ぬりかべの、娘!
崔 梨遙(再)
1話完結:900字
ぬりかべには渚という嫁がいた。子供も授かった.男の子だった。名前は壁男。そして! 壁男が生まれてから数年後、ぬりかべ夫妻はまた子供を授かった。今度は女の子だった。名前は壁子。壁子は幼稚園に入る前に人間の姿に化ける術をおぼえた。そこで、“どうせなら美人が良い!”ということになり、壁子は美少女になった。
小学校に入学して、壁子は初恋というものを知った。同じクラスの金餅君。勉強でもスポーツでも目立っていた。クラスの女子は、みんな金餅君が好きだった。
壁子は諦めていた。自分の本性が壁だと知られたら絶対に嫌われる。壁と人間のハーフであることは壁子を苦しめていた。
でも、金餅君は壁子に積極的にアプローチしてくる。帰り道も途中まで同じだ。壁子は、隠し事をしているのがツラくなって金餅君に話すことに決めた。
「金餅君、もしかして私のことが好き?」
「うん! 大好きだよ!」
「ありがと。でもね、私は妖怪と人間のハーフなのよ」
そこへジャージ姿の男が乱入して来た。ナイフを持っている。
「殺してやる! 殺してやる! みんな殺してやる!」
男は殺人鬼だった。男が金餅君に襲いかかるところを壁子が立ち塞がった。服はビリビリに破けて、ぬりかべの姿になったのだ。男のナイフは折れた。壁子の方が丈夫だったようだ。逃げようとする男の上に壁子は倒れこんだ。男は下敷きになって気を失った。きっと、何カ所か骨折しているだろう。
「見てる? 私の本当の姿は壁なのよ」
「なんて素敵な壁なんだ!」
「はあ?」
「実は僕、壁マニアなんだ」
「壁マニア? 壁マニアって何?」
「世界中のいろんな材料の壁を集めているんだ。でも、君のような美しい壁を見たのは初めてだよ。壁子さん、僕と付き合ってください!」
「えー!」
金餅君は少し変わった人だった。
「さあ、僕の家に行こう。あ、壁が動いてるところを見られたら騒ぎになるから、人間の姿に戻ってくれる?」
「服がビリビリに破けたから、今、人間の姿に戻ったら裸になっちゃう」
「じゃあ、僕のコートを貸してあげるよ」
「裸にコートって、私が変態みたいじゃない!」
ぬりかべの、娘! 崔 梨遙(再) @sairiyousai
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