惺窩

ある森の中に少年は住んでいた

それはもうでかい山で、1度入ってしまうと出てこれないようなでっかい山。

そんなでかい山の中には決まって寺がある。

いつ、なんのために、誰が建てて、誰が住職なのかなんて分からないちっさい寺。

地図アプリにも乗らないような寺だ。

この森も例に漏れず小さな寺があった。小さな寺には大樹があった。クスノキなのかなんの木なのかは分からないがその木、神木には3本の縄が編みあって作られた注連縄が巻かれており紙垂が張り巡らされていた。

きっと少年の家はこの大樹を囲うように建てられたのだろう。

家の中に注連縄がぐるぐる巻きになっている神木があって、そのぐるぐる巻きになっている注連縄の余った部分が少年の心臓と繋がっていた。背中から心臓に繋がっているそれは背中から百足が心臓まで掘り進むようだった。まるで生体内のプロトンがその注連縄と結合しているように、がっちりと。

ナイフで注連縄を切りさこうとしても、斧を振り下ろしても縄を切ることは出来なかった。いや、実際には切ることは出来たが切ってもすぐに再生して切っても意味がなかった

少年は物事がついた時にはもう注連縄と自分が繋がっていたという。服を着ると注連縄のトゲが背中に刺さって痛いから彼が着る服は全て後ろを切り抜いた。

少年は注連縄のせいで家を出ることが出来なかった。出ようとしても注連縄が自分と神木を繋いでいるため一定距離しか動くことが出来なかったのだ。

そんな彼を可哀想だと思う一緒に住んでるおじさんは彼の面倒を見た。彼の欲しいと言ったものを買え与えた。

だから彼は外のことを本でよく勉強した。そしておじさんに買ってもらった望遠鏡で森の奥や空を観察する。それが日課だ。

「外に出たいなぁ」と少年は望遠鏡を覗く度声を漏らした。

西暦何年の何月何日なのかはわからないが少年はいつものように望遠鏡を覗いていた。

「今日は暑っついなぁ」と声を漏らしながら森の中にいる生物を観察する。

そこで、1人の青年を見つけた。彼より6歳ほど年齢が高そうな見た目をしてる。

少年はおじさん以外に人を見た事がなかったから青年をずっと観察した。

青年の歩き方はフラフラしており、今にも倒れそうだった。少年は森の中でさまよったのかもしれないと思い急いでおじさんを呼びに行った。

おじさんを望遠鏡まで連れてきて、遭難者がいると伝える。

おじさんが望遠鏡を覗くと「誰もいないじゃないか」と疑問まじりに答え、夕飯の支度をしてくると外に出て行った。

少年が覗くとやはり遭難者のような青年が寺の近くの木陰にいる。

少年はいてもたってもいられなくなり、注連縄を最大まで伸ばすと近くの窓を空けて「大丈夫ですか?」と叫んだ。

青年はそれが聞こえたのか寺の方に近づいた。

そして青年は寺を見つける。その時には少年の裸眼でもしっかりと青年が見えるようになっていた。

少年は青年を見つけると青年に向けて「ここですよ」と声をかける

青年は彼に近づきこう言った

「早くここを出るんだ。」

少年は困惑した

「ここに留まってちゃダメだ。」

「えぇと、まずはお茶でも飲みましょう?」と少年は言う

青年は彼の注連縄に今気づいたらしい。

少年は視線の先を見て、「この注連縄のせいで動けないんです。」と答える

青年は「そう…か」となにか達観したようにため息混じりの声を出した

「そうだな。お茶でも貰おうか」

青年はそう言うと彼の家へと入っていった。


少年はおじさん以外の人と話したことがなかったから青年と話すのはとても楽しかった

どれだけ時間が経ったかわからないが青年は「また来るよ」といい彼の家を出た

その数十秒後おじさんが帰ってきた

少年は今日あったことをおじさんに楽しそうに話す。

おじさんは「二度とその子供を家に入れては行けない」と釘を刺した

なんで?と言ってもおじさんはダメなんだよと答えるだけだった


その日からというもの青年はおじさんがいない時に必ずここに来るようになった。

「なんでいつもおじさんがいない時に来るの?」と少年は問う

「まぁ色々とあってね」

青年は回答を濁す。

「なんでここに来るの?」

「家族と色々あるんだよ。」


「学校ってどんな感じ?」

「さぁ、3年間しか行ってないからよく分からないな」


「家族とどんな感じなの?」

「うーん、まだ教えない。」


「この縄どうしたらいいと思う?」

「…枷を、外さなくちゃいけないんじゃないかな」


そんな感じでずっと青年と話す。

そしてやはり青年はおじさんが帰ってくる前にすぐ帰る


そしてそんな生活を1ヶ月続けたある日、また青年が家に来る

今日はどんな話をしようかなと心躍らせていると青年は少年の手を掴んだ

「今日は楽しく話をする気は無い」

一呼吸おいてこう言う

「今日は、お前を取り戻しに来た」

少年は困惑する。取り戻す?意味がわからない

「どーゆー事?」少年は言う

青年は少し寂しそうな顔をして

「本当に何も覚えてないんだな」といい、そういうと淡々と話し出す

「お前は唯一俺ら家族で生き残った存在なんだ。お前と俺は、血の繋がった兄弟だ。

あの日、強盗が家に押し入った日。あの時俺たち家族は死んだ。お前を除いて。そして殺したやつはお前の親みたいな存在の、あのおじさんだ。」

少年はさらに困惑した。気がつけば、「そんなわけないじゃないか!」と声を荒らげていた。

「でも、これが事実だ。」

強い口調で青年は少年を制止し、服をまくると、少年に腹を見せた。

腹部には数箇所にナイフに刺されたような刺傷が残っていた。

「お前は、あいつに洗脳されてるんだ。お前のせいで家族が死んだってな」

少年は頭を抱え、下を向く。

「お前の言うその注連縄は、自分のせいで家族が死んだという枷によって作られたものだ。俺、父さん母さんが注連縄となってお前を縛り付けていると思い込んでいる。実際には、そこには何も無い。お前から何も生えてない。」

少年は唸り声をあげて頭を抱える。

それから数秒

「思い出した…」と言いながら上を向く。そこにはもう青年はいなかった。

彼にかかっていた枷が外れる。少年と繋がる注連縄が巻かれていた神木の方を向くと家族がいた。消えていく注連縄と同じように家族の影も徐々に薄れていく。

兄が消えていく中で「早く外に行け」と叫ぶ

「うん、行ってきます。」と彼は家族に言うと家の外に出た。

そして少年は家の方を振り返ることなく森を駆け下りた。

森から抜けて国道を少し歩くと、小さな集落にたどり着いた。

そこで少年は一人の老人に引き取ってもらったという。


おじさんがなぜ彼を殺さなかったのか、今おじさんがどうなったかはわからないが、少年は学校に通い毎日を楽しく過ごしているようだ。

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惺窩 @aite

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