偉大なる兄弟たちへ
結城からく
第1話
レオ兄ちゃんが拳銃を構えた。
銃口の先には瀕死の男がいる。
恐怖に怯える顔を気にせず、レオ兄ちゃんは自然な動作で引き金を引いた。
乾いた音が鳴り響く。
男の額に穴が開いて死んだ。
穴から血が伝って服を赤く染めていく。
レオ兄ちゃんは拳銃を下ろして俺に言った。
「敵が倒れたら、必ず頭を撃ち抜く。これを徹底するんだ。死んだふりをする奴もいるからな」
「やっぱりレオ兄ちゃんはすげぇよ!」
俺が顔を輝かせて褒めると、レオ兄ちゃんは首を横に振る。
どこか仄暗い表情だった。
「そうでもない。人殺しが得意なんて誇られることじゃないんだ」
レオ兄ちゃんの言うことは、きっと正しいのだろう。
だから反論はしない。
俺達は殺し屋だ。
街の人間から依頼を受けて、標的を襲って命を奪う。
そんな毎日を送っていた。
殺しに信念はない。
ただ金が欲しいからやっている。
親も身寄りもいない俺達は、こうすることでしか生きていけないのだ。
確かに誇れることではない。
だけど、好きでやっているわけでもないのだった。
レオ兄ちゃんは男の持っていた銃を奪うと、俺を出口へと促した。
「さあ、早く離れよう。見つかったら面倒だ」
「うん!」
俺達は建物を出た。
そのまま雑踏に紛れ込んで進む。
なるべく自然体を装いながら、周りの目を確かめるのも忘れない。
特に暗殺の直後は、どこから攻撃されるか分からないからだ。
しばらく歩いた後、レオ兄ちゃんは真剣な顔で切り出した。
「なあ、ユアン。一つ頼みがある」
「何だよ? レオ兄ちゃんがそんな風に言うなんて珍しいな」
俺は意外な気持ちで首を傾げた。
レオ兄ちゃんは足を止めて俺に告げる。
「もし俺が死んだら妹を――マナを守ってくれ」
マナとは俺が背負う赤ん坊のことだった。
たった一人の妹で、俺達が何よりも大切にする存在である。
しかし、レオ兄ちゃんの頼み方は少し違う。
言い方がなんだか不吉な感じがした。
まるで自分がもうすぐ死ぬかのような雰囲気を醸し出しているのだ。
だから俺はレオ兄ちゃんを肘で突く。
「縁起でもないことを言うなよ。俺達兄弟はずっと一緒だ」
「……すまないな。でも、マナのことは約束してくれないか?」
「うん、分かった。約束するよ」
俺は頷いて答える。
するとレオ兄ちゃんは優しく頭を撫でてくれた。
「ありがとう。お前は自慢の弟だ」
レオ兄ちゃんは穏やかな表情で笑う。
俺にとっても自慢の兄だった。
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