愛憎のレモネード
惺窩
愛憎のレモネード
僕の作るレモネードは薄いと君は言った。
朝、僕は寝ぼけ眼で二人分のトーストを用意してテーブルに置く。
君なトースターの音で目を覚まして、一緒に朝食を食べた。
昼、君は本を読み始める。哲学本だった。僕はそれを合図に作っておいたレモネードを2つのコップに注ぎ、君に渡す。もう一つのレモネードは、君の対面に座った僕が、君を見つめながらちびちびと飲む。君が真剣に本を読む顔に、僕は見惚れていた。
僕の作ったレモネードに、「薄い。」と君は決まってそう言った。それから、シロップを二つ投入する。
一口、それを貰ったがやはり僕には少し甘すぎた。
「甘すぎない?」
そう僕が言うと、君は「そんなことないよ。」と笑った。
君は、手持ち無沙汰に君を見つめる僕を見ては、「一緒に本読もうよ。」
そう提案した。僕は本を読むのが億劫で、というよりも本を読んでいる君を見ていたくて、ずっと「いつかね。」と解答を濁していた。
君は本を読み終わると、座っている僕にその本で学んだことを教えてくれた。僕には何が何だかわからなかったけど、君があまりにも嬉しそうな顔で話すから不思議と退屈はしなかった。
僕は、君の一歩後ろを歩くだけでよかったんだ。君が一歩を踏み出したら、僕はその半歩踏み出す。君が半歩踏み出すなら、そのまた半歩、僕は踏み出す。
君と暮らせるなら、そんな生き方でもいいと僕は思っていた。
でも、長いこと一緒に暮らすと、欲が出てしまった。君のことをもっと知りたいと思った。だから、僕は別れ話を切り出した。
ほんの少し傷ついて、それでまた関係を修復したいと思っていた。一度傷ついた筋肉が、回復すればより強固な筋肉になるように。
君は死んだ。…いや、僕が殺した。
ほんの少しのはずが、君にとってはもっと大きなものだった。
僕は最近、本を読むようになりました。君にずっと勧められていた、実存主義者の本です。
それを、レモネードを飲みながら読んでいます。
君が僕に本を勧めていた理由がようやくわかりました。僕は今、自分が読んでいる本を語り合える人が欲しいです。
君がレモネードをあんなに甘くしていた理由も、ようやくわかりました。難しい本を読むのは頭を使いますし、疲れますね。
僕の作る、シロップを入れていないレモネードの味が、今では憎たらしくて仕方がありません。
愛憎のレモネード 惺窩 @aite
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます