結城、探偵役になる

桃山イチゴ

探偵役になっちゃった男

私は左遷されたかもしれない。今朝出勤すると先輩から異動の話を聞いた。この前まで流行病で寝込んでいた私には急転直下の情報だった。

そして、私が向かった先は……


「回想長くないか、君」


「回想って何ですか!私は部署が変わり、ついて行ったら目の前に死体ですよ!」


「それでいい。簡潔が大事だよ。くどい話は眠くなる」


高いスーツを着ている上司・高津は旅館のオーナーである男の遺体をジロジロ見ている。

旅館はいたって普通だが、オーナーの肖像画が小さい金の額縁の中で笑っていた。とてもミスマッチである。

近くでは三人と従業員が騒いでいる。なんなんだ、このカオス空間は。


「もうどういうことよ、これ」


「知らない。俺は知らないぞ」


「殺人事件ってことですか?」


派手なピンクの服を着た女性・田沼は観光目的で旅館に泊まったらしい。大きなキャリーケースを旅館に来た際、足にぶつけられてしまったから覚えている。

先程から自分は無関係だと言い張る遺体発見者のおじさん・綿貫は貧乏ゆすりをしながら椅子に座っているがいつまでもつか分からない。膝に乗っているマルチーズが小刻みに揺れているのが可哀想だ。

殺人事件モノホンじゃんと興味津々な大学生・多森はさっきからウロウロしている。正直赤シャツ、筋肉モリモリで情報過多すぎる。ウザい。


「考え事が多い佐々木くんはこのご遺体をどう思う?」


「どうって言われても私には」


「思ったことを言ってくれ」


「はい。普通倒れたらうつ伏せか仰向けだと思うんですけど何故横向きなんですかね。頭に血が付いてるし後ろから殴打されたようなので仰向けに倒れません?」


「他には?」


「遺体の近くにわずかながら血痕が」


「それで」


「指を指してるようにも見えるし、ダイイングメッセージを残そうなんて、あっ、すみません刑事ドラマじゃないんだしメッセージなんて」


「いい線だと思うが」


「ありがとうございます。もしかしてですけど高津さんはもうおおよその事分かってたりしますか?」


「全然!しいて言うなら犯人が遺体の下にあった物を取り出そうと横向きにしたとしたら?人差し指がさす方にはタヌキの置物があるし」


「まさかタを抜いたら犯人なんて言うんじゃないでしょうね。田沼さんは沼、ワタヌキさんはワヌキ、多森さんは森。これのどこが犯人に繋がるんですか?」


「ぷっ、君想像力豊かすぎ」


「おっまえ、上司じゃなかったらタヌキで殴って……あっ」


「分かったようだね、あれが凶器さ(適当に言ってたら当たった〜)」


「本当だ、血が付いてる。じゃあ、横向きも、もしや、はっ!?」


「何かあっただろう(多分)」


「遺体の下にフンがある。ということは犬を飼っている綿貫さんが犯人」


「そうかもしれないしそうじゃないかもしれない」


「えっ、どっち!?」


もったいつけて話すところがムカつくが、私に何かを伝えようと、いや気づかせようとしているのかもしれない。


「その人が犯人よ!事件解決だわ、解決よね」

田沼さんが詰め寄ってくるので離れようとすると服に赤い染みがある。


「この染みってまさか血⁈」


「違うわよ。これはイチゴソース。ほら、貴方の上司も食べてるじゃないの」


「え」


振り向くと旅館の仲居にイチゴパフェを受け取って食べている。口の周りにソースをベタベタ付けて。


「ちょっとちょっと何してるんですか!」


「おっといけない。そこの君、これを持っていてくれ」


「うわっ、ダイヤ付いてる高級時計!何この上司!」


「いいっすよ」


大学生に投げて渡しイチゴパフェを食べようとする高津の手を止める。


「食べてる場合じゃないでしょ〜が〜」


「力強いって、痛い痛い、そんなに食べたいなら後であげるから」


「あんた、上司でしょうが。そもそも仕事で来てるんでしょうが!」


「もう犯人は分かるじゃないほら」


高津の指の先にいる大学生を見て理由が分かった。


「へへっ、ダイヤだ。高級品だ〜〜」


歯茎を剥き出しにし、興奮のあまり血が出ている。垂れた血は床に染みをつくる。


「まさか、この染みってお前の歯茎の血か!」

「彼の筋肉ならタヌキの置物を持ち上げ殴打するのも問題ないでしょう」


「は?動機は何だよ」


「そんなの簡単さ、ね、え〜と」


「結城ですよ、来る前自己紹介したじゃないですか、高津さん」


「いや忘れてないよ、結城っていい名前だと思っただけだよっ、ほんとほんと」


「俺を無視するなっ」


「すみません、黙ってくれます?動機はあの金の額縁を盗もうとしたら被害者がいたから殴打。その時いかついギラギラ指輪についた宝石を落とし被害者の下に入ってしまったから遺体を横に向けたが、こちらに向かってくる足音が聞こえそのまま逃走。フンはマルチーズが勝手に遺体に近づいてその場でしちゃったとかですかね。ほら事件は終了って、あっ、高津さん、パフェ何杯目ですか!!自腹嫌ですよ」


「ナイス、推理だね結城くん。すみません、イチゴパフェもう一杯」


こうして旅館オーナー殺人事件は幕を閉じ、イチゴパフェ代は私が立て替えることになった。ついでに報告書を提出し、旅行会社調査員のメンバー兼高津の助手に任命されたのだった。

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