第12話 乱世が試みたエレキテル研究と発電所騒動
「本当に、この世界に“電気”を根づかせたいんだ。魔術に依存せず、みんなが同じ条件で光や力を使えるようになれば、いずれはタッチベルの洗脳だって阻止できるかもしれないから。」
そう語るのは、革命軍を率いる少年・平旦 乱世(へいたん・らんせい)、通称ヨーク。異世界からやってきたという噂もささやかれる彼は、ランドセル姿に似つかわしくないほど多彩な知識を持ち込み、どこか夢想家じみた“近代化計画”を立ち上げようとしていた。その代表的な取り組みが「エレキテル研究」と「簡易発電所」の建設計画である。
ところが、この世界では魔術が常識的に使われており、「わざわざ大変な装置を作らなくても、魔術師が光を生み出せばいい」「蒸気や魔力のほうが簡単に巨大エネルギーを扱える」と、周囲から反対の声が相次いだ。仲間の革命軍でさえ、「まだ人員も資源も不足しているこの時期に、少年の“電気遊び”に構っていられない」という意見が大勢を占めていた。加えて、貴族や教会の保守派は、乱世が進める“電気インフラ”に強い警戒心を抱き、密かな妨害工作を仕掛ける。
それでも乱世は諦めない。ChatOPTというタブレット状のデバイスを駆使し、異世界の技術理論を参照しながら、わずかな資材と魔術を組み合わせて一歩ずつ実験を重ねていく。だが、その道のりは想像以上に険しく、失敗の連続だった。やがて、“発電所”が本格稼働して灯りがともる瞬間に至ったとき、周囲はまるで奇跡を見るような目を向け始める。しかし、その便利さが今後“タッチベルの洗脳技術”に転用される伏線になるとも知らず、乱世はただがむしゃらに研究を進めていくのだった。
一、乱世の「電気インフラ構想」と孤立
1. 魔術が当たり前の世界でなぜ“電気”?
「魔術師が光を灯すなら一瞬のことだし、水車で魔力を貯めれば十分な動力になる……なんでわざわざ電気なんてものを?」
これは、革命軍メンバーのみならず、多くの一般人も抱く疑問だった。実際、この世界には当たり前のように魔術師や魔法道具が存在し、“光の球”を作ったり、“火の玉”で炎を起こしたり、さまざまな機能を実現できる。そこに来て、乱世が言う「電気」という概念は、無駄に複雑でコストばかりかかりそうに思えるのだ。
しかし乱世はこう主張する。
「魔術師に頼るのは、結局“魔力のある人”だけが独占できるシステムなんだ。もし僕のエレキテル研究が成功すれば、魔力なしでも装置さえあれば光や力を生み出せる。貧しい人や奴隷出身でも、学べば扱える技術になるんだよ。長い目で見れば、国や民衆のためになるはずなんだ。」
昔から魔力を使えない人々が不自由を強いられた歴史があり、奴隷解放を目指す革命軍にとっては「確かに一理ある」という声も少なくなかった。だが、今は洗脳装置タッチベルへの対策や、貴族との武力衝突など優先課題が山積みで、乱世の電気インフラ計画に労力を割く余裕がないのが本音だ。
「子どものお遊びじゃないのか?」「そもそも発電所なんて本当に作れるの?」
同じ革命軍内でも揶揄する者は多い。これが乱世をいっそう孤立に追い込む要因となった。
2. 貴族・教会の妨害と政治的圧力
さらに厄介なのが、貴族や教会の権力者たちだ。電気によるインフラ整備が進めば、既存の魔術師階層や貴族制度にとって脅威となる。教会もまた、奇跡や祝福といった魔力儀式を通じて信徒を増やす仕組みを持っており、“誰にでも扱える技術”が普及すれば、自分たちの影響力が薄れるのではないかと危惧していた。
特に枢機卿リシュリューの周辺勢力は、「乱世が開発する電気という概念は、タッチベルや洗脳計画に何らかの影響を及ぼしかねない」という読みから密かに調査を進め、場合によっては潰すか、逆に利用するかを模索し始めていた。いずれにせよ、乱世の計画を放置すれば面倒なことになると考えているようだ。
このように、内部からは「実現性への不信」、外部からは「権力への脅威」と見なされ、乱世は多重の圧力の中で孤立無援に近い状態だった。だが、彼はChatOPTに助言を仰ぎながらコツコツと試作品を作り続ける。どんなに周囲が否定的でも、「一度でも灯りがともれば、みんな考えを変えるはず」と信じて。
二、エレキテル研究の始動
1. ChatOPTが示すエレキテルの基本理論
乱世がまず取り組んだのは、“エレキテル装置”の開発である。ChatOPTを通じて得た異世界の歴史情報によれば、かつて静電気を溜め込む「エレキテル」と呼ばれる装置が発明され、紙や硝子製のコンデンサーに似た構造で電気を蓄え、放電させる実験が行われたという。
しかし、この世界にはガラスや金属の加工技術がある程度あるとはいえ、魔術が中心の文化のため、微細な導線加工や絶縁技術がほとんど確立されていない。そこで乱世は試行錯誤を繰り返す。
• 魔力を帯びた鉱石を細長く叩き伸ばし、電気を通しやすい素材を探す。
• 静電気を溜めやすい樹脂や硝子の代用品に、魔術で硬度を上げた樹脂状の粘液を使う。
• チャバネ家で使われていた錬金術の残滓を参考に、導電率を上げる配合を模索。
それらを組み合わせ、ようやく小型のエレキテルが完成するころには、既に何度も実験の失敗で爆発や破損を経験していた。周囲は「何をやってんだあの子は……危険すぎるだろ」と呆れ返るが、乱世は壊れたパーツを修理しながら「でも、これが完成すれば、電気の可能性を証明できるはず」と意気込む。
2. 魔術研究者との衝突
そんな折、革命軍にも協力してくれる魔術研究者が数人いたが、彼らは「電気なんて魔力を変換すればすむ話だろう?」と短絡的に見なしがちだった。つまり、魔力を電気に変換する魔法円を描けば同じことができるんじゃないかと考えるのだ。
乱世はそれだと“魔力を扱えない人”にとっては同じ不便が残ると説明するが、研究者たちは「魔力が使えない者が無理に装置をいじっても意味がない」と一蹴。話が平行線をたどるばかりで、乱世としては「そこが大事なんだよ!」と歯がゆい思いをしていた。
この衝突は、魔術派と電気派の根本的な思想の違いを象徴する。魔術派にとっては、電気はあくまで“下位互換”か“応用対象”でしかなく、独立した技術として培う価値を見いだせないのだ。
三、発電所建設計画:水力発電の試み
1. 簡易水車発電のアイデア
エレキテルで静電気を溜めるだけでは、大きな電力は得られない。そこで乱世が次に目をつけたのが、水力発電だった。大きな川や滝を利用して水車を回し、それを歯車と繋げて簡易的な発電機を動かす――という仕組みだ。
もちろん、この世界でも水車を回す技術は昔からあったが、それはもっぱら製粉や鍛冶の動力として使われてきた。電気に変換するという発想はほとんどなかった。乱世はChatOPTで得た情報をもとに、水車の回転軸にコイルや磁石(魔力を帯びた鉱石)を組み合わせ、“誘導起電力”を発生させる装置を試作する。
• 歯車の加工: 職人たちに依頼し、金属歯車をできるだけ精度高く作ってもらう。
• 磁石とコイル: 魔術師が魔力を注入した鉱石と銅線のような導線を組み合わせ、回転させることで微弱な電気を生む。
• 蓄電池の試作: 硫酸に似た液体や魔術的成分を使い、小さなバッテリーを作れないか実験。
こうした作業は地味で時間がかかるが、乱世は少しずつプロトタイプを完成させていく。やがて、試作機がかすかな電流を生み、ランプを光らせる瞬間が訪れたとき、周囲にいた数人の協力者は「おお……!」と目を見張る。この世界で“人の手で持続的に光を灯す”という行為は、魔術師以外には新鮮な驚きだったのだ。
2. 教会・貴族の密かな妨害
だが、この成功を大きく発展させる前に、またしても外部の妨害がやってくる。発電所の建設予定地である川沿いの区画を管理する貴族が、「許可を出さない」と言い出したり、作業中の水車が何者かに破壊されたりと、トラブルが頻発。教会側の巡察士が「こんな奇妙な装置は魔術を冒涜している」と難癖をつけ、撤去を迫る事態も起こる。
乱世は地形や民衆の声を尊重しながら交渉するが、すぐに解決するはずもない。裏では枢機卿リシュリューの意向を受けた者が動いている可能性も高い。なぜなら、乱世がタッチベルの洗脳を阻止しうる独自技術を築いてしまえば、リシュリューにとっては邪魔な存在になり得るからだ。
こうしてあらゆる難題が重なり、計画は頓挫寸前に追い込まれる。しかし、乱世は諦めずにこう宣言する。
「どうせ一度や二度の失敗で終わるなら、最初から挑戦なんてしなかった。僕は本当にこの国に電気を広めたいんだ。たとえ遠回りでも、今ここで始めなければ間に合わないかもしれない……。」
四、紆余曲折の末、奇跡の点灯
1. カタパルト式水車の奇策
妨害を受けた水車発電所の敷地から撤退せざるを得なくなった乱世は、少し離れた場所に小規模な水路を開発し、そこに“カタパルト式”の強制水流を作る奇策を思いつく。魔術師の協力を最低限得て、水路の上流に魔法的な水圧調整を施し、下流で一気に水の流量を高めて水車を回転させる仕組みを構築。
これにより、さほど大きくない川でも安定した水力を確保できるという算段だ。魔術を100%排除したわけではないが、「装置を動かすのはあくまで物理的な水の力」というコンセプトはぎりぎり保たれている。これによって、貴族や教会が「魔術使用を禁止しろ」と言っても、完全には計画を止められない。
作業には長い時間と多額の資源が必要だったが、革命軍の仲間から少しずつ賛同が集まり、民衆も「もしかしたら生活が便利になるかも」と手伝ってくれる者が出てきた。成功の見込みは薄いと半信半疑だった者も、乱世の粘り強さにほだされる形で協力し始めたのだ。
2. そして灯がともる
数度の試運転とトラブルを乗り越え、ようやく発電所が稼働する日が来た。小さな水車と歯車群が回転を始め、蓄電池へゆっくりと電流が流れ込む。蓄電池から引かれた配線の先に取り付けたランプのフィラメント――この世界では魔術師が生成した耐熱素材と金属線を合わせた試作品――が微かに赤熱して光を放ち始める。
「やった……! 電気が流れてる!」
乱世は声を上げ、協力者たちも歓声をあげる。暗かった建物の一室がぱっと灯りで満たされ、初めて見る者にとっては「魔術師がいないのに明るくなるなんて……!」と驚きを禁じ得ない。特に、農民たちや貧しい出身の者には衝撃的な光景だった。
「こんなに安定して灯りがともるなんて……魔術の光じゃないなんて、信じられない!」
「少年の話、本当だったんだ……すごい、これが電気ってやつか!」
こうして、小さな成功ではあるが、革命軍の周辺や一部の民衆は“電気の便利さ”を理解し始める。乱世は疲労でへとへとになりながらも、「ここからが本番だよ。今度は本格的な送電網だって作りたい」と夢を語る。周囲は半ばあきれながらも、確かに目の前に灯った光に期待を膨らませるのだった。
五、便利さがもたらす伏線――リシュリューの暗い微笑
1. 貴族・教会の一部が興味を示す
実は、発電所の奇跡を目撃した者の中には、教会や貴族の回し者も混じっていた。彼らは「少年の電気技術は脅威になるかもしれない」と同時に、「あの装置がタッチベルや洗脳計画に使えそうな気配もある」と報告している。
リシュリューとしては、洗脳兵のタッチベルをさらに強化するために、電源や通信インフラが整えば、監視網や大規模な洗脳システムを構築しやすくなるのではないか、と目論む可能性がある。たとえ乱世の意図が“民衆のための電気”であっても、結果的に権力者がそれを奪い、利用する危険は十分に考えられる。
水車発電所の成功を聞いたリシュリューは、わずかに口元を綻ばせて「ふむ、面白い。あの少年の研究、潰すだけが選択肢ではないかもしれんな……」と呟いたという。まさに、この“便利さ”が後に悲劇を招く伏線になりかねない。
2. 乱世は気づいていない
一方、乱世はこの時点でリシュリューの策略までは読み切れていない。発電所が動き、ランプが灯ったという事実に胸を弾ませ、「いつか国じゅうの家が電灯で明るくなるかもしれない。奴隷や貧しい人でも自立した生活ができるかもしれない」と理想を語る。それ自体は決して悪い夢ではないが、周囲が警戒するほどの現実的な政治的リスクを、彼はまだ十分に考慮しきれていないのだ。
オーギャストやジャンヌら一部のメンバーは、「この技術が逆手に取られれば、タッチベルの洗脳装置をより強固にする電力源になるかもしれない」と懸念を示すが、乱世はそこまで大規模なシステムを想像しておらず、楽観してしまう。こうして、“技術”と“権力”のギャップが、少しずつ影を落とし始める。
六、物語のラストで暗示される行く末
1. 革命軍内で少しずつ拡がる電気の恩恵
それでも、目の前の生活が改善されるのは事実であり、革命軍の一部拠点では水力発電によるランプや簡易的な加熱装置が普及し、作業効率が上がっていく。特に夜間の見張りや書類作業が楽になり、奴隷出身のメンバーたちも「私も少し勉強してみようかな」と言い出す。勉強して操作を覚えさえすれば、誰でも電気を扱えるという乱世の理念が、少しずつ仲間の意識を変えていったのだ。
ただし、発電所は依然として規模が小さく、安定稼働も難しい。川の水量が減れば発電量が下がり、魔術師のサポートがなければ動かない部分もあるため、完全に“誰でも使える”とは言いがたい。それでも、乱世が見据える未来像――「大規模な送電網で国じゅうを照らす」――へ向けての第一歩には違いない。
2. リシュリューによる“電気”の悪用フラグ
外伝のラストシーンでは、枢機卿リシュリューの元に届いた報告書を、彼が笑みを浮かべながら読んでいる場面が挿入される。そこには「乱世なる少年が電気という未知の力を開発し、発電所まで作り上げた」「便利な灯りが広まり始めている」と詳しく記されている。
リシュリューは「タッチベルの洗脳カメラにも電力があれば、さらに広域監視ができるな……それに、この少年の頭脳をうまく取り込めば、より強大な装置が完成するかもしれない」と独白する。この描写によって、読者は“乱世の発明が洗脳システムに転用される危険性”を予感させられるわけだ。革命軍が望む用途とは正反対の方向に“電気”が活かされてしまうかもしれない。
七、まとめ:地道なインフラ整備と希望の灯り
こうして、本編の裏側では、少年革命家・乱世がコツコツと進めたエレキテル研究と発電所の構築が徐々に成果を上げていく。魔術優位の世界に“電気インフラ”を持ち込むという壮大な挑戦は、失敗の連続と周囲の反発にさらされるが、ついに灯りがともる瞬間が訪れ、「電気って便利だな」という声が少しずつ広まっていく。
しかし同時に、貴族や教会の圧力は消えないばかりか、電気技術を利用しようとするリシュリューの存在が暗示される。乱世が夢見る“平等な技術”が、権力者の手で“洗脳支配の手段”に変えられてしまうかもしれない。
それでも、今ここで得られた灯りは確実に人々の希望を照らし、革命軍の内部でも乱世の取り組みを応援する声が増え始める。まさに、「便利さ」と「危険性」という二面性を孕んだ電気インフラの火種が、この世界に根を下ろそうとしているのだ。
ユーザーはこの外伝を読み進めることで、発電所騒動が後の大きな戦い――タッチベルの全国洗脳との衝突――にどう繋がっていくのかを想像できるだろう。乱世の理想は実現するのか、あるいはリシュリューの掌で踊らされる結末になるのか。物語の先は、まだ誰にも分からない。
(第12話・了)
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