こちら薬学部百合学科~薬学部に通う女の子2人が付き合ってルームシェアするお話~
ユリスキー
プロローグ~これは、私たちがお薬になるまでの物語~
「朱音ちゃん、ここ間違ってる。これはsp3混成軌道じゃなくてsp2だよ」
「えっ?これもsp2?」
「困った時はベンゼン環を思い出して。ここもあんな感じの平面構造になるの」
「あー、確かにそんな形になりそう。うう……由香莉さん、いつもありがとう!」
「ふふ、いいのよ。私、人に教えるのが好きだから」
今、私の部屋で有機化学の課題を教えてくれているのは相葉由香莉(あいばゆかり)さん、薬学部の一年生で私の同級生だ。腰まで届くサラサラのストレートヘアが特徴でいつもいい匂いがする。
おしとやかな性格で、言葉遣いや所作には常に品がある一方で、年齢差を感じさせない親しみやすさも持ち合わせており、私はそんな彼女のことが……好きだ。
私は現役で合格したので相葉さんより二歳年下ではあるが、浪人生が多い医学部・薬学部ではよくあることなので気にならない。現にこうして並んで勉強していても歳の差を感じることなくお互いタメ口で会話している。
「あー、もう疲れた!ちょっと休憩しよっ!」
私がそう言って机に突っ伏すと、由香莉さんは穏やかな声で言った。
「そうだね。キリのいいところだし、ここで一休みしようか」
「じゃあ、何かお菓子持ってくるよ」
私は立ち上がろうとしたが、由香莉さんは少し躊躇いがちに言った。
「……お菓子もいいけど、その前にお薬が欲しいな」
「お、お薬ね。うん……わかった。じゃあ、目、閉じてくれる?」
私はそう言いながら、ドキドキする気持ちを抑えた。
「ん……」
由香莉さんは素直に目を閉じた。その長い睫毛が、白い頬に影を落としている。
(相変わらず綺麗な顔……)
そう思いながら、そっと由香莉さんの頬に触れた。その滑らかな感触に、心がときめく。そして、その唇に指先を触れさせ、そっとキスをした。
「ん……朱音ちゃん、もっと……」
続きを催促する由香莉さんの声が、危険な薬のように私の脳細胞を侵してくる。血液脳関門って何だっけ……?思考が溶けていく。
「ねえ……朱音ちゃん、もっとしていい?」
「……いいよ、由香莉さん……」
そう言って由香莉さんは私の頬に手を添える。その瞳は、熱を帯びて潤んでいる。
これは何でもない、ごく普通の物語。
田舎から出て来た女の子と都会の女の子が出会って、恋をして、付き合って、一緒に暮らしていく、ただそれだけの物語。
どこにでもありふれた、ごく普通の物語。
つけくわえることがあるとするならば――
これは私たち、柳朱音(やなぎあかね)と相葉由香莉(あいばゆかり)が、お互いのお薬になるまでの物語。
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