第6話 トラッシュ・フュージョン
「勇者よ、どうする気だ」
「危ないから脇にいろ!」
魔王の問いへ手短に答えると、俺は剣先に魔力を込めて拳サイズの炎を生み出す。
その炎を段ゴーレムへ見せつけた。
『ウゴゥ……火、モエル、火……』
「喋れんのかよ」
向けられた炎に、段ゴーレムが腕を顔の前でクロスさせて怯えている。
その間に背後から急流の川のような轟音が響いて、魔枯藻が迫っているのを悟った。
これほど大きな魔物を相手にするのは、もう何年前だろう。
緊張で手が震えている。
――大丈夫だ。きっといける。
そう落ち着かせながら魔力を込めるのを止めて、剣先から炎を消す。
途端。段ゴーレムがクロスしていた腕を解き、地面を踏み鳴らしながら近づいてきた。
「ヤツも来ているな」
魔王の呟きを耳にして、後ろを振り返る。
魔枯藻が洗面所の扉を破り、うねうねと全身を波打たせながら突進してきているのを視界に入れる。
『ゴルゥエエェェーーム!!』『シャルルァアアーー!!』
二匹が渾身の叫び声を上げて、そして俺に飛びかかった。
その瞬間を、逃さなかった。
「今だっ!!」
飛び退くべきタイミングを口にして、緊張で強張っていた身体を動かさせた。
床を踏み切り、宙で身体をねじって転がる。と同時に、
――バッシャアアァァァアアン!!
と、濁流が壁にぶつかる音が響いた。
床に打ち付けた肘が痛む中、身体を起こして魔物たちの様子を確かめる。
そこには、全身がどす黒い茶色になった段ゴーレムが、よろめきながら立っていた。
どうやら段ゴーレムは、全身で魔枯藻を吸い取ってしまったらしい。
「やったか!?」
『ゴゥ……シャウォ……ォ……』
段ゴーレムが自分の頭部を抱えながらぶるぶると横に振る。
やがて、わなわなと全身を震わせて、段々と萎み始めて、2メートル程でぴたりと動きを止めたかと思うと————
『オデ……パワー、アップ……!』
「はっ!?」
今度は、人間のような機敏な動きで俺に飛びかかってきた。
――まずい。
俺がピンチに気付いた時には、段ゴーレムと10メートルほどあった距離が半分以上は詰められていた。
殺される。
剣を構えないと。
と、ようやく手が動いた時には、
既にヤツの全身を目で納められない近さで迫られていた。
「あ——」
喉から声にならない音が零れる。
その瞬間。
段ゴーレムの身体が大きくのけ反り、宙に浮かび、そして地面に叩きつけられた。
「なん……」
そして段ゴーレムは動かなくなった。
あまりに突然の出来事に混乱する。
が、とにかく助かった。
一体、何が起きた?
頭が回らない中、辺りを見渡していると、壁際にいた魔王が視界に飛び込んでくる。
「魔王、まさかお前が……」
助けてくれたのか。
あの無気力な魔王が、ようやく動き出したのか。
思わず口元が綻びかける。その時だった。
「そこの杖に足を転ばせていたぞ」
魔王が興味なさげな顔で、床を指差す。
そこには何かの骨でできた杖が転がっていた。
一瞬にして期待が打ち砕かれ、俺は呆れると同時に、怒りが湧いてくる。
魔王がゴミ屋敷を放置しているせいで俺は死にかけたし、今の魔王はそのことを何とも思ってない風だった。
その無気力さにこの上なく腹が立ってきた。
「おい魔王。ちょっと座れ」
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