バレンタインの日に後悔する話
東雲八雲
1
思い返してみれば「後悔の始まり」と感じる日も、今日と同じように夕方まではなんでもない、普通の一日だった。
◇
僕は夕食を摂った後、ふと甘いものが食べたくなり、コンビニに行くことにした。
季節は冬。朝方から降り出した雪は、日中にかけて弱まっていき、夜になった今はもう止んでいた。ただ、路面に積もった雪が簡単に消えることはないそうで、いまだ堆雪幅に高く積もっていた。
こんな天気だったというのに、駅前は人で溢れかえっていた。
仕事帰りのオフィスワーカー、ベビーカーを押した家族連れ、大学生らしき集団。仲睦まじそうに歩くカップル。
ちょうど、僕の目の前にもカップルと思わしき二人組が歩いていた。お互い身を寄せ合って、笑いながら会話をしている。歳は、高校生か大学生ほどだと思う。ということは、大学三年生の僕と同い年か、それよりも年下ということだ。
僕は、カップルが嫌いだ。彼ら彼女らをみると、どうしても
このことを知り合いに話すと、僻みと妬みの権化と揶揄される。否定したいけど、その半分ほどは事実なのだろう。悲しいことに。
僕が、これほどまでに捻くれた性格になったのは、中学の時からだろうか。
その頃、僕には好きな人がいた。
思い出したくないことを思い出してしまい、下がっていた視線を上げた時、自分の目を疑ってしまった。
先程まで身を寄せながら歩いていたカップルが、互いの腰に手を回して歩いていた。つまり、公共の場で半分抱き合った状態で歩いているのだ。あまりにも節度がない行為に、僕は少し戸惑っていた。しかし、節度を失っていると感じたのは僕だけではないらしく、すれ違う人は驚きのあまり二度見をし、まじまじと見ていた子供を母親が「見てはいけません!」と嗜める始末だった。
そのカップルはしばらくすると、細い路地に入って行った。僕は何を血迷ったか、好奇心に掻き立てられ、少し覗いてしまった。
すると二人は路上で熱いキスをし始めたのだ。それも短時間ではなく、ずいぶんと長く感じられた。カップ麺を作れるくらいには長かった。
徐々に気分が悪くなってくる。
僕より年上のカップルであれば、「いつかあんなこと、できるようになれるのかな」なんてピュアな心で淡い期待を抱けるのだが、同い年、はたまた年下ともなると、嘆息の一つや二つじゃ済まされない。
足早にコンビニに向かおうとした……、その時あることに気がついた。
男女のうちの片方が、宗像更紗にそっくりな……、いや宗像更紗その人だった。
二人の行為はさらにエスカレートしていき、男が腰に手を回し、胸を揉みそうになったところで、ようやっと我に帰った。
訳のわからないものを見た気持ちわるさと、本能的な拒絶感で、僕は本来の目的すら忘れ、逃げ帰るように家へ向かった。
◇
宗像更紗——
今夜の彼女を思い出してしまうたびに、嫌な記憶も蘇ってきて、後悔と不快感が続くんだろうと悟る。
あの光景を見て、思い出すなという方が無理だった。
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