恋愛試験官

@2321umoyukaku_2319

第1話

 以前に所属していた団体は内部での恋愛が禁止されていた。その理由を書くと支障があるので、ご容赦願いたい。まあとにかく、お互いに好意を抱いている者同士であっても、恋人になるのは許されないのだった。

 人間同士なのだから、好きになるのは自然なことだ。理不尽にも程がある。人権侵害もいいとこだろ! と思うのが普通しかし、その組織においては、その手の発想が生まれてこない。まあ、そういった雰囲気の集団だからこそ、そんな無法なルールが成立すると言える。ついでに言うと、そんなヤバい奴らの集まりだから、詳細な情報を書くに書けないのである。

 話を戻そう。

 基本は恋愛禁止なのだが、救済策はある。何かというと、手続きだ。交際を希望するカップルは事務に届け出を提出し、許可を得れば良いのである。

 その届け出の書類を審査する部局に、私は在籍していた。審査を通るとカップルに試験が行われる。その試験の際は、試験官としてテストの間、カップルを監視する役割を担った。

 変な役目だが、当時は違和感を持たなかった。私も、あの空気に汚染されていたのだ。

 だが、ある日の試験で、その認識が変わった。カップル同士のカンニングを発見し、それから色々と考えるようになったのだ。

 そのカップルは二人で、こっそり答えを教え合っていた。隣の席に座った二人は、瞬きとか、素振りとか、あらかじめ決めたサインで情報を交換していたのである。バレバレだったが、何だか二人が可愛らしかった。それで、私はカップルのカンニングを見逃した。初々しい二人に幸あれ! なんて祈ったものだ。同時に、自分の仕事が馬鹿らしくなった。下手なラブコメよりアホらしいと思えてきたのだ。

 それでまあ、組織そのものに違和感を抱くようになった。しばらくして私は、その団体から足を洗った。

 ラブコメ短編部門に何か出そうと思ったが、こんな昔ばなししか頭に浮かんでこなかった。これまた皆様、ご容赦の程を。

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