終わらないこの夏に、儚く脆い君に出会う。
@tokoyo_tuduri
#1 終わらなかった夏
これは、僕たちが体験した夏をめぐる不思議な物語____
【8月31日(日)】
「やばいやばい、夏休みの宿題終わんない!」
夏休み最終日、中学二年生の僕、
「なんでもっと前に終わらせなかったんだ…」
過去の自分の行動に後悔していた。
その時__
ピンポーン
家のチャイムが急に鳴る。
「こんなに忙しいのに誰だ!」
そこに映っていたのは、いつも仲良くしている四人組だった。
「お~い!凪~いるか~!夏休み最終日も遊ぶぞ!」
この子は
僕の宿題が溜まったのは涼に毎日遊びに連れ出されていたからだ。
「涼、ごめん今日は宿題が…」
「宿題⁉なんだ凪、宿題まだやってなかったのかよ!俺が教えてやろう!」
涼が得意げに言うと、女の子が割って入る。
「ちょっとちょっと、涼!あんたがずっと連れ回してたせいで凪が宿題終わらなかったんでしょ!しかも、あんたは浴衣たちの宿題丸写しじゃない!」
この子は
「で、でも!浴衣も『今回は特別だからね?』ってすんなり見せてくれたじゃんかよ!」
「そ、そそ、それは言うなって言ったでしょうが~!」
浴衣は照れながら拳を上げて涼を追いかける。こんなこと日常茶飯事でもう見慣れた光景だった。
「凪、とりあえず出てきたら?画面越しじゃ寂しいよ」
と、大人しめの声でもう一人の女の子が話す。
この子は
きっとあやめも涼に宿題を見せてるだろうな。
「はーい、すぐ出まーす」
僕はあやめに促されるままサンダルを履きドアを開けた。
そこには、インターホン越しには伝わらなかった夏特有のジリジリと照り付ける日差し、仰ぐような熱風、晴天に映える大きな入道雲、そして蝉のコーラスの歌が響き渡っていた。
僕はすべてを感じ取り一言こう呟いた。
「暑いな」
「当たり前でしょう?夏ですから。しかも今日は夏休みの中で一番気温が上がる日らしいですよ」
この子は
きっと涼は夏葵の宿題も見てるだろうな。
「みんなおはよう」
「あ!凪おはよ!」
浴衣がこっちに気づいて言う。
「おお!凪!おはよう!」
と、浴衣に頭をポカポカ殴られながら涼がニコッと歯を見せて言う。
「やっと出てきた。おはよう」
二人に続いてあやめも言う。
「凪くん、おはようございます」
最後に夏葵が丁寧にあいさつをする。
「涼、一つ聞いてもいい?」
答えは明解だが一応聞いておくことにした。
「おう!何でも聞いてくれ!宿題のことか!」
目をキラキラさせながら聞いてくる。
「うん、そうだよ。宿題のこと」
「おお~!なんだなんだ!」
さらに目がキラキラしていく。
僕はスゥッと息を吸って。
「宿題、誰からどんだけ見せてもらったのかな?」
「え……」
涼の表情が固まった。
「なんでも聞いていいんでしょ?教えてよ」
涼は覚悟を決めたように指を折りながら数え始める。
「え、ええっと。まず、夏葵、あやめ…んであと…それから…………あ、同じクラスの山田だ!いっぱい見せてもらった!」
「おいこらー!浴衣を入れろ、浴衣を!散々見せたでしょ⁉」
浴衣がパシッと涼の頭を叩き、素早いツッコミをした。
「見事な掛け合いだね」
僕は息の合った二人を見て、ふふっと笑ってしまった。
「凪、何笑ってんだよ~!俺は叩かれて痛いんだぞ!これ以上頭が悪くなったらどうすんだよ!」
「あんた、これ以上って…これ以上も何も今が最底辺でしょ…?」
浴衣が困惑した表情で呟く。
「え、俺って…そんなにやばい…?」
「「「「うん、やばい」」」」
みんなの言葉が重なる。
「そんなああああああ!」
涼が膝から崩れ落ちていったことを確認して、僕はまた口を開いた。
「まあ、そーゆことで僕は宿題をやらなきゃなんで…」
みんなに背を向け家に入ろうとする。
「こーゆ時に手伝ってって素直に言えないのが、ほんと凪って感じ」
「え、浴衣はそんな風に思っていたのか」
「ごめん、私も」
「凪くん、ごめん実は僕もです…」
「嘘でしょ、あやめと夏葵までも…じゃあ…涼も…?」
「な、なんの話だ………?」
涼はさっきのダメージのせいでまだ落ち込んでいた。
「バカで助かった……!」
「それで凪、何か言うことないの?」
浴衣が聞く。
「はいあります…。宿題手伝ってくれない?涼と違って、写すだけじゃないからさ」
近くで「グハッ」と何かに突き刺されたような声が聞こえたけど、気のせいかな。
「よーし!じゃあ今日は凪の宿題を終わらせよう~!」
浴衣が仕切り、あやめと夏葵が「おお~」と声を上げる。
僕の家にみんなが次々と入っていく。
「涼もほら、入りなよー」
「凪、俺はもうだめみたいだ。ごめんよこんなやつで」
「涼…そんなにダメージ大きかったのか。意外と繊細なんだな…」
よし!と気合を入れ、一息で言う。
「涼はかっこいいし一番元気がいい!運動もできてすごいぞ!そんな涼には勉強なんていらない!さあ、元気出して!」
「な、なんだと⁉そうか!そうだよな!勉強なんていらないよな!ありがとう、凪!お邪魔しまーす!」
これは本人には言えないんだけどつくづく思う、涼がバカでよかったと…。
それからというもの、僕らは一日で夏休みの宿題を攻略すべく机にしがみついていた。みんなのおかげでそれが終わるのは、まるで花火のフィナーレのようにあっという間だった。
「…よし」
僕が最後の字を書き終えると。
「「「「「終わったあああ!」」」」」と、五人の声が重なる。
「ほんと、みんなありがとう。特に浴衣とあやめと夏葵」
「おーい、凪!俺は俺は⁉」
「あーうん、そうだね。ずっと応援してくれてたね、ありがとう」
「いえいえ!困ったときはお互い様だろ!」
シシシッと今日一の笑顔を見せてくれる。
さて…と浴衣が口を開く。
「みんなでどこか行く?」
「でももう18時ですよ。今からどこか行くってのは…どこかあるんですか?」
浴衣の提案に夏葵が聞く。
「こんな時間から行くところなんて一つでしょ?」
みんなはそれを聞き「あ~」と、うなずく。
そこは僕たちのお気に入りの場所のことで小学生の頃はよく遊んでいたのだけど、今でもたまにみんなで夕日を見に行くことがあるのだ。
そこに行くには生い茂った草木を搔き分けて行くのだが、この悪路を抜けると視界いっぱいに海が広がるところに出る。
そう、ここが僕たちの秘密基地だ。
「やっぱこの時間の海は特別きれいね~!」
「おう!ナイス提案だったぜ、浴衣!」
「当然でしょ!」
涼が褒めると、浴衣はフンッとしてから両手を腰に当てて誇らしそうに言った。
「浴衣さん、ナイスアイディアでした。ありがとうございます。」
「浴衣、夕日きれい。ありがと」
夏葵とあやめも涼に続いてお礼を言う。
「えっ、ちょ、ちょっと。みんなしてそんな褒めないでよ!そこまで言ってもらうのは想定してないって…!」
「いや、でも浴衣。ほんとに今日は綺麗な夕日だよ。ありがとう。」
僕は照れてる浴衣に追い打ちをかける。
でも、今日の夕日は本当にいつもとは違う綺麗さがあった。そこには、見ていると吸い込まれそうなほど透き通っているオレンジ色の空をベースに水彩絵具の赤やピンク、紫、青で色づけたような夕日のキャンバスが広がっていた。そして、水平線まで見える海がそれを反射し、より一層幻想的な風景に仕上げていた。
「なあ、みんな」
僕はぬるい潮風を受けながら言う。
「今日は本当にありがとう、みんなが友達でよかった」
「なによ、急に改まっちゃって」
「おいおい!凪どうしたんだよ、急に!俺もみんなが友達でよかったって思ってるぞ!」
「凪らしくない…どうかした?」
「凪くんもこの絶景に言わされたんですよ。きっと」
みんなが口々に言う。
「この夏が終わらなければ、もっとみんなといれるのにね…」
でもそれはしょうがないことだってわかってる。
「みんな明日から、また学校でよろしく」
みんなと解散した後、家までの海沿いを一人歩いていた。
「はぁこの夏がもう終わる……。やっぱり僕、夏が好きだ。もっと続いてほしいよ。」
この美しい景色を目に焼き付けようと右手に広がる海を見る。
「あれ、誰だろう。あの子」
そこにはオレンジ色に照らされた砂浜で夕日を眺めている女の子の姿が。
「髪が、白色だ…」
この絶景を前になぜか儚げな表情を浮かべる彼女に僕は惹かれていた。
彼女に見入っていると急に振り返ってきた。僕も慌てて顔をそむける。
「ふぅ……あ、あれ?」
再び彼女のほうを振り返るとそこには誰もいなかった。
何度も目を擦り確認したが、彼女の姿を見ることはできなかった。
「何だったんだろう…?勉強のし過ぎで疲れてたのかな…」
不思議な現象に、意味の分からない仮説を立てる。
家に着き、夕食、風呂を終え自室にてあの子のことを考える。
「綺麗だったな…どこの子なのか、名前はなんていうのか。聞いとけばよかったな…。あ、そうえば明日は新学期か遅刻したら嫌だしな、もう寝よう」
明日に備え、早めに寝ることにした。
【次の日】
ピピピピ…ピピピピ…ピピピピ…
「ふぁぁああ」
目覚ましのアラームを止め、大きなあくびをかます。
「お母さん、おはよう」
僕はリビングに行き朝の挨拶をする。
「あら、凪?朝早いのね~。お母さんいいと思うわ」
「え、何言ってるの。夏休み終わったよ?」
「凪は中学二年生でボケ始めたのかしら?カレンダーを見てみなさいよ」
「もういい、見ればわかる。ほら!ここに9月1日って書いて………え、書いて……ない…?」
テーブルに置かれた卓上カレンダーには‘‘8月32日(月)”の文字が。
「ほらね、凪。分ったでしょう?まだ休みなの、よかったじゃない」
「え…で、でも昨日夏休み最後だからって夜ご飯に寿司とってたじゃん!」
「あら、そんなこと言ったかしら?」
「嘘だろ、こんなことあってたまるか!」
僕は急いでテレビをつける。ニュースキャスターが口を開く。
『8月32日、月曜日のニュースをお伝えします………』
「……は?」
意味の分からない現象に膝から崩れ落ちた。
ピンポーンピンポーンピンポーン
僕はインターホンを確認するや否や、外に飛び出していく。
「おいおい、凪!やべぇことになってるぜ!日にちが」
「涼!うん、知ってる!日にちのことでしょ!」
「おお!凪もわかるか!よし早く行くぞ!」
「い、行くってどこに⁉」
「決まってんだろ?秘密基地だ!みんな待ってるぞ!」
こうして、僕たちの終わらなかった夏が始まった。
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