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いつの間にか外では雨が降っていた。
スマホをいじっていた彼女が僕のことを呼びかける。
「そういえば君、明後日、誕生日でしょ?」
唐突に放たれた質問に、僕は驚くしかなかった。確かに明後日は僕の誕生日だ。ただそこに驚いたわけではなく、なぜ宗像さんが僕の誕生日を把握しているのかに驚いたのだ。
「え……。僕、明後日が誕生日だって、誰かに教えたかな?」
「ふふーん」
彼女はそう言いながら目を細めて、笑って見せた。
「だって君、今朝「明後日は、誕生日だから自分にプレゼント買いに行くんだ〜」ってつぶやいてたでしょ?」
——そのことに関して、心当たりはある。しかしそれこそなぜだと聞きたい。
たしかに僕はさっき宗像さんが「つぶやいてた」といってた通り、Twitterでツイートした。しかし彼女が僕のTwitterを知っているということがおかしい。もちろん僕自身が宗像さんに教えた覚えはないし、ましてや身バレしないように慎重を期していたはずだ。
しかし——
「実名を使っているところが少し甘いよね。それに君が好きそうなものだったり、高校に受かった報告が、この高校の合格発表当日なのも考えるとね。それになにつぶやいているのか見てみたら、本の感想ばっかりだし。見つけてしまえば、すぐにわかったよ」
まったく……返す言葉も見つからない。しかしそれがすべて宗像さんに筒抜けだったなんて思ってもみなかったし、余計なことを言っていないか不安になってくる。
「えっと……いつから?」
「まあ、結構最近なんだけどね。あ、そうそう、君のフォロワーの中の“さらさ”ってカウント、私だからね」
慌ててスマホを取り出して、アプリを開きフォロワー欄を確認する。そう多くないアカウントの中から“さらさ”を見つけ出すのは容易だった。
アイコンやヘッダーを変更していない、シンプルすぎるそのアカウントは、フォローしているアカウントこそ多少あるものの、自分から何か発信している様子はなかった。それに、比較的最近作られたようで、さながら僕を監視するためのカウントと言っても過言ではないように思えた。これからは十二分に発言に気をつけなければならないと自戒することにした。
「それでさ、君の誕生日当日、私もついていっていいかな?」
宗像さんからの思わぬ提案に少し戸惑う。
「僕は大丈夫だけど、宗像さんこそ大丈夫なの?僕みたいな人と一緒に出かけて」
そういうと彼女は数秒、きょとんとして我にかったように返した。
「私に付き合ってくれてるお礼がしたくて……。そこまで高いものは買えないけどさ、本の一冊や二冊はプレゼントしたいと思っただけだよ」
正直僕にはあまりある言葉だと感じる。僕の方こそ、宗像さんと関われて嬉しいわけだし……。ただ、彼女の好意を無下にはできないと感じた。
「その気持ち、ありがたく受け取るよ。もともと明後日は、ショッピングモールに行こうとしてたんだけど、それでもいいなら」
「いいよ!君となら楽しいだろうし!」
そう易々とハードルを上げられると困ってしまう。ただ、明後日は宗像さんに少しでも楽しいと感じてもらえるよう、色々と考えようと思った。
「ついでにさ。連絡先交換しておかない?一緒に出かけるなら待ち合わせとかに必要だろうし」
「もちろんでございます」
僕は、無意識のうちにそう返事をしていた。
「ありがと。じゃあ私はこっちの道だから、バイバイ!」
そう言って宗像さんは控えめに手を振る。僕も手を振りかえして「バイバイ」と返す。離れゆく宗像さんの足取りは、いつにも増して軽快だったように感じた。
◇
その日の夜。僕は明後日、何をするかの予定を考えていた。
一緒に出かけたりしたら、教室の凛とした表情や、今日の華やかな表情とは違う何かを見せてくれるのだろうか。もしかしたら友達よりも、その先に続いてくれるだろうか?なんて淡い期待を抱いていた。
妄想は止まらず、気色悪い笑みを浮かべていることを自覚した僕は、足早に電気を消してベットの中で悶えた。
バレンタインの日に後悔する話 東雲八雲 @shinonome_yakumo
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