第3話 「イヤホン家に置いてきた」

「イヤホン家に置いてきた」


 駅のホームについたとき、そう口に出したのは私だけではなかった。

 いつもイヤホンをつけて、サクサクと仕事をこなす同僚。


 佐竹も同じタイミングでそう口に出していたのである。


 同じ電車に乗っているが、私が職場の近くでメイクをするものだから、電車に乗っているときのメイク前の姿には気づいていないのだろう。

 それに基本的にはお互いに見つめているのはスマホの画面だけで、イヤホンを両耳に入れて各々の時間を過ごしていたのである。


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「私、佐竹さんが駅のホームでイヤホン家に置いてきたっていうのと同じタイミングで同じことを言ってたんですよ。」


 帰り道少し大通りから外れた町並みで、車通りに音を直に聞きながら、想像以上に大きかった車の走る音に負けないように、少しだけ大きな声で会話をする。


「全然、気が付かなかった…。電車の中でも近くにいたんですか?」

「そうですよ。佐竹さんが見えるくらいの近くにいたんです。」


 視線が気づかれないように、扉のガラス面に反射する姿も見ていたことは言及しないでおいた。


「佐竹さん。電車で人いっぱい乗って来た時って、外見れました?」

「いや、窓の外見れなかったからぼーっと内側見てました。」

「私もです。皆がつり革つかむ手を見て、なんか皆頑張ってるんだなぁって」

「あぁ、僕も似たようなこと考えてました。」


 ハハハと互いに笑いあう。


「なんだか、不思議ですね。私たちイヤホン忘れただけなのに、こんなに話をしてこんなにいつもと違うことを考えて…。」

「不思議です…。でも、あんまりイヤホンしたままなのもよくないのかな。」

「お昼のエレベーターみたいなことが起きちゃうからですか?」

「え、そこも見てたんですか!」

「私と、佐竹さんは行動パターンが似通ってるんですよ。バッチリ同じエレベーターでしたよ。私奥の方いましたけど」


 そう言ってオッケーマークを作って見せる。


「ホントに見てる…」


「まぁ、私的にはこういった不思議に思えるような体験ができるのは、普段の積み重ねがあるからなんじゃないかなって思いました。

毎日イヤホンをつけてない状態だと、きっとイヤホンをつける日が特別になるんだと思います。

それに私音楽好きですし、普通に明日からはイヤホン忘れずにつけたいです。でも、片耳にしておこうかな。」


私は彼に向かって一つの提案をする。


「提案なんですけど、私もたまにはイヤホンない生活も悪くないかなって思ったんで、週に1回。今日と同じ水曜日にまた二人でイヤホン家に置いたままにしませんか?」


「ハハハッちょっと面白いかもですね。やりましょ僕グループチャット作りますよ。」


ピコンと私のスマホの通知が鳴る。


あなたが「イヤホン家に置いてきた」招待されました。


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               (完)


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イヤホン家に置いてきた 戦国 卵白 @A-Biblio

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