バレンタインの日に後悔する話

東雲八雲

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思い返してみれば「後悔の始まり」と感じる日も、今日と同じように夕方まではなんでもない、普通の一日だった。



僕は夕食を摂った後、ふと甘いものが食べたくなり、コンビニに行くことにした。

季節は冬。朝方から降り出した雪は、日中にかけて弱まっていき、夜になった今はもう止んでいた。ただ、路面に積もった雪が簡単に消えることはないそうで、いまだ堆雪幅に高く積もっていた。

こんな天気だったというのに、駅前は人で溢れかえっていた。

仕事帰りのオフィスワーカー、ベビーカーを押した家族連れ、大学生らしき集団。仲睦まじそうに歩くカップル。

ちょうど、僕の目の前にもカップルと思わしき二人組が歩いていた。お互い身を寄せ合って、笑いながら会話をしている。歳は、高校生か大学生ほどだと思う。ということは、大学三年生の僕と同い年か、それよりも年下ということだ。

僕は、カップルが嫌いだ。彼ら彼女らをみると、どうしてもばちが当たればいいのにと思ってしまう。自分でも性格が悪いと自覚しているが、どうしても見掛けるたびに、些細な神罰を願わずにはいられない。

このことを知り合いに話すと、僻みと妬みの権化と揶揄される。否定したいけど、その半分ほどは事実なのだろう。悲しいことに。

僕が、これほどまでに捻くれた性格になったのは、中学の時からだろうか。

その頃、僕には好きな人がいた。

宗像更紗むなかたさら、ショートボブの髪型に丸メガネ、左目にホクロが二つあって凛とした表情、白いヘアバンドが特徴的な女子だった。そして、ファーストキスを捧げた人でもある。けれど五年前のある日、僕は彼女の好意を受け止められなかった……。

思い出したくないことを思い出してしまい、下がっていた視線を上げた時、自分の目を疑ってしまった。

先程まで身を寄せながら歩いていたカップルが、互いの腰に手を回して歩いていた。つまり、公共の場で半分抱き合った状態で歩いているのだ。あまりにも節度がない行為に、僕は少し戸惑っていた。しかし、節度を失っていると感じたのは僕だけではないらしく、すれ違う人は驚きのあまり二度見をし、まじまじと見ていた子供を母親が「見てはいけません!」と嗜める始末だった。

そのカップルはしばらくすると、細い路地に入って行った。僕は何を血迷ったか、好奇心に掻き立てられ、少し覗いてしまった。

すると二人は路上で熱いキスをし始めたのだ。それも短時間ではなく、ずいぶんと長く感じられた。カップ麺を作れるくらいには長かった。

徐々に気分が悪くなってくる。

僕より年上のカップルであれば、「いつかあんなこと、できるようになれるのかな」なんてピュアな心で淡い期待を抱けるのだが、同い年、はたまた年下ともなると、嘆息の一つや二つじゃ済まされない。

足早にコンビニに向かおうとした……、その時あることに気がついた。

男女のうちの片方が、宗像更紗にそっくりな……、いや宗像更紗その人だった。

二人の行為はさらにエスカレートしていき、男が腰に手を回し、胸を揉みそうになったところで、ようやっと我に帰った。

訳のわからないものを見た気持ちわるさと、本能的な拒絶感で、僕は本来の目的すら忘れ、逃げ帰るように家へ向かった。



宗像更紗——

今夜の彼女を思い出してしまうたびに、も蘇ってきて、後悔と不快感が続くんだろうと悟る。


あの光景を見て、思い出すなという方が無理だった。

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