第6話 フラワ公国の大公様


「ふんふふんふふんふ~ん♪」


 ビーラがご機嫌に魔法植物研究所を訪れる。


「よっすビーロっち~♪……ってあら…留守みたいね。珍しい。ここにいないってことは、あそこかな~?」



 ビーラはある崖の横穴にやってきた。

 ここは花畑が一望できる眺めの良い場所だった。そこに、小さくうずくまって泣いているビーロがいた。


「やっぱここにいたのねビーロっち…って、もしかしてあんた泣いてんの? どうしたのよ!あんたが泣くなんてよっぽどのことじゃない!?」

「うぅ……ビーラ殿……自分のことはほっといてほしいでありまず……ぐずっ…」

「ほっとけるわけないじゃないの!…………もしかして……ブルームーンの後からずっと泣いてるの?」

「うぅううう……」

「あっちゃ~……こればっかりはねぇ……ブルームーンは公平だから、仕方ないのよねぇ……次!次の恋を探すのよビーロっち!あんたは美人な上にダイナマイトボディなんだから、ブルームーンの日に巣に誘い込みさえすれば、どんなオスでもイチコロよ!……って、まぁそれができなかったんだろうけど……」


「うわぁああああああああああん!!」


「ごごごごごめんってビーロっち!そ、そんなに良いオスだったの!?なんか、興味あるわね……」

「……ぐずっ……なんでビーラ殿は…そんなに平気なのでありますか……? あれだけ嫌がってたのに……」

「あたしが嫌がってたって、どういうこと?」

「……だって……ビーム殿は……ナナホシくんと……うぅっ……」

「……え?ちょ、ちょっと待って。え? ビームちゃんとあの泥団子がどうしたっての?」

「……見たので…あります……ブルームーン……ナイトに……二人で……」

「っは!? あの泥団子はビーズのところだったんじゃないの!?」

「……? ビーズ殿? ……ああ…きっと…ビーム殿への…プレ…ゼントを…うぅううううう…」


 それを聞いてその場にへなへなとへたりこむビーラ。


「そういうことだったのね……どうりで妙に話がかみ合わないと思った…って、ちょっと待って!ブルームーンナイトに二人でってことは!つまり!そういうこと!?マっっジでありえないんだけどっ!あの泥団子!絶対許せない!!キィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!」


 ビーラの体から、紫色の電気がバチバチとほとばしる。


「……だっ…だめでありますよビーラ殿…!ブルームーンは…公平で…ありますから…」

「そんなこと知らないっつーの!あたしが嫌なもんは嫌なのよ!今のあんたならわかるでしょ!?」

「うぅ…でも……」

「あたしは行くからね!はい、コレ」

「……これは…マザーローズの種子…!」

「ちゃんとあいつの情報をくれたから、そのお礼よ。あんた、調べたがってたでしょ。一通り調べたら、捨ててもいいし、拾ったってビーリアお姉様に渡してもいいし、あたしに返してくれても良いわ。それじゃっ!」

「えっ…!?ビーラ殿…!?」


 ビーラはバチバチと電気を纏ながら稲妻のように飛んで行った。


「ビーム殿も…ビーラ殿も…自分の気持ちに正直で、まっすぐで…どんなことをしても叶えたいって思いが…きっと、強いのであります……。それに比べて自分は…だから……。変わらなきゃ……自分も……ブルームーンは、また来るであります……。今度こそ……」




第13コロニー第2層1階3区 3層入口ゲート前


 今日、俺はビームにコロニー内部を案内してもらっていた。

 俺が今まで主に行動していた範囲はコロニーの最も外側の第1層までだ。しかし、この円柱状のコロニーは中心に進むにつれて層の番号が増していく。つまり、コロニーの外郭が1層で、中心がもっとも大きい番号になる。


「ビーム、コロニーの層って今も増えてるんだよな?」

「そうだよ~」

「層が増えたら、これまでの層の番号が全部1つづつ増えることにならないか?」

「そうだよ~。それがどうかしたの~?」

「いや、例えば、これまで10層で暮らしてたビー族が、外側に新しい層ができたら、その日から番号が11層に変わっちゃうわけだろ?不便じゃないか?それなら、最深部を0層とかにして、外側を大きな番号にすれば良い。そうすれば、新しく追加された最も外側の番号だけが増えて、それより内側の全ての番号はそのままだから番号をいちいちかえる必要がなくなって便利なんじゃないかと」

「ほえ~ナナホシは賢いね~。生活するボク達の視点で物事を考えられるんだね~。ボク、ナナホシのそういうところが好き~♪」


 ビームがストレートに褒めてくれる。


「な、なんか照れるな~」

「でもね~ボク達が最も優先するのは大公様なんだ~」

「大公様って、最深部にいるっていう?」

「そうだよ~。もしナナホシの案だと~、大公様は必ず0層にいることになるよね~?」

「そうだな」

「それだと、侵入者がまっすぐ0層を目指すかもしれないでしょ~?」

「……そうか!新しく層ができたら番号が変わるから、このコロニーの最深部が第何層なのかわからなくしているのか」

「せいか~い♪ これならどこまで先があるか分からないし~、侵入者が困るでしょ~?」


 なるほど、大公様を守るためのセキュリティを考えてのことだったのか。大公様を守ることを最優先に考えた設計だった。勉強になるなぁ…


 ちなみに、コロニーは1階から、最大20階まである。外からみると高層ビルのように高い建物だったのでもっと階があるのかと思ったのだが、ビー族のほとんどが空を飛べるためか1つの階の高さが100mはある。なので天井がとても高い。


 大公様が何階にいるのかは、限られたビー族しか知らないらしい。


 まあ、大公様に会う機会なんてないだろうから関係ないけど。


 俺とビームがここ、2層1階3区の3層入口ゲート前にいる理由は、もちろん3層に入るためだ。俺はまだ2層までしか入ったことがない。ちなみに、このまえ俺とビームがブルームーンナイトを過ごした部屋のある層が2層だ。


「3層には何があるんだ?」

「学校とか~軍の訓練施設とかが多いかな~?」

「おお!良いな!俺も利用できたりするのか!?」


 俺はこの世界について知らないことが山ほどある。それに、魔法ももっとたくさん学んで使いこなせるようになりたい。ビーロくんは最近忙しいのか見つからないし、魔法植物の研究もしたいだろうから頼りっぱなしにするのもよくはないだろう。ぜひここで学びたいところだ。


「本当は、部外者は利用できないんだけど~。ナナホシはもうボクの家族だからきっと大丈夫だよ~。もし利用するときはボクが手続きするから任せて~♪」

「ありがとう!ぜひお願いするよ!」


 ……家族?


「あれ、ビームさん。さっき俺とビームさんが家族だからって言ってなかった?」

「……ボクはナナホシをもう家族と思っていたけど…ナナホシは違うの……?」


 うるうるした目でこちらを見るビーム。なるほど……つまり……


 家族同然に思ってるってことだな!


 確かに、毎日一緒の部屋で過ごし、毎日一緒にごはんを食べていれば、もう家族みたいなものだ。それに、俺もビームを家族同然に思っている。何の問題もないじゃないか!


 俺は芝居がかった動きで格好つけてビームに返答する


「違わないさ…!俺もキミを家族だと思っているよ!!」

「ぷふふっ♪ でしょ~♪」


 ビームは俺がキザな言い方をすると噴き出して笑ってくれるのでついついやってしまう。


「ちょっとここで待っててね~♪」


 ビームが俺の3層への通行許可を得るための手続きに向かう。ビームによると、今後は手続きしなくても3層に入れるようにしてくれたとのことだった。ビーム様様だ。


 初めてこのコロニーに来たときは、ビームが他のビー族と見分けがつかなくなり焦ったが、今のビームは俺がプレゼントした魔法の帽子とリボンを装備しているためすぐにわかる。


 それに俺も成長しているのか、よ~く目を凝らして見れば、他のビー族と少しは見分けがつくようになってきたのである。この調子で精進しよう。


 俺はゲートの方を見る。通路の大きさに比べ、3層へのゲートは小さい。恐らく、これも外部からの侵入者を防ぐ目的だろう。大型の生き物が入れないようにしているのだと思う。ゲートが小さい代わりに、見えるだけでも10か所以上ある。ゲートの数を増やすことで渋滞を防ごうとしているのだろう。それでも渋滞してるようで、各ゲートの前にはビー族の列ができている。


 俺がビームを待っていると、遠くの方で紫色の光の尾を引きながらものすごい速さで飛んでいるビー族が見えた。手には光る槍のようなものを持っている。俺がなんとなくそのビー族を見ていると、そのビー族と目が合った。すると、その勢いのまま急に向きを変えてこちらに向かってきた。


「そこの泥団子ー!」


 俺を泥団子と呼ぶのはビーラしかいない。あの様子ではろくなことじゃなさそうだ。


 に、逃げてぇぇ……


 ビーラは俺の手前の空中できゅっと止まり、俺を見下ろしながら叫ぶ。


「あんた!ビームちゃんとブルームーンナイトを過ごしたって本当なわけ!?」

「え? ああ、本当だ」


 俺がそう答えると、ビーラは雷に打たれたようにショックを受け、周囲にいた他のビー族も急にざわつき始める。


「ゆ…許せない…!みんなのアイドル、最高最強可愛いビームちゃんをあんたみたいな泥団子がぁああああああああああああああああああああ!!」


 ビーラの胸の紫色の魔石が光り輝くと、ビーラの体に纏っている紫色の雷の勢いが強くなりバチチチチチチとすごい音を立て始める。


「雷魔法!ライトニングファスト!!」


 マジかよっ!?こんな往来のど真ん中で魔法!?


 ビーラが魔法を唱えたかと思うと、槍をこちらに向かってものすごい速さで突っ込んでくる。自衛のためとはいえライトニングで撃ち落とすわけにはいかないし、周りには他のビー族もたくさんいる。


「っ!!フォームドグラウンド!!」


 俺は床に手をつき土魔法を使って土壁を形成する。


 しかし、ビーラのスピードが早すぎて間に合わない。俺が今まで見たどのビー族よりも速い!俺は壁の厚みを捨て薄い土壁を瞬時に作り、その土壁を目隠しにして後ろに飛ぶ。ビーラは土壁に突っ込み、粉々に破壊した。


 厚みが薄かったとはいえ、あの軽いビー族がどうやって土壁を粉々に破壊できるのか。最初にビーラが唱えたあの魔法の効果なのだろうか。とにかくあのスピードはやばい。空に逃げたとしても簡単に追いつかれて、あの槍で一刺しにされるだけだ。


「フォームドグラウンド! コレクトウォーター!!」


 俺は薄い土壁を複数作りそこに隠れる。まずはあの突進力をなくす必要がある。そして、その間にコレクトウォーターで空中に大量の水を溜める。


「土魔法と水魔法…!あんた、複数持ちだったのね。あんたが体に塗ってる泥と、木の枝の装飾はそれを隠すためだったってわけ? まんまと騙されたわ。でも、魔法の属性が多くても使いこなせなければ意味がないのよ!」


「サンダークラウド!」


 複数の土壁の後ろに隠れていた俺の上空に、バチバチと音を立てる黒い雲が形成されていく。どう考えてもやばい。


「コレクトウォーター!!」


 俺は生成した水を操り、俺の上空に傘のように水の幕を広げた。そしてその水の一部をビーラの近くの大地に接触させる。


「ふん、そんな水で防げると思ってるの!?死になさい!サンダー…!」


「そこまでだビーラ!」


 その声を聞いて魔法の詠唱をやめるビーラ。声の方を見ると、そこにはビーリアさんとビームがいた。


「ビ、ビーリアお姉様……!? それに、ビームちゃんも……」

「ごめんねナナホシ~。すぐ止めに入ろうとしたのにビリ姉が……」

「ビリ姉と呼ぶな!私の名前はビーリアだ!まったく……」


 ビーリアさんが前に出てくる。


「お前たち、なかなか見ごたえのある良い戦いだったぞ。しかし、場所が良くないな。模擬戦なら我々の軍施設内の模擬戦場を貸してやるから、気が済むまでそこで戦うのが良いだろう!」


 ドヤ顔で謎の提案をしてくるビーリアさん。いやどう見ても模擬戦じゃなかっただろ。死になさい!とか言ってたぞあいつ。


「ビリ姉~…ナナホシはビーラちゃんに襲われてたんだよ~。ナナホシは被害者だよ~?」


 さすがですビームさん!その通り!


「そ、そうか…。ではビーラ、なぜナナホシを攻撃していたのだ」

「それは…ビームちゃんがこの泥団子とブルームーンナイトを過ごしたって聞いて…つい…」

「そうか、なるほどな。ビームとナナホシがブルームーンナイトを共に過ごし――ってちょっ!? はっ!? それは誠なのかビーム!?」


「………………てへっ♪」


「てへっ♪ じゃないだろ貴様!大公様に何と報告するつもりなのだ!」


 ……何やら盛り上がっているが、だんだん話が大きくなっているような気がする。


「はぁ……とにかく、大公様に判断してもらうしかあるまい……。ビームとナナホシは私についてこい。ビーラは謹慎だ。許可がでるまで大人しくしていろ。わかったな」

「はい……ビーリアお姉様……」



 俺とビームはビーリアの後ろについて移動、もとい連行されている。

 コロニー内は広く、中心に向かうにつれて構造がどんどん複雑になっていく。俺達は空を飛べるため、上下左右前後と、3次元空間的に移動しており途中からどこに向かっているのか、来た道さえもわからなくなった。もしここではぐれてしまったら完全に迷子だ。


「……ビームは帰り道ってわかるのか?」

「うん、ボクはわかるよ~♪」

「ビームはすごいな……俺はもう自分がどこのあたりにいるのかさえわからん」

「びびび~♪ ボクから離れちゃダメだよナナホシ~♪」


 ビームが俺に抱き着く。


「はぁ…キミ達は本当に仲が良いのだな…さて…どうするのが良いのか……」


 なんだか深刻そうなビーリアさん。とても不安になってくる。


「……そんなにまずい状況なんですか?」

「ああ、まあな……」

「大丈夫♪ きっとなんとかなるよ~♪」


 ビームだけはいつも通りだった。




 もうどれくらい進んだのか、内部はさらに暗く、複雑さを増していく。俺達以外のビー族を見かけることも少なくなってきた。こうなってくると、いよいよはぐれると大変だ。誰にも気づかれないまま餓死する可能性だってでてくる。もはやダンジョンである。


 そう思っていると、ビーリアさんが止まる。


「君達はここで待っていてくれ。悪いが、ここから先を見せるわけにはいかないのでな。なに、すぐに戻ってくる」


「わかりました」

「おっけ~♪」


 ビーリアさんが飛んでいき、暗闇に消える。


「コロニーの深部ってこんなに暗いのか?」

「そうだよ~。ボク達ビー族は暗くても感覚でだいたいわかるんだ~♪」

「すごいなビー族は…」


 ビームと楽しくおしゃべりしていると、ビーリアさんが戻ってきた。


「遅くなったな。では、これから大公様に謁見する」

「ええ!? 今から!?」

「そうだ。何か問題でも?」

「……こんなに簡単に大公様とお話できるものなんですか?」

「そんなわけないだろう。何のためにこんなに複雑な構造にしていると思っているのだ。それだけ重大な内容だということだ」

「そ、そうですか……」

「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ~♪ 普通にしてたら怒られないよ~♪」


 ビー族の普通ってなんだろう。もう考えたら負けな気がしてきた。


 ビーリアさんの後に続いてしばらく進むと、何もないところでビーリアさんが止まる。


「二人とも、私の手に触れてくれ」

「は~い♪」

「わ、わかりました」


 ビーリアさんに言われるまま、ビーリアさんの手に触れる。


「大公様、準備が整いました」


 ビーリアさんがそう告げた瞬間、気が付いたら俺たちは花畑にいた。


「こっ…ここはっ!?」

「すごいでしょ~♪」


 上を見上げると青空が広がっている。太陽も上っており、風もある。コロニーの外に転移したのだろうか。


「二人とも、飛ぶのをやめて頭をさげていろ。大公様がいらっしゃる」


 俺は大地に降り立ち、言われた通り頭をさげる。俺が緊張しながら待っていると、どこからか声をかけられる。頭に直接響いているような感じだ。


「おもてをあげ、楽にして良い」


 俺はゆっくりと顔を上げる。すると目の前には、子猫くらいの大きさの、ふわふわな蜜蜂が飛んでいた。ビームの大きさが小型犬くらいなので、ビームよりもずっと小さい。


「こちらが大公様だ。くれぐれも失礼のないようにな。では、大公様、お願いします」

「ご苦労。では、ビーム。この者とブルームーンナイトを過ごしたというのは、誠か」

「そうだよ~♪」


 ビームは大公様の前でもビームだった。こっちがハラハラする。よく見るとビーリアさんもハラハラしている。ビーリアさんとは気が合うかもしれない。


「ふむ。ビームよ。そなたは公女としての役目があったはずじゃ。次に行われる大会の優勝者と結婚する役目がな」


「その通りだね~」

「ではなぜその者とブルームーンナイトを過ごした」


 次の大会!? 結婚!?

 いったい何の話だ。話についていけない。


「…………それはね大公様。大会の優勝者よりも、ナナホシの方がオスとして優れていると思ったからだよ」


 ビームさん?


「ほう…? お主がそう思うとは…よっぽどの者のようじゃな…」


 大公様とビーリアさんが俺のほうを見る。急に注目を浴びた俺の心臓がはねあがる。


「そうだね…ナナホシはすごいんだ…!もう…ボクは身も心もナナホシのものだよ…!」


 ビ、ビームさん!?


 ビームは両手で顔を隠し、照れながら体をもじもじさせている。


「ではナナホシとやら、優れていることをここで証明してみせるよ!」


 なんとぉー!? 

 話についていけないまま、俺へのテストが始まったぞ!?

 俺はうろたえ、ビームの方をみる。


「お願いナナホシ!ボク、知らないビー族と結婚なんてやだよ…!」


 俺は、昨夜見たビームの苦しそうな表情を思い出す。


 ……俺はバカだ。


 俺はなんために魔法使いになった。


 ここでビームを助けなくてどうするっ!!


「水魔法!コレクトウォーター!!」


 俺は空気中から水分を集め、大きな水の塊を空中に浮かべる。そしてそれを変形させて水鏡を複数枚作る。


「ほう…水魔法か…空気中から水を集めるのは困難なはずじゃが、魔力もさることながら制御も申し分ない」


「次、土魔法!フォームドグラウンド!」


 俺は1枚の巨大な土壁を形成する


「ほう、お主、複数持ちか」


「ここに来る前にビーラと模擬戦をしている所を見かけたのですが、どちらの魔法も戦闘で有効に使用し、互角以上に戦えておりました」

「ほう……ビーラは確か優秀な戦士だったな」

「はい、第13コロニーでも上位の戦士です」

「今までは初歩の魔法だったな。次はもっと上位の魔法か?」

「いえ、まだ初歩の魔法しか教えてもらってないのでできません」

「なに?」

「ナナホシはね~魔法を使い始めてまだ数日しかたってないんだよ~♪」

「なんと…!しかし惜しいな…これで雷魔法が使えると良かったのじゃが…」


 俺はビームの方を見る。ビームが頷く。


 俺は雷の魔石だけに意識を集中させる。水の魔石への魔力を止めたことで、空中の水鏡がパシャリと大地に落ちる。雷の魔石が輝き、俺の体からバチバチと紫色の電気が走る。俺は雷の魔石に溜めた魔素を全て魔力に変え、巨大な土壁に向けて一気に放出する。


「雷魔法!ライトニング!!」


 俺の体の数倍も大きな雷が巨大な土壁に向かって放出され、轟音と共に土壁が砕け散った。


「なんと……!これほどの威力のライトニングを出せる者はこれまで見たことがありません!」


 驚いた様子のビーリアさん。一方で、大公様はなにか納得した様子だった。


「なるほどな。お主、隠しているものを見せよ」


 まぁ…そうなるよな……。


「コレクトウォーター!」


 俺は集めた水で自身を覆い、ミノムシスーツと泥パックを洗い落とす。水の中から出てきた時には、七色の魔石を背中に持つ、金色の姿となっていた。


「その姿は…!」

「はぁ……ビーム…お主、我らに隠しておったな…」


「………………てへっ♪」


『てへっ♪ ではない!!』


 大公様とビーリアさんが同時につっこむ。いいぞ。いつものビームのペースになりつつある。


「確かに、この者なら次の大会の優勝者など比べるまでもあるまい。ビームが我らを欺いてまで手に入れようとしたのも納得じゃ。ブルームーンはこの公国連合大公園で公平じゃからな」


「そゆこと~♪」

「わかった。我らに隠していたのは誠に遺憾ではあるが、誰よりも先にこの者を見つけ、我がフラワ公国に留めていた功績はそれ以上に大きい。そして、ビームは公女としての役割を見事に果たした。大会の優勝者との結婚は無効とする!」

「やた~♪」


 よっぽど嬉しいのか、大公様の前でも気にすることなくぶんぶん飛び回る。


「そういえばビーム、君はナナホシ殿と主従契約を結んでいたな」

「なに?それは誠か?それはさすがに看過できぬぞ……!」


 大公様から静かに怒りがこみあげてくるのがわかる。大気が圧縮し押しつぶされるようなプレッシャーをうける。


「あ~あれは嘘だよ~♪」


 え?


「……どういうことじゃ?」

「だってビリ姉がマザーローズの種子を盗んだ犯人だってナナホシを疑うんだも~ん。だから主従契約をしてナナホシの潔白を証明したら、主従契約を破棄しようと思ってたんだけど。ナナホシの方が魔力が上だったからそもそも成功してなかったんだよね~♪だから、ボクが命令してもナナホシはどうにもできないよ。試してみよっか?」


 ビームが俺の方を見て命令する。


「ナナホシ、前脚上げて~」

「……?」


 俺はビームに命令されたが、特に体に変化はない。


「ほらね~♪」

「驚かせおって……まったくこやつは……」

「はぁ……君には何度も騙されているな……」


 とても疲れた様子の大公様とビーリアさん。ビームに振り回されたのは1度や2度ではなさそうだ。


「では、こちらの要件は済んだ。遠い所まで苦労をかけて済まなかったの。ナナホシ殿。ビームのことをよろしく頼むぞ」

「はっ、はいっ!」

「びびび~♪」


 俺達は大公様とビーリアさんに別れの挨拶をし、部屋から転送された。




「しかし困りましたね大公様。公女と結婚できないとなると、今度行われる大会の優勝者は納得しないでしょう。それに、約束を果たさなければ今後の大会に支障が出るかもしれません」

「それもそうじゃな…」

「ビームの代わりが勤まるほどの者となると、あまり候補がおりません。ビームは人気がありますから」

「ビーロはどうじゃ。あやつも同じくらい人気があるじゃろう」

「そうですね!ビーロがおりました!ビーロなら参加者も続出するでしょう!」

「ではビーリアよ。優勝者と結婚する公女をビームではなくビーロに変更し、全てのコロニーに告知せよ!」

「はっ!かしこまりました!」


 ビーロは、自分がビームの代わりに大会の優勝者と結婚することになっているとは、知る由もなかった。




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