空白の言葉
サトウ・レン
伝えられなかった言葉を。
「雨、嫌いじゃないけど、ね。いつか晴れるから」
彼女が僕にほほ笑んだ時、空から天気雨が降っていた。陽射しはあるのに雨が降るなんて卑怯だ、と思った。その頃、僕たちは小学生で、仲の良かった数人で遠出をしていたのだ。遠出と言っても小学生の行ける常識的な範囲内だ。「お前と一緒の時、いつも雨降るよな」とひとりにからかわれて落ち込む僕に、彼女はそう言ったのだ。どこか励ますように。
実際、僕は大事な出来事の時に限って、よく雨に降られた。
たとえば転校する彼女に最後に会いに行った時も、雨が降っていた。機嫌の変わりやすい秋の空が、降ったりやんだりを繰り返していた。クラスのみんなで寄せ書きをした色紙を渡す役目が僕だったのだ。だけど僕だけは色紙に何も書かなかった。書けなかったのだ。
「あれショックだったんだから」
再会した時、彼女が昔を懐かしむようにそう笑った。また会えるって信じてたからだよ、と冗談めかして答える僕に、嘘でしょ、と見透かすように彼女が続ける。だから僕は、あの時、空白になった言葉を彼女に伝えた。
今日は晴れている。雨ひとつない快晴だ。
彼女が胸に抱えたブーケを投げる。
宙を舞った花束は陽光に照らされていた。
空白の言葉 サトウ・レン @ryose
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