神スキル【フリマ】で異世界成金生活〜買って売って仲間が増えて、気づけば英雄でした〜
☆ほしい
第1話 スキル【フリマ】と荒野の奴隷少女
俺は見知らぬ大地の上に立っていた。さっきまで自宅のリビングにいたはずが、いつの間にか草一本生えていない荒涼とした大地。
「……はあ? なんでこんなところに?」
目をこすっても夢じゃない。肌で感じる風も大地の乾いた空気も現実そのもの。
まるでラノベかゲームみたいな状況だが、これはどういうことだ?
とりあえずスマホを取り出そうとポケットを探ったが、そんなものは見当たらない。
代わりに、視界の右端あたりにモヤのような青い枠が浮かんでいる。
「なんだ、これ……?」
意識を向けると、その枠はパッと白いウィンドウに切り替わった。
そこには【スキル:フリマ】と文字が見え、さらにサブメニューのような項目が並んでいる。まるでECサイトの画面だ。
『初回ログインを確認しました。チュートリアルを開始します』
頭の中に直接響くような案内音声が流れ、俺は思わず硬直する。
視界には文字が並んでいて、どうやらこのスキル【フリマ】では様々なアイテムの購入・出品が可能らしい。
実際の取引には通貨としてゴールドやシルバーが使われるが、それらが無い場合は一時的に後払い枠も使える、と書いてある。
「なるほど。つまり、異世界版メ◯カリみたいなイメージか」
後払いが使えるのはありがたいが、枠には上限があるらしい。
最初はすごく低い額で、信用を高めることで上限が広がる仕組みだとか。
さらに【フリマ】を通して自分の所持アイテムを出品すれば、それが売れた分の代金はすぐに反映されるという。
――とりあえず、周囲に何もない場所では困る。最初に何ができるか確かめるか。
「まずは何か、食料でも……」
サイトを開こうとイメージすると、カテゴリ一覧が浮かび上がった。
食料、武器、防具、薬品、アクセサリ、雑貨……まるでネットショッピングのような豊富な品揃えだ。
だが、当然ながら何も買うためのゴールドがない。
後払い枠があるといっても、表示された初期上限は「ゴールド貨2枚相当」。
そこまで大きい金額ではないようだ。武器や防具を買うには心もとない額だし、何か稼がなきゃならないだろうな。
◇
とりあえず歩き始めたが、延々と広がる荒野。
いつか人里にたどり着くとは思うものの、もう少しまともな場所に出るまでどれくらい時間がかかるのか検討がつかない。
「参ったな。水もない。まさか遭難するのか……」
いや、待てよ。スキルの後払い枠で最低限の水と食料を買えるかもしれない。
ただ、あまりにも無駄遣いすると枠をすぐに埋めてしまう。
どうせ買うなら、どうにかしてこの世界で稼ぎを作れるアイテムを購入し、それを転売して利益を得たい。
半日ほど歩いたところで、ようやく遠くに木々が見え始めた。
小さな森のような景観で、その奥に村がありそうな気配がある。よし、そこへ向かってみよう。
◇
森を抜けると、視界が開け、簡素な柵で囲われた小さな集落らしきものが見えた。
人の気配がある。ここでなら宿や食事も手に入れられるだろう。
門番もいなさそうな村の入口から中に入ると、何人かの村人がこちらに気づいて訝しげな顔を向ける。俺はできるだけ穏やかに挨拶した。
「すみません、旅の者なんですが、ここに宿とかありませんか?」
「……宿かい? ああ、村のはずれに古い宿屋があるよ。でも金を持っているのかい? ここは安いが無料じゃないぜ」
「ええ、まあ……」
そう答えたものの、実際にはゴールドを持っていない。さて、どうするか。
俺はちらりと【フリマ】の画面を開き、何か売れそうなものがないか考える。
だが、俺の持ち物は着ている服くらい。何もない。
なんとか少しでも資金を手にしないといけないが、そもそも出せる商品がないのだ。
「あっちの奴隷商人が今、村外れで見世物をしてるらしいぞ。商談があるかもしれんし、行ってみたらどうだ」
「奴隷商人……か」
とりあえず情報を頼りに村の外れへ。
そこには幌付きの荷馬車が止まっていて、腰に鞭を下げた男が奴隷を品定めしているところだった。
何やら数人の男女が鉄の首輪をはめられ、縄で繋がれている。
俺は正直、奴隷と聞いて引いてしまう部分もある。
だけど、この世界では珍しくない制度らしい。
旅の護衛や屋敷の使用人として、奴隷を購入する者も多いとか。
もし俺がここで一人きりで生きていくのが難しいなら、奴隷を買って一緒に行動するのも一つの方法だろうか。
「おや、客人かな? お前さん、金は持っているのかい?」
奴隷商人の男が胡散臭い笑みを浮かべてこっちを見ている。俺は首をかしげつつ答えた。
「実物のゴールドはないんですけど、すぐに用意できるかもしれない……」
「はあ? どうやって用意するんだ?」
そう来るよな。俺は【フリマ】を起動し、何か、少ない後払い枠で買えるものを見つけ、それを転売して少しでも利益を作る方法を模索する。
たとえば「希少価値のある薬草」とか「モンスター素材」とかが安く手に入り、ここで高く売れるなら、すぐにゴールドを手にできるかもしれない。
ウィンドウの検索窓で片っ端から調べていると、「低ランク魔獣の爪」「一般薬草セット」など比較的安価だけど需要のある商品がいくつか出てきた。
「これだ……薬草セットを後払いで買って、すぐにこの村の行商人や調合師に売れば金になるかもしれないな」
俺はすぐに薬草セットを購入ボタンで買い、手のひらに浮かんだ光から袋いっぱいの薬草を受け取る。奴隷商人や周囲の村人が目を丸くしている。
「な、なんだ、それ?!」
「まるで物が突然出てきたぞ」
「俺のスキルで、ちょっとした魔法みたいなものです。気にしないでください」
薬草セットにはいろいろな種類が入っていて、傷薬や毒消しに使える葉っぱも入っている。
これを村人や行商人に売れば、一気にゴールドを手にできるはず。
早速村の中心部に移動し、薬草を欲しがりそうな人を探してみた。すると、病人の治療をしているという老婆が反応した。
「その葉っぱ、間違いなく良質な薬草だね! わしは今、町まで買いに行く手間を惜しんでいたところさ。もし譲ってくれるなら買い取るよ」
「もちろん。いくらで買い取ってもらえます?」
「そうさね……一袋銀貨10枚くらいが相場かもしれんが、今回のは質がいいし、まとめて買いたいから銀貨15枚で買わせておくれ」
薬草セットは5袋入り。つまり合計で銀貨75枚。それを村の相場換算すると、ゴールド貨にするとそこそこいい額になるはず。
銀貨100枚でゴールド1枚くらいが平均だとか。つまり、ほぼゴールド貨0.75枚分? とはいえ初期の資金としては悪くない。
「じゃあ、それでお願いします」
「助かったよ。わしもこれで病人を治せる。ありがとうね」
こうして、最初の取引で銀貨75枚をゲット。
後払い枠はゴールド貨2枚相当が上限なので、薬草購入にはゴールド貨1枚ほどを使った計算になる。
差し引きの利益はそれほど多くないが、とりあえずは実際の銀貨を手に入れたのが大きい。
これで宿代や食事を買えるし、奴隷商人との話も進めやすくなる。
◇
再び奴隷商人の場所へ行く。そこには数人の奴隷が並んでいた。
男奴隷は戦闘訓練を受けている者もいるようだが、俺はできれば人目を引かない控えめな仲間が欲しい。
そう思って周囲を見渡すと、柵の奥に縮こまったままの少女がいた。
ボサボサの髪にやせ細った体、まだ年端もいかないが、けなげに耐えている様子。
「ねえ、その子はいくら?」
「ああ? そいつは役に立たないよ。魔法の才能はあるらしいが、うまく扱えていないみたいでね。安く売ってやるよ。ゴールド貨1枚ってところだ」
ゴールド貨1枚……正直、今の俺が全部かき集めても銀貨75枚程度だから、足りない。
しかし、俺には【フリマ】の後払い枠がある。
すでに少し枠を使ったが、薬草の転売でアクティブに取引をしたおかげで、信用が若干上がっているらしい。
確認すると、上限がゴールド貨3枚相当に上がっていた。
「ゴールド貨1枚なら、なんとかなるか」
奴隷少女を買うと決めた。いや、奴隷のままよりは、いずれ解放してやりたい。
だが、とにかく一人では動きづらいこの世界。せめて仲間にすることで彼女を保護できるだろう。
「ゴールド貨1枚相当、ここで一部前払いして、残りは後払いで頼む。すぐに決済できるはずだ」
「へ? お前、さっきは金が無いと言ってただろうが……何か裏があるのか?」
「まあ、確認してみて」
そう言って【フリマ】の決済機能を操作すると、奴隷商人の前にふわりと金貨相当の光の塊が出現した。
しばらくすると、それが現実の金貨に形を変えて落ちてくる。
奴隷商人は目を丸くし、受け取った金貨を確認する。
「ま、まじか……ホンモノの金貨だ。なんだそのスキルは……」
「気にしなくていい。ちゃんと支払いは済んだはずだ」
「こりゃ驚いたが……まあいい。商売としては問題ない。ほら、こいつの首輪の所有者権限をお前に移すぞ」
そうして俺のもとに連れてこられた少女は、怯えるように俯いている。
汚れた服のまま、細い腕や足が痛々しい。
「これからは俺があなたを連れて行く。まずはこの首輪を外してやりたいんだが……」
「ダメダメ。奴隷契約は専用の道具がないと解放できない。もしお前が勝手に壊そうとすれば、少女の身体に反動がくるぞ」
「なんだって……」
そんな危険な仕組みになっているとは。
簡単にはずすには、専用の魔術師か教会で手続きが必要らしい。
それには高額な費用もかかるらしく、今の俺にはまだ厳しい。
「仕方ない。とりあえず今はそのままか……。ごめんね、君の意志を聞かずに勝手に買っちゃった」
少女はか細い声で返事をする。
「い、いえ……今までよりは楽になれそうです。ありがとうございます……」
そう言う彼女の瞳は怯えながらも、どこか安堵の色があった。
きっと奴隷商人の下にいるよりはマシだと思ってくれているのかもしれない。
俺はこの子を守りながら、いつか自由にしてやる。
そんな決意を胸に、少女の手を引いて村へ戻った。
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