られた。

 膝をつき苦しむソラを愉悦に見降ろした。


「ゲハハハハハッ! どうしたどうしたどうしたアァァァッ! その程度か? もっとボクを楽しませろよォ……! ゲハハハハハハハハッ!」

 

 よろりと重い腰を上げ、闇の教主は凄まじい覇気を漲らせる。


「……ベラベラ喋る うるさい竜だ……。じゃあ、楽しませてやるよ……!」


 霊体化した腕を、胸にズボッと突き入れた。


「オレのターン、魂の欠片ソウルドロー!」


 突き入れたままの腕に、最大限の魔力を流し込んでいく。


「うおおおおおおおッ! 魂 燃 焼ソウルバースト!」

 

 引き抜いた燃え盛る1枚のカードを指先に持って公開する。


 そこに描かれていたのは――


「――闇の教主 ソラ・クラウド召喚……!」


 竜魔王と同じく、自身をモンスター化して奪魂の儀式に降臨させた。


「――ボスも、自らモンスター化を……!」


「一発逆転のチャンスだが……リスクも果てしなく大きいぞ……」


 仲間達が不安を抱くなか、真紅の血竜は汚い涎を垂れ流し、べろりと舌舐めずりする。


「いいねいいねェ………だが、バカめっ。そうくると思っていたよォ……!」


 手に持つカードを公開する。


「闇の封印」


 呪文が発動されると、ソラの全身を、真紅の鎖がぐるぐると巻きつき縛りあげていく。


「ゲハハハハハハッ! 闇のモンスターは、すべての力を封印されるのさァッ!」


「ああッ! ボスが……!」


「ヒヒヒヒっ……。これでボクの勝ちは決まっ――何?」


 目の前にいる、鎖に縛られた人物に衝撃を受ける。


「――い、入れ替わっているゥ!」


 闇の教主 ソラ・クラウドはその場から消え、鎖に縛られているのは、両手を合わせて祈る『邪神転生者 ミナト・イスバール』だった。


 ミナトの全身から聖なる光があふれ、巻きつく血の鎖を消滅させた。


「こ、この光は……まさかっ……貴様は、『聖女』なのですか?」


 動揺するドラゴンを、ミナトは貫く瞳で見据えた。


「じゃ、邪神の転生者が……世界に選ばれし聖女だと……そんなバカなことがあるわけ……」


 霊体となったソラがミナトの隣に立った。


「違う……。聖女とは世界に選ばれし者じゃない……」


 静かにたたずみ闇の教主は告げる。


「――聖女とは、誰よりも光輝く心を持った者。誰しもがなれるジョブだ」


「ソラ様!」


「ああ、いくぞ!」


 2人は隣合い、手を合わせた。


「「無限の魂力ハイパーソウルシンクロ!」」


 激しい光が世界を照らす。


 ――光が収縮し、その場には、闇の剣と、光の鎧を装備したソラ・クラウドが立っていた。

 

「 聖究暗黒闘士 ソラ・クラウド――誕生……! 」


 光と闇の戦士の顕現という常識を超越した事象に、竜魔王カルロスの理解を崩壊させた。


「バカなァァァァ――ッ! 聖女の力と暗黒の力を合わせただと……!」


 一歩一歩 近づいていき、真紅の竜を睨みつける。


「竜魔王カルロス……その魂をもらい受ける……!」


 竜の王は恐怖のあまり全身をガタガタと震わせた。


「ま、まさかまさかまさかァ……最初からボクの魂を……!」


 必死な形相で助けを叫ぶ。


「こ、子供たち、ボクに、ボクに力を――」


 呼応して周りにいる飛竜達が結界に近づいていく。


「――させるわけないだろう」


 エルフの杖から放たれた落雷が飛竜たちを落としていく。

 結界を囲うように4人の仲間達が立ち塞がった。


「――ここから先は、命を捧げる覚悟でかかってこい。おまえ達の親にそんな価値があるのならな……」


「ソラ殿、ここはまかせろ」


「ソラ、頼みます」


「ボス、かっこよくヤっちゃってください!」


「ガーガー」


 仲間達の声援に力強くうなづいた。


「いくぞ、ミナト。魂の神劇ソウルデュエットだ」


「はい、空様。華麗な魂のダンスで魅了してさしあげましょう」


 聖究暗黒闘士 ソラ・クラウドの周囲に、魂が導かれるように集まってきた。

 ぐるぐるとソラの周りを回り、魂は散開し、結界外にいる仲間達に宿り、神秘の守護を与える。


 黒剣を構え、ソラとミナトは共鳴し、魂のボルテージを上げていく。

 圧倒的な魂の波動に、真紅の竜は怯え慄いた。


「ひィ――っ! やッ、やめろォ、ふざけるなァァ! クズでマヌケな人間の分際でェ、この竜魔王のボクの魂を……やめろおおおおおおおおおッ!」



2 人 の 絆ダブルソウルスラッシュ !」



 ズバアアアアアアアァァァァッ!


 ∞ダメージ


「ぎゃああああああああああッ!」


 一刀両断――真っ二つに斬り裂いた。


 生命ライフが尽きた竜魔王の身体が光となって消え去り、その場には魔王の魂だけが残された。


 奪魂の儀式ソウルバトルが終わり、一つとなった2人は別れた。

 静かに佇むソラに、ミナトは満面の笑顔で。


「やりましたね、ソラ様」


 ゆっくりとミナトに振り向き――


「……君の中にある邪神の核を消滅させるには、6つの魔王の魂と、魔神王の神魂が必要だ……」


 そして真剣な眼差しで思いを伝える。


「――それは過酷で死より辛い旅になるかもしれない。それでも君は――」


「ソラ様」


 言葉を遮りミナトは、無邪気な笑顔で親指を突き立てた。


「ガンバです」


 それを見てソラはキョトンとしたあと、ふふっと微笑んだ。


「ああ、頑張ろう……」


 結界が解け、仲間達が駆け寄ってきた。


「皆と共に……」

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