客の心を乱暴に開かせるような、自分のために生きていると言えるような、そんな叫びがずっとしたかった。

 仲間ができた。奴らは俺に遊び方を教えた。なんの仕事をしているのかもわからないような薄汚い奴らで、いつも俺を囲んで機嫌を伺うようにニヤニヤしている。

酒、ドラッグ、博打、なんでもやった。退屈凌ぎになるならどんなことでも試した。強くなれた気がした。髪を赤く染め、両頬のほくろを化粧で隠した。これでもう泣き虫だなんて呼ばせはしない。あの男と別れて、家を買った。そこでノエミと暮らし始めた。仲間達にも部屋をやった。みんな喜んでいた。楽しむためなら、金に糸目はつけなかった。興奮やスリルは、生きているという実感を味わわせた。

 俺はクラウディオとしてロックをやり始めた。一人でステージに立ち、マイクに向かって怒鳴り、叫ぶ。

スパイシーにがなったり、時には狂乱めいた響きで叫んだりして、俺は自分のことを一つの芸術作品だと思うようにしていた。客は皆熱狂して、いつも大騒ぎだった。俺には何千万の愛が味方していた。紛い物だとわかっていた。でもその温度でよかった。結局、本当の愛なんて得られやしないなら。

 ばんばんメディアに出まくった。CRYだった時とは比べられないほど、売れた。金も更にたっぷり稼ぐようになって、買えないものなんて無くなった。ピアノなんか弾く奴はもうどこにもいなかった。次から次へといろんなものを摂取する人生は痛快で、胸の奥の痛みを忘れさせてくれる。

 ある夜、パーティーで一人の男を使って賭け事をした。そいつにロシアンルーレットをさせるのだ。銃を頭に押し当て、弾が出て死ぬか、出ないで死なないか予測するというものだ。みんなひどく酔っていた。

男は貧しかった。何か理由があるらしく、金をチラつかせると真っ青になりながら話に乗ってきた。馬鹿みたいに騒ぎたててどちらかに賭けた。仲間の一人に意見を乞われ、男が死ぬと答えた。みんな笑いに笑った。

ふと、あの頃の空気を思い出した。小学生の時にいじめられていた記憶だ。すぐに首を振ってそれを打ち消す。結局男は恐怖のあまり失神してしまって、賭け事はなしになった。誰もその身を案じている者はいなかった。男の身長が小さかったことが、なぜだか気がかりだった。

CRYの曲を耳にすることがあり、困るのはその時だけだった。激しい乾きが襲ってくるのだ。そいつは隙を狙っていて、生気を奪い取ってしまう。胸の扉の奥深くで、小さな自分が「ここから出して」と泣いているのが見える。そのイメージが浮かびだすと俺は駄目になってしまう。酸素をうまく吸えなくなる。心臓の音を誤魔化すように、酒や薬を喉に流し込む。そうしても莫大な絶望や恐怖が俺の中から出ていってはくれない。あの男が紡いだ言葉が、昔の俺の歌声が、今の俺の何もかもを否定する。責め立ててくる。これでいいのかと、真っ直ぐな瞳で尋ねてくる。

そんな生活が2年続いて、気がつけば2022年も終わりかけている。

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