第6話

 全身真っ黒ないでたちと、大きな鎌の形をした武器のせい。それと、この不可解な身体。

 おれが捕まえた魔女たちは、口を揃えておれのことを死神なんて呼ぶ。


 黒い服は目立たないようにするためだし、大きな鎌は師匠から受け継いだ大切な武器だから。この身体については好きでなったわけじゃない。死神を意識してのスタイルでは、断じてはないのに。


 捕まる瞬間に、死を覚悟させてしまうから死神。死んでしまう身体を持つ人は、おれに対してそういう恐怖を抱くらしい。

 だからといって、人に変なあだ名をつけるのはいかがかと思うけどね。他人の命どころか、おれ自身の命すら刈り取れないのに。


「あ、そろそろ行かなくちゃ。今日は教会で神様のお話を聞くんだ」

「コルサは相変わらず信心深いねえ。いってらっしゃい」


 コルサは新聞をラックに戻すと、慌てて出ていく。


「なあ、いつも思うんだけど。コルサのいう神様って、本当に大丈夫なん?」

「大丈夫っていうのは……どういう意味で?」

「夢の中で、コルサに執行人になれっていったんだろ」


 リラちゃんは腕を組んで苦笑する。コルサが執行人になった経緯は、執行人の中でも有名な話だ。


 当時、齢十二とか十三の純粋無垢な少年だったコルサは、夢の中で神様とやらに執行人になるようお告げを受けたそうだ。それを信じて、ランタナさんに直談判しにきた。


 あのランタナさんを説得したというだけあって、実はものすごく大物かも。おれの師匠もそんなことを話していた。


「まあ、コルサが楽しそうならいいんじゃないかな。おれもそろそろ行くね。アイスクリーム売らなくちゃ」

「……あたしは、ときどきおまえが怖いよ。がっつり戦った後に、のんきにアイス売れるなんて」

「尋問……いや拷問でハイになるリラちゃんよりはマシでしょ。じゃあね」


 リラちゃんのにやけ顔を横目に、おれも部屋を出る。執行人とアイスクリーム屋の兼業は大変だけれど、今のところどっちもやめるつもりはない。


 アイスクリーム屋の服に着替えて、ワゴンを停めている倉庫に向かう。

 ワゴンを引いてまずはアイスを仕入れる店に寄ってから、中央広場へ向かう。今日は少し涼しいみたいだし、コーヒーも多めに作っていこうかな。


 春の柔らかい風が頬をくすぐる。まだ少し冷たいけど、じきに温かい風に変わるだろう。そしてアイスクリームがおいしい季節になる。


「アイスクリームをひとつ」

「はーい。毎度どうもですっ」


 あの日以降、ヨツバさんは毎日夕方にやってきては、いつもコーヒーを買っていく。

 そして毎週金曜日にアイスクリームを買って食べている。自分へのご褒美なんだそう。


 おれよりもお兄さんかと思っていたけれど、実はおれと同い年だった。

 ヨツバさんもおれが同い年だと知って驚いていた。ガキだと思ってた、と言われてしまった。


 むむ、それはちょっと気にしていたんだよね……。

 おれは年齢の割に幼く見られることが多い。五年くらい前から、身体の時間が止まっているみたいで、おそらくそのせいだ。


 それにしても、なんかこう、もっとシュッとした男前に見られたい。ヨツバさんみたいな。

 いや、ヨツバさんは男前っていうよりも中性的な雰囲気があって、やっぱりきれいって言葉がしっくりくるかな。


 ヨツバさんは眼光も鋭いし口数も少ないけど、話してみると優しい人。ちょっと口下手みたいだけれど、いい加減な言葉を並べ立てて都合のいいことばかりいうような人よりは、よっぽど居心地がいい。

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