終末世界の吊橋効果ってヤツ

とんでもまわっても時計

第1話

 私は建物の中から外を見下ろす。

 道路にはヒビが入り、タイヤが嵌ったのか無残に乗り捨てられた車が列をなす。

 元は信号機だったものが建物にめり込み、コンクリートを崩しながら瓦礫の山を作っている。


 人の姿は無い。けれど、かろうじて人の形を保った黒っぽい生き物たちが、目的地がある訳でもなさそうなのにどこかへ向かって歩いている。



 どうやら、世界は終わりに向かっているらしい。



 私はいつものように大学へ向かう道すがら、突然、車に引きずり込まれた。世界の変化に気づいておらずそのまま渦中に飛び出していくところを、幸いにも直前に発見され救助されたらしい。

 そしてその車はここ、元は何かの会社だったという場所に到着した。

 薬品のにおいが漂い白衣を着た大人たちが忙しそうに行き交う中で、指示役らしき人にあれやこれやと言われたことに私は頷くしかできなかった。





 あの日から二日。

 窓の外の瓦礫の山がここに来た時より増えているのを横目に見る。


 少しずつ世界の状況を飲み込み始め、家族の居場所がわかり、スマホに登録してある友人の何人かと連絡を取ることができた。全く知らない人に囲まれて緊張しっぱなしだったから、敬語を使わない時間ができたことだけでも少し安らいだ。



 それから数日。

 気づかないように、けれど確実に減っていく毎日の食事を、腹の虫が教えてくれる。


 お隣さんとも挨拶を交わす程度には打ち解けてきた。


「おはようございますー!!」


「おはよう!」


 お隣さんの二人からは、眩しいくらいの笑顔が返って来る。聞いた所によると……初対面の二人はここまで共に逃げてくる道すがら、愛が芽生え、付き合うことになったらしい。


「あ、おはよう、ござい、ます……」


 しかし私はそれを聞いてから、同じ笑顔を返すことができず……どうしても曖昧な顔を向けてしまう。


 それでも二人は、明日もこれからもずっと素敵なことが溢れていることを信じて疑わないような笑みで、今日の天気なんかを教えてくれる。


「あ、はい、そうですね……」


 キリの良いところで会話を切り上げ去っていくお隣さん。二人のその手は、互いを信じ絶対に離さないとでも言うように固く結ばれていて……



 この終わりが始まってる世界で、愛を育んで一体何になるというのだろうか。










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終末世界の吊橋効果ってヤツ とんでもまわっても時計 @akaitakarabako

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