雪ビキニ未練酒

@2321umoyukaku_2319

第1話

 変わった女だった。

「雪原にビキニって、映えるよね」

 突然そんなことを言ってきたときは、正直「何を抜かしやがんだコイツ。まずは瘦せろやボケ」としか思えなかった。実際、氷原を背景にビキニを着た彼女を見ても、俺はピクリともしなかった。ドラム缶が白い布を巻きつけて雪の中に置いてある様子が頭に浮かんだ、その程度だ(ドラム缶の中では火が焚かれているのは言うまでもない)。

 それなのに、アイツは何を勘違いしたんだか「ねえ、ちょっと興奮してる?」とか言い出したもんで、俺は魂消た。太めの雪女に魂を抜かれたって感じかな。

 そう、あれは冬のカナダのホテル……あれ、違ったかな。北欧だったかも。アメリカのコロラドか何処かだったかもしれん。忘れた。バブルの頃で、円高だったのかな、海外旅行へ行っては現地でブイブイ言わせていた昔のことだから、記憶があいまいになっている。

 それでも、あの女の白ビキニには恐れ入った。肌が白い者に白ビキニはイケる! みたいな話を聞いたことがあったけど、そんなことは全然ない。旨そうなハムみたいだった(ちなみに体の味は美味くも何ともなく、普通の女だった)。

 一体全体アイツの何処が良くて俺は連れ回していたのだろう、さっぱり分からない。当時も分からなかったのだから、今になって分かるはずがない。

 それでも恋愛という文字を見て思い出すのは、あの女だ。我ながら未練がましいと情なくなるが、俺の前から消えた女の幻影を瞼の裏に浮かべて、氷の浮かぶ酒精を飲む毎日だ。

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